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終章・そして、それは彼女に受け継がれ……。 28 【強制終了版】

 休憩が終わり、再びヒメヅルの説明が始まる。

 ヒメヅルは、おかしな物体の画面に映るデータを確認すると話し出す。

「この世界の最初の姿から説明します。この世界にはエルフと魔族、そして、エルフと人間の遺伝子を掛け合わせた人間が存在していました。人間には六つの文化を与え、ドラゴンヘッド、ドラゴンチェスト、ドラゴンウィング、ドラゴンテイル、ドラゴンレッグ、ドラゴンアームと各地に分けました」

 リースが手をあげる。

「この世界が竜の形をしているのは?」

「あまり理由はありません。第138実験場というのが言い難いので、我々が竜の世界と言い易いように創っただけです。他の実験場も動物や空想上の生き物の形をしているものが沢山あります」

「そういうことだったんだ。何か偶然できた大陸にしては、不思議な形をしているって思ってた」

 ヒメヅルは頷く。

「続けます。エルフには人間の世界の一部に隠れ里を用意し、魔族にはこの世界の真裏に大陸と砂漠と豊かな土地を逆転させて過酷な環境を与えています。この世界は水平な面を挟んで二つの世界が存在しているとも言えます。そして、この管理者は、それ以外にある物を植えつけました」

「「「ある物?」」」

 ヒメヅルは一呼吸空けると、苦々しく話し出す。

「差別です。自分達に近い人間を頂点にエルフと魔族を人間よりも下等な生物と思い込ませたのです」

「思い込ませるなんて出来るの?」

「簡単です。一番初めの存在にそう認識させれば、その認識のまま世界に間違った差別が広がっていくのですから」

 エルフと知り合いでもあるリース達には、何とも言えない後味の悪さが残る。

「一体、何のための差別だったの?」

「魔族を創り出すためです。エルフと魔族……。言い方は違いますが、丸っきり同じ種族なのです。エルフという生き物は穏やかで欲求が薄く、温和な性格をしています。そのエルフを闘争心と欲求を強めた存在にしたら、どうなるのか? それを実験するため、差別し苛酷な環境を与えたのです。結果、人間界のエルフは、その状況を受け入れて隠れ続け、この世界で魔族と呼ばれるようになったエルフは、我々が確認していない闘争心と、そこから生まれた魔法の性質による髪の色の変化が生じました。更に、魔力を結晶化させて体に石のように蓄積させるという状態を作り出しています」

「途中から管理者の性格が変わって非道なことをし出したわけじゃなくて、元からエルフを実験することが目的だったんですね?」

「そのようです。記録のデータを見ると、戯れにモンスターを創り出し、魔族から引き抜いた魔力の結晶化した石を人間に与えて、何をするかを観察していたようです」

「それが勇者の話の始まりか……。どうしようもないわね……」

「しかし、ここで大きな誤算が生まれるのです」

 リース達は呆れていた状態から少し真剣な顔になる。

「ここの世界の人間が、見たこともない武器を造り出したのです」

「まさか……伝説の武器?」

 ヒメヅルは頷く。

「その通りです。一部の人間が管理者の戯れで創ったモンスターを倒すために、未知の金属と白剛石の合金に魔力の結晶化した石を埋め込み、勇者と呼ばれる人間に持たせて倒してしまったのです」

 リースがヒメヅルに尋ねる。

「未知の金属って、オリハルコンのことだよね?」

「はい。何故、そのような金属が存在するのか分かりませんが、データを見る限り、我々の世界には存在しません。自分の都合のいいように創った世界の構成素材に、何らかの確認できていない要素が加わり、偶然に発生した物質だと思います」

 リースが不安そうに手をあげる。

「……えっと、それが原因で、この世界が危機に曝されるなんてことないよね? オリハルコンを奪いに攻め込んで来るとか?」

「有り得ません。私が帰還する際に、この世界の情報をいただければ、同じ物質を創り出すことも可能なはずです」

「よかった……」

「先ほども言いましたが、我々は、そこまで非道な人間ではありません」

「分かってるけど……。前任の管理者のせいで印象悪いんだもん」

 ヒメヅルは肩を落とす。

「それを言われると言い訳のしようもありません……」

「責めてるわけじゃないから……。ほら、続き続き!」

「はあ……」

 気を取り直すと、ヒメヅルは続ける。

「その後、管理者自ら研究したみたいです。勇者をドラゴンレッグに招き入れ、この世界にない文明を見せることで神のような存在を演じ、伝説の武器を奪いました。その結果、起こったのが魔族の世界での伝説の武器による大虐殺です」

