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終章・そして、それは彼女に受け継がれ……。 26 【強制終了版】

 一日半が過ぎる――。

 おかしな物体の話し方や話す速度のせいで、質問は、かなりの時間を取ることになってしまった。その間の衣食住は前任の管理者も居たこともあり、全て整っていたのが救いだった。

 衣食住の手伝いをしてくれたのは、おかしな物体の仲間。それぞれに役割があるようで、料理を運んで来る者、洗濯をしてくれる者、掃除をする者など、町の宿屋よりもサービスは良かった。


 …


 再び管理者の部屋――。

 最初に出会ったおかしな物体が、管理者になってしまったリースの付き人のように待機し、リース達は聞き出した情報を整理していた。

「正直、この子の話を分かるようにするのに苦労して、情報の全体は丸っきり分からない……」

「でも、全てを解決する方法をようやく手に入れました」

「管理者の居た世界の人間の召喚。こちら側から強制的に禁止していた、この世界とあっちの世界の出入り口を解除して、向こうの世界の人間を呼び出して、もう少し会話の成立する誰かを呼び出せばいいってことよね?」

 リースとユリシスは頷く。

「で、今から召喚するわけなんだけど――」

 エリシスは、おかしな物体に目を移す。

「――あんた、本当にちゃんと出来るんでしょうね?」

『シッパイスルリユウガ ワカリマセン。キカイトハ アタエラレタセイノウヲ チュウジツニ ジッコウサセルモノデス。ソレコソ スンブンノクルイモナクデス。ギャクニイエバ アタエラレタコトイガイハ ドンナコトヲシテモ デキナイトイウコトデス』

「機械ねぇ……。ハンターの営業所のあれも、機械だって言うし……」

「ま、まあ、今はそれしか方法がないんですから」

 リースは、おかしな物体にお願いする。

「じゃあ、こっちと向こうを、その……ゲート? っていうので繋いでくれる?」

『リョウカイシマシタ』

 おかしな物体は管理者の部屋の片隅にある小さな画面とボタンのある台で、ゲートの解除を始め、数分でボタンを押すのを止める。

『オワリマシタ。アトハ ムコウノカンリシャガ キヅクノヲ マツダケデス』

 リース達はゲートと呼ばれる扉を睨みながら待つ。

「…………」

 ただ待つ。

「…………」

 待ち続ける。

「…………」

 そして、ゲートの扉を睨み疲れたエリシスが言葉を漏らす。

「ちょっとした疑問なんだけど……、直ぐに来ないんじゃない? まず、ゲートが繋がったのに気付かないといけないし、食事中とかだったら直ぐに来れないんじゃない?」

「それどころか、繋がったのが夜ですと朝起きてからということも……」

「出かける用意をしているということも考えられるよね?」

『キホン24ジカン タイキノハズデスガ……』

 おかしな物体がリース達の言動に困っている。

「直ぐに来ないわよ」

「そうだね」

「一休みしましょうか?」

 リース達が『待っていても仕方がない』と踵を返した瞬間、ゲートの扉が開いた。

「「「直ぐ来たっ⁉」」」

 リース達が慌てて振り返ると、ゲートに繋がる扉が光っていた。

 そして、現われたのは、見たこともないデザインの黒い服に身を包んだ、黒目、黒髪の少女だった。


 …


 光沢のある艶やかな黒髪を靡かせて、別世界の管理者の少女はリース達を見て言葉を発した。

「実験場の住人がゲートのロックを解いた……ということですか」

 警戒心の解けないリース達に対して、少女は落ち着いていた。ゆっくりと両手をあげて話し掛ける。

「危害を加える気はありません。出来ることなら、会話をさせてください」

 相手が同じ歳位の少女だと判断すると、リース達は警戒を解き、管理者になってしまったリースが代表する形で話し掛けた。

「実は全然分からないことだらけで……。この世界を守るために、力を貸して欲しいの」

 リースは自分の胸に手を当てる。

「私は、リース・B・ブラドナー」

 続いて、エリシスとユリシスも前に出る。

「あたしは、エリシス・バルザック」

「わたしは、ユリシス・バルザックです」

 黒髪の少女は安心したように笑みを浮かべる。

「名乗るのが遅れてしまったことを許しください。私の名は、ヒメヅル・アサアラシと言います」

 リース達は名前を確認したと頷いて返すと、質問を繰り返す。

「力を貸してくれる?」

「あたし達だけじゃ、どうにもならないのよ」

「そこの人に色々と聞いているんですけど、専門用語などが多くて理解が進まなくて」

「こちらとしても、貴女達が無茶をして機械を壊すようなことにならなくて安心しています。貴女達の行動は正しかった」

 ヒメヅルは大画面の前で砂になっている、前任の管理者を見て溜息を吐く。

「少し私に権限をいただけませんか? 今は別の方が管理者になっているはずです」

 リースが手をあげる。

「勝手に、管理者にされちゃった」

「では、私にその端末を操作する許可をいただけませんか? 信頼関係の気付かれていない状態で、いきなりこんなことを言っても信じて貰えるとは思えませんが」

 リースは、おかしな物体に質問する。

「勝手に触らせて、この世界が壊れたりしない?」

『ダイジョウブデス。ナニゴトニモ サイゴノケッテイハ カンリシャノアナタノ ショウニンガ ヒツヨウデス』

 リースは頷くと、ヒメヅルに顔を向ける。

「じゃあ、どうぞ」

「感謝します」

(中々、冷静な人間が管理者になったようですね)

