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終章・そして、それは彼女に受け継がれ……。 14 【強制終了版】

 翌日――。

 リース達は砂漠を越える装備を身に着け、ドラゴンレッグに向かう砂漠へと足を踏み入れていた。砂漠を越えれば直ぐに第一戦線での戦いが始まる。砂漠を越えるまで二日、第一戦線を越えるまで二日、合計四日の間は休憩地がないことになる。

「この砂漠越えっていうのが、毎回、面倒臭いのよね」

「まあ、これがあるから、ドラゴンレッグから容易に砂漠を越えて攻めて来れないというのもあるんですけどね」

「一長一短か……」

 エリシスは汗を拭い、歩き続ける。

 そんな中、リースは前置きもなくエリシスに話し掛ける。

「ねぇ、エリシスの槍について教えてよ」

「どうしたの? 突然?」

「砂漠の話をすると気が滅入るから、三年の間に手に入れたものを話しながら進みたいなって」

「それはいいわね」

 エリシスはリュックサックに結わえ付けていた槍を取る。

「これ、あたし達の国の伝説の武器で――」

「ストップ!」

 ユリシスが声をあげた。

「何で、いきなり国の宝の話が出てくるんですか!」

「だって、これがそうなんだもん」

「どうして……」

「王様に話して、拝借してきたのよ」

「おかしいです! 何で、王様が姉さんなんかに!」

「『なんかに』って、何よ? 事情があるから、合法的に提供して貰ったんじゃない」

「本当でしょうね⁉ 本当に合法的なんでしょうね⁉」

「信用ないわね……。少し顎で使って、槍の使い方を教えさせただけよ」

 ユリシスは額に手を置いて項垂れた。

「王様を顎で使った……」

「うるさいわね。世界の危機に王様だって協力的だったわよ」

「世界の危機を利用して、槍を奪い取ったんじゃないんですか?」

「してないわよ! 大体、この槍は折れてて使えなかったんだから!」

「え?」

「アルスのくれた棒があるでしょ? 今、槍にくっついてる柄。アルスは、こうなることを見越して、棒に伝説の武器を操作する月明銀の仕組みを組み込んでいたのよ」

「じゃあ、アルスさんが考えていたんですか?」

「そうよ。ご丁寧に槍の再生に必要な鉱石をあたしに持たせていたの」

「あれって、そのためのものだったんですか」

「アイツ、本気だったのよ。本気で世界を守ろうとしていたの」

「アルスさん……」

「それに棒術じゃ限界があるって考えてたみたいよ」

 ユリシスは、ここには居ないアルスの想いを感じていた。

 リースがエリシスの槍を見ながら質問する。

「エリシスは槍なんて、よく扱えたね?」

「あたしの覚える順番が逆なんだけど、本来、棒術ってのは槍術の延長だからね。棒術を覚えていれば槍術を覚えるのに役立つのよ」

「その逆っていうのは?」

「棒術ってのは、槍が折れて残った柄で戦う戦術が発展したものなの。そして、あたしが一緒に覚えてた体術は、槍の懐に潜り込まれた時の接近戦用のものなのよ」

「そうなんだ」

 ユリシスが槍を指して、エリシスに質問する。

「姉さん、それが伝説の槍なら特殊能力があるんですよね?」

「ええ。見たい?」

 リースとユリシスが頷く。

 エリシスは槍の鞘をリュックサックのポケットに押し込み、槍を一回転させて突き出す。

「押し流せ!」

 突き出した槍は、砂漠の前方に鉄砲水のような激流を撃ち出した。

「「凄い……」」

「この槍の能力は水の操作よ。そして、今の能力は全然役に立たないわ」

「「は?」」

「砂漠の真ん中で戦うならいいけど、平地でこの技を使ったら、ぬかるんで戦えないでしょ?」

「言われてみれば……」

「大体、この槍は海で戦うためのものだし」

「そうなんですか?」

「ドラゴンアームの伝説の勇者が海龍と戦う時、大波や渦潮を起こす海龍と戦うために船を安定させる必要があったのよ。暴れた海に槍を突っ込んで海を鎮めて戦うの」

「海戦用の槍なんですか?」

「そうよ」

「陸上では?」

「ただの頑丈で切れ味のいい槍ね。ドラゴンアームの勇者が返り討ちに合うわけよね」

 ケラケラと笑うエリシスとは反対に、リースとユリシスにズーンと黒い影が落ちた。

「た、確かに普通の槍より凄いんですけど……」

「ほとんどの能力が意味がないって……」

 ユリシスは質問を続ける。

「他に使い道はないんですか?」

「戦闘向きなのは、血糊で切れ味が落ちないってところかしら? 槍から水が出るから、血が付着するってことはないわね」

「何か微妙……」

「まあ、欲しいのは能力じゃなくて技術だから。頑丈で切れ味が保たれる武器は、扱う者としては理想の武器よ」

「そうだね」