「何よ、それ?」

 エリシスは機嫌悪そうに聞き返した。

「魔族の世界では、伝説の武器が出来ると魔族の世界で大虐殺が起き、伝説の武器の完成度を確認してからドラゴンレッグに勇者が旅立つとされてきました。一方、人間の世界ではモンスターを倒したあと、勇者がドラゴンレッグに向かうとなっています。しかし、事実は人間の国に放ったモンスターを倒すため、人間が伝説の武器を造り、ドラゴンレッグに向かった勇者から伝説の武器を取り上げ、その武器が何なのかを研究し、伝説の武器の力を見るために大虐殺をして実験していたようです」

 ユリシスは胸に手を置き、心痛な面持ちで首を振る。

「間違っています……。そんなの神様じゃない……」

「ええ、その通りです。また、人間の世界と魔族の世界に伝わる話に違いがあるのは、魔力を結晶化した魔族の核が抜き取られて数年で大虐殺が起こることからだと思います。魔族達は核を抜かれた者が現われるのを不吉の予兆としていました」

「この世界は、私達が知らないところで、本当に壊れていたんだ……」

 人間の世界に伝わる魔族の話と大きな違いがある。隠されていた世界の秘密は、あまりに残酷なものだった。

「しかし、それだけの惨劇を齎したにも拘らず、結局、前任の管理者は武器に用いられている金属が何なのか分かりませんでした。そもそも、人間が何処からその金属を見つけてきたのか……。もしかしたら、世界を創った時に僅かな量だけ生成された特殊な金属なのかもしれません」

 リースは難しい顔になる。

「そんなことはないと思う……」

「どうしてですか?」

「多分、管理者が死んじゃった後だから記録が残っていないだけだと思うけど、アルスとアルスのお爺ちゃんがオリハルコンの武器を造ったのって、八十年前だもん。アルスのお爺ちゃん、意識して見つけてきたと思う」

「そうなのですか?」

「うん」

「しかし、一定の大きさがあればセンサーに反応があるはずなのですが、センサーに反応するのは伝説の武器に姿を変えたものだけです」

「じゃあ、オリハルコン自体が、何かの合金っていう可能性は?」

「ないですね」

「……ごめんね。そうすると、よく分かんない」

「気にしなくて大丈夫です。そこを調べるのは、我々の方が得意ですから。戻ったら調査してみます」

「うん」

 ヒメヅルは用意されていた飲み物を一口啜る。

「話の続きになりますが、その後、管理者は三度モンスターを創り出しています。ドラゴンテイル、ドラゴンアーム、ドラゴンウィングで伝説の武器というものが造られ、勇者がモンスターを倒し、ドラゴンレッグで管理者が武器を確認したあと、世界に一定の安定した時間を与えています。そして、管理者は、いずれの時もオリハルコンの入手先を知ることが出来なかったようです」

 エリシスが腕を組む。

「何で、そんな回りくどいことをしてんのよ?」

「誘導し易い状況を作り、神を気取りたかったのでしょう。モンスターが現われた時に人間が伝説の武器を使って世界に平和を齎すという状況を作り、利用し、そのモンスターを倒した褒美に平和な時間を与えて神を語る。……管理者の魔法とは、その時に自分しか使えないものを見せ付けるための人間達に知らしめる手段なのです」

 ユリシスがようやく管理者の魔法の出所を理解する。

「その幾つかが伝わって、クリス先生やエルフの方々が埋もれていた歴史から発掘したんですね」

 ヒメヅルがユリシスに目を向ける。

「非常に不思議でなりません」

「何がです?」

「管理者に差別を根付かされているのに、貴女は人間でありながらエルフとも知り合いだからです」

 ユリシスは微笑む。

「わたしだけじゃありません。姉さんもリースさんも知り合いで友達です。わたし達が知り合った経緯は、お話が終わった後で」

「分かりました」

 ヒメヅルは頷くと、続きを話し出す。

「神の力を知らしめるため、管理者は魔法についても幾つかの仕組みを入れています。本来、魔法の使えない人間が魔法を使えるのは、エルフの遺伝子を取り入れたからというのは説明しました。そして、その仕組みについては、我々の世界で、ある程度研究が進み、一定の補助が出来るようになっています。どの世界にも補助システムというものが存在しています」

