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終章・そして、それは彼女に受け継がれ……。  5 【強制終了版】

 十日後――。

 数体のモンスターを倒し、時には全力で逃げて、リースとエリシスはドラゴンウィングを抜けて、ドラゴンチェストの砂漠の手前の町まで辿り着いていた。

 また、ここに到着するまでの途中の町々で、復活したモンスターの特徴が入ってきた。

 ワーウルフ(人狼)…大人の男ぐらいの大きさで素早い、狼と人間を合わせたようなモンスター。戦うスタイルは、爪と口の牙による噛み付きを武器とする。

 リザードマン(蜥蜴男)…大人の男ぐらいの大きさで、蜥蜴と人間を合わせたようなモンスター。戦うスタイルは、固い鱗で身を守る守備力重視のスタイル。刀剣類を所持している固体が目撃されている。

 オーガ(鬼)…身の丈は大人の一・五倍を超え、角が生えている以外、ほぼ人と変わらないモンスター。戦うスタイルは、厚い筋肉により、力、防御力が強化された力押しのスタイル。雑な造りの武器を持ち歩いているのは、リースとエリシスも目撃している。

「――と、いうのが、大体の情報ね」

「ワーウルフが攻撃力を強化したモンスター。リザードマンが守備力を強化したモンスター。オーガは、その両方を合わせて割った感じのモンスター」

「そして、大きく変わっていたのが武器よね」

「剣やレイピアが消えて大剣。手斧が戦斧」

「モンスターの攻撃に耐えれるように頑丈に……。よりダメージを与えるように重く大きなものに……」

「エリシスの棒が金属になったのは、そのためなんだろうね」

「正直、助かったわ」

 エリシスは背中のリュックサックに固定してある棒を取り出す。

「これ、あたしを守る仕組みにもなってんのよ」

「頑丈になったから?」

「説明が面倒臭いわね。あたしが両手で端を押さえるから、思いっきり真ん中を押してみて」

「うん」

 両手で支えているエリシスの棒をリースが片手で思いっきり押すと、リースの腕は柔らかい反発を感じる。

「金属なのに撓ってる……」

「そうなのよ。この撓りが攻撃を吸収するの」

「逆に攻撃力が落ちそうな気もするけど?」

 エリシスはコンコンと棒を叩く。

「そうでもないわ。かなりの力が働いた時じゃないと撓らないから」

「じゃあ、攻撃する時は問題ないんだ」

「そこの調整をしたのがアルスの造ったものなのよ。攻撃力を落とさないで守備力を上げる」

「凄いね。……何で、私にはなかったんだろう?」

 エリシスは右手を腰に当て、左手を軽く上げる。

「リースは持ってるじゃない。小太刀とダガーと……ナイフも? アルスの手造りの」

「今は小太刀とダガー一本だけしか残ってない……」

「余計なこと、思い出させた?」

「別に……」

(気にしてるじゃない……)

 エリシスは溜息を吐く。

「不満そうな顔をしない。あたしは、アルスがリースに武器を造らなかった理由は分かってるわよ」

「何で、エリシスが分かるの?」

「自分じゃ自分を見れない。あたしがリースを見て、アルスを見れるからよ」

 リースは首を傾げる。

「リースの小太刀とダガー。アルスの気持ちが詰まってる、もう特別製よ。リースはアルスを信じているから、安心してそれを使えるんじゃないの?」

「あ……」

「アルスは、それ以上に特別なものを造れなかったのよ。それが特殊な金属じゃなくても、心を込めて造った鍛冶屋の魂が宿ってる」

 リースは、そっと小太刀に手を伸ばす。

「アルス……」

「使い手を捜すのをリースに頼んでるのも特別だと思うわよ。そのレイピアは、アルスの宝物でしょ? アルスとアルスの爺さんの想いが沢山詰まってる。リース以外に頼みたくなかったのも分かるわ」

 リースは不満そうに、エリシスに話し掛ける。

「でも、全然知らない人が使うんだよ?」

「リースが選んだ人なら、文句も言えないってことでしょ。信頼されてんのよ。八十年経っても死んでしまっても、たった三年だけしか居られなかったリースを信じてるのよ」

 リースがエリシスの言葉を聞いて止まると、エリシスは『しまった』と顔に出した。

(たった三年しか居なかったって思わせちゃったか……)

 しかし、リースは別のことを口にした。

「あれだけのことがあって、三年しか経っていなかったんだ……」

「お?」

「あの三年間に、どれだけの思い出が詰まってたんだろう?」

 エリシスは少しだけ安心した。リースは落ち込んだわけではなかった。

「寝ていた八十年より濃厚濃密のはずよ」

「うん……。あの三年間、アルスは私を想ってくれていた……。それだけは絶対に勘違いじゃないんだ」

「あの過保護が、それで済むわけないじゃない。死ぬまでリースを想い続けてたに決まってるわよ。あたしが保証する」

「そうだよね」

「そうよ。だから、きっちり残った仕事を終わらせて、アルスが守ってくれた、あたし達の未来をとっとと楽しまなくちゃいけないのよ」

「うんうん!」

 エリシスはリースを強く抱きしめる。

「ここで、お別れだよ……」

「ありがとう……」

 リースもエリシスを抱き返す。

「三年後、約束の場所で会いましょう」

「うん……」

「頑張るのよ」

「エリシスもね」

 エリシスはリースを離すと、笑顔を浮かべて走り出す。

「じゃあね!」

「絶対に、強くなって会おうね!」

 リースは手を振ると、エリシスが見えなくなるまで見送った。

「私は、ドラゴンテイルだ」

 ドラゴンテイルに向けて、リースは歩き出した。


 …


 ユリシスはドラゴンウィングで魔法の資質を……。

 エリシスはドラゴンアームで棒術の資質を……。

 リースはドラゴンテイルで使い手を捜し、剣術の資質を……。

 それぞれの資質を高めるため、少女達は各地に散った。


 ユリシスは、エルフの隠れ里で魔法の資質を高めるべく努力を続ける。ここには魔法を覚える上で不足しているものがない。エルフという最高の師から魔法の極意を学び、人間だったクリスが研究した戦い方を身につける。逆にここで身につかなければ、三年後の約束の場所で役に立たないとも言える。

 そして、問題があるとすれば、師の居ないリースとエリシスである。ドラゴンチェストで別れてから、エリシスがドラゴンアームの王都まで辿り着くまで一ヶ月弱。リースがドラゴンテイルの王都まで辿り着くのに一ヶ月強。二重詠唱、無詠唱魔法、使用魔法のレベルアップと修行を開始したユリシスに対して、二人は出遅れていた。

 そして、その修行の遅れている二人の経過を少し追うことにする。

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