 ヒメヅルは大画面に近づき、管理者の端末を操作する。

 暫くすると管理者の部屋におかしな物体の仲間が現われ、端末を操作するための椅子の掃除を始め、前任の管理者の死体を掃除して行った。

 それが終わるとヒメヅルは席に座り、改めて端末を操作し始めた。大画面には幾つものウィンドウが開き、過去のデータが流れ始めた。

「この世界は約二千五百年の間、私達の世界と交信を閉ざしていました。そして、その原因が実験場側からのロックだと分かり、放置され続けてきました」

「二千五百年……」

 途方もない時間に、リース達は眩暈を覚える。

「今、そのロックされた理由を蓄積されたデータから、大まかな流れを把握しながら検索しています」

 エリシスは大画面に映し出された映像を見ながら、呆れて話し掛ける。

「あんた、この滝のように流れてる文字を全部理解してんの?」

「早く流れているのは詳細なデータです。別のウィンドウ――ゆっくり流れている小さな四角い画面に概略したものを流しています」

「そんなことが出来るの?」

「我々の目的は観察することですから、そういう処理を機械にさせないと膨大な量のデータから目的のデータを見つけることが出来ません。ただ二千五百年分の歴史を概略とはいえ、確認しなければいけないので、少し時間が掛かっています」

「あたしらは、一日半、そこの変なのとやり取りするのが精一杯だったわ」

「十分です。そこから我々の世界とのゲートを繋いでくれたのですから。寧ろ、分からずに端末のボタンを滅茶苦茶に押したり、破壊したりしないでくれて良かったです。大事な機能が止まって、この世界そのものが消滅するようなことになりかねませんでしたから」

「消滅って……」

(結構、紙一重だったんじゃない……)

 リース達は冷や汗を掻いて、如何に危ないものだったかを認識する。

 しかし、よく考えれば世界を創ることが出来るのだから、逆に壊すことも可能なはずだ。実際、おかしな物体に初めて会った時、世界を何もない状態にするか聞いてきていた。

 ヒメヅルが端末を操作しながら、リース達に話し掛ける。

「大体の流れは掴めてきました。概略の中身の話は場所を移してから話しますが、簡単に言うと、この世界は一人の管理者の身勝手が生み出した世界のようです」

「身勝手?」

「はい。彼は管理者としての仕事を放棄し、こちら側の世界を思い通りにしたくてゲートを完全に閉じてしまったようです」

「神様になりたかったとでも言うわけ?」

「その通りです」

「え?」

 エリシスは言葉を止める。

「彼は、ここの世界を自由に出来る、唯一の存在になるためにゲートを閉じたのです」

 エリシスに代わり、ユリシスがヒメヅルに追求する。

「そんな権限を与えていたのがいけなかったんじゃないんですか?」

「そんなとは――ゲートを閉じる権利ですか?」

「はい」

「必要なのです。万が一、予想だにしない事故が起きて、こっちの世界と私達の世界が繋がったままだと危険なこともあるのです」

「例えば?」

「未知の病原菌が発生し、それが私達の世界に入って来てしまう……などです」

「びょ、病原菌?」

「はい。こちらの世界は、私達と違う成長をしていますので、そういったものが発生している可能性もあります。この建物を隔離して、間違いなく我々の世界を守るつもりですが、管理者が病原菌に侵された時、我々の世界からではなく実験場側から隔離をする処置も必要なのです。もちろん、他にも隔離する例はありますが、今は、ここでやめておきます。そして、そういったことを確実に守れる者を選んで、実験場の管理者にしたつもりなのですが、彼は自身の欲望に耐えられずにゲートを閉ざしたようです」

 ヒメヅルは端末を叩き終わる。

「暫く詳細データの整理に時間が掛かるので、このままにさせてください。そして、概要をお伝えします。ここでは、私しか座れませんので、場所を変えませんか?」

 リース達は言われるままに頷いた。

「では、その機械に会議室に案内するように申し付けてください」

「あ、うん。会議室、案内してくれる?」

『コチラデス』

 おかしな物体は、先に進み出した。

「では、行きましょう」

 ヒメヅルが先に歩き出すと、リース達も後に続いた。

「何かリースが管理者のはずなのに、完全にあっちのペースよね?」

「あれは無理だよ……。あの人、分かって機械っていうのを使ってるもん」

「そうですね。わたし達に有利な要素がありません」

「あの人に新しい管理者をして貰うのがいいのかな?」

 まだまだ疑問と問題は残ったままだった。

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