「それが呪文による魔法ですね?」

「その通りです。少し詳細に話すと、術者の魔法資質に見合うレベルというものを設けたのが攻撃魔法。更に魔法を使えるようになったことで、魔力を取り込める体になった人間に作用するのが補助魔法。そして、呪文を使う限り、管理者の制御下であることを利用したのがレジストと呼ばれる魔法をキャンセルするものとなります」

 エリシスがユリシスに視線を送る。

「あんたの予想通りだったわね」

「はい」

「予想?」

 ユリシスがヒメヅルに説明する。

「このドラゴンレッグに入るためには三つの戦線を越えないといけないのですが、第三戦線の敵はレジストの呪文を詠唱して魔法が効かないのです。そこで、第三戦線は無詠唱魔法で切り抜けたんです」

 リースが付け加える。

「最後に戦った獣は、魔法が効かないから伝説の武器の魔力の結晶化した石の力を使うための戦線……みたいなことを言ってたよ」

「貴女達の話も、聞くと長い話になりそうですね」

 エリシスが頷く。

「そうなるでしょうね。話の流れからすると、あんたは管理者の記録を読み取るのは見慣れているから理解が早いみたいだけど、管理者ってのが死んだ後の、記録の残っていないものは理解できていなさそうだもんね。それ以降の知らないことは、あたし達から聞かないと訳分かんないんでしょ?」

「はい」

「まず、あんたの方から話しちゃってよ。あたし達の話は、管理者が死んでからの出来事だから、順を追って話していきましょう」

「分かりました」

 ヒメヅルは大きく息を吐いて、椅子に体重を預ける。

「しかし、さすがに話し疲れますね。あまりに前任の管理者が手を出していたので、説明するのも一苦労です」

「まあね。でも、何で、こんなに世界を変えちゃったのかしらね?」

「最初は、ただの暇つぶしだったのでしょうが、伝説の武器を造られたのがプライドを傷つけたのでしょう。下等な存在と思っていた実験場の人間が、自分の知らないもので自分の創ったモンスターを倒してしまったことが原因だと思います」

「神を演じようとした男だもんね。自分が一番じゃないと気が済まないわよね」

「もう少し補足するなら、金属の研究する分野に強かったはずなので、知らないものがあるというのが許せないというのもあったと思います」

「でも、モンスターなんていうのも創るんだから、別の分野も強いんじゃないの? どんな分野があるか、さっぱりで適当に言ってるけど」

「他にも得意分野はありましたが、生物学とは無縁のはずです。それは、この世界を創る機能に備わっている機械の性能です。そういうものを創り出すソフトウェアもインストールされています」

「専門用語が分かんない……」

 ヒメヅルは少し悩んだあと、右手の人差し指を立てる。

「え~っと、さっきの端末から、この世界の機械に命令を出して創らせることが出来る……ということで分かりますか?」

「そういうもんだと理解する……」

(でも、これで少し分かったわ。こういう訳分かんないものを総合的に理解するなら、時間が必要だって……)

 エリシスは大きく息を吐き出す。世界を創るだのなんだのと、既に神様の領域な気がしていた。

「続きを話していいですか?」

「ええ」

「管理者は、結局、三度の機会でオリハルコンの所在をつきとめることが出来ませんでした。そこで、今度は自分で人間を操作して自分の理想とする武器を造らせようとしました。高い知能と屈強な体、魔法を受け付けない毛を持たせた、人型の黒い毛に覆われたモンスターに炎の力を宿した伝説の武器を造らせるように命令したのです」

 リース達の顔が険しくなる。

 ここから、リース達の人生に大きく関わってくるからだ。

「そして、このモンスターにある程度の権限を与え、暫くして管理者は亡くなっています」

 その言葉に、リースは最後に戦った獣を思い出す。

「あの獣は管理者の死を知らないで動き続けていたんだ……」

「そうなります。ここ以降は、データが整理されていなくて詳細は分かりません」

 リースは俯きながら溢す。

「私、最後の戦いのあと、獣に管理者に一言言ってあげるって約束したけど、その約束は始めから果たされることのないものだったんだね……」

「そうなりますね。……そして、あとは、貴女達から話を伺うだけです」

 リース達は頷いて返す。

「本当はエルフの皆に話を聞いた方が詳しい内容は分かるけど、この真実は、皆に伝えたくない」

「そうね。何も知らない方が幸せなことがあるものね」

「わたしも、これ以上、この世界を生きる者達を巻き込みたくありません」

 ヒメヅルは静かに頷く。

「私に我が侭を言う権利はありません。皆さんの口から語られることだけを真実と受け止めます」

「ありがとう」

 リース達は、自分達と獣との因縁を話し出した。

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