 エリシスは自分の話が終わると、リースを見る。

「で、リースは?」

「私?」

「何をしてたのよ?」

「レイピアの使い方の習得だけ。他は今まで通り。通常時は小太刀と魔法を使っての修行だよ」

「あんまり変わってないわね?」

 リースは腕を組んで難しい顔になる。

「う~ん……。というか、アルスの教えてくれたものが元々特殊だったんだよ。間違い探しとか、そういうのを普通はしないらしいから」

「でしょうね」

「特に自分自身を間違い探しするなんて、戦う上ではあまり必要ないらしいし……。それは斬れ過ぎる剣で自分を守るためのものだったんだ」

「知らずに習得させられてたってことか。アルスもそうだけど、リースも素直だからね」

「でも、アルスは気付いていたかも。私は、お爺さんに教えて貰って知ったけど、アルスは大剣の中にあったレイピアの正体に気付いていたんだから」

「お爺さん?」

 首を傾げるエリシスに、リースが補足する。

「私が戦い方を教えて貰った人。元テンゲン」

「あんたこそ、凄い人に教えて貰ったんじゃない」

「うん。でも、アサシンの技が廃れていたから、王都の中心から離れたところに一人で住んでた」

「そんなんなっちゃったんだ」

「だから、私が最後の技を受け継ぐ者になるかもしれないって」

「寂しいわね」

 少し寂しそうな雰囲気になったところで、ユリシスがリースにフォローを入れる。

「でも、わたし達が獣を倒せば、アサシンの力を世界に知らしめることになりますから、再びアサシンの技が見直されるかもしれませんよ?」

「だといいな」

 リースはドラゴンテイルに居る老人を想ったあと、ユリシスに目を向ける。

「最後はユリシスだね。色々と覚えたんでしょ?」

「はい。基本魔法が二重詠唱になりました」

「使えるレベルは?」

「全部習得しましたよ」

「さすが」

「まあ、習得させられたとも言いますが……。エルフの皆さんが、あんなにドSだとは思いませんでした……」

 エリシスはユリシスの反応に片眉を上げる。

「何があったのよ?」

「正直、途中で何度か魔法が嫌いになりました……」

 ユリシスは乾いた笑いを浮かべている。

「それって、クリスさんの影響なんじゃないの?」

「多分……」

「でも、お陰で魔法を沢山覚えたんでしょ?」

「はい。戦場を焦土に変えて見せます」

「危ないわね……」

 リースは苦笑いを浮かべて、ユリシスの腕を指差す。

「その長手袋の篭手は、何のためなの?」

「結局、最後は自分を守れるのは自分ですから、姉さんやリースさんに四六時中守って貰うわけにはいきません。先生は、イオルクさんと一緒に接近戦でも戦ったと言っていました。そして、エルフの皆さんに防御方法と走りながらでも詠唱できるように体力を身につけるように言われました」

「じゃあ、その長手袋の篭手は……」

「接近戦での最後の盾です。ケーシーさんが造ってくれました」

「そうなんだ」

 エリシスは顎に手を当てる。

「話を聞いて思ったんだけど、あたし達の受け継いだものって、世界中から持ち寄ってるわよね? オリハルコンのレイピアはドラゴンヘッド。魔法はドラゴンウィング。槍はドラゴンアーム。小太刀はドラゴンテイル」

「本当ですね」

「世界中から集まってる」

「遠い過去から、ここに集約してる気がするわ」

「そういう話を聞くと、勝てる気がしますね」

「うん、負ける気がしない!」

 エリシスは腰に手を当て直す。

「大きく出たわね? あの獣に勝てる自信があるの?」

「あるよ」

 リースは、あっけらかんに答えた。

「そんな簡単に言っていいの?」

「だって、私が習得したのって誰も知らない技術だもん」

「それにしたってよ」

「簡単に言おうか? エリシスは、その伝説の武器が切断されるって考えられる?」

 エリシスは槍に目を移す。

「思えないわね」

「オリハルコンのレイピアは、それを紙のように切断すると思うよ」

「……それが本当なら、確かに知らない技術だわ」

「でしょ?」

 リースは自信に満ちた顔で微笑んだ。

「あたしも勝てる気がしてきた。切り札が言い切るんなら間違いないでしょう」

 エリシスは頼もしくなったとリースの肩を叩く。

「昔は、頭に手を乗っけられたのに」

「いいじゃない。これで、皆、対等になったみたいで」

「そうね」

「全部終わったら、お酒とか飲んでみようよ」

「お酒は二十歳になってからです」

「固いわね~」

 リース達は、久々の仲間同士の砂漠越えを楽しんでいた。過酷な環境でも、やはり三人揃えば大した苦難にはならないのだった。

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