十日後――。
数体のモンスターを倒し、時には全力で逃げて、リースとエリシスはドラゴンウィングを抜けて、ドラゴンチェストの砂漠の手前の町まで辿り着いていた。
また、ここに到着するまでの途中の町々で、復活したモンスターの特徴が入ってきた。
ワーウルフ(人狼)…大人の男ぐらいの大きさで素早い、狼と人間を合わせたようなモンスター。戦うスタイルは、爪と口の牙による噛み付きを武器とする。
リザードマン(蜥蜴男)…大人の男ぐらいの大きさで、蜥蜴と人間を合わせたようなモンスター。戦うスタイルは、固い鱗で身を守る守備力重視のスタイル。刀剣類を所持している固体が目撃されている。
オーガ(鬼)…身の丈は大人の一・五倍を超え、角が生えている以外、ほぼ人と変わらないモンスター。戦うスタイルは、厚い筋肉により、力、防御力が強化された力押しのスタイル。雑な造りの武器を持ち歩いているのは、リースとエリシスも目撃している。
「――と、いうのが、大体の情報ね」
「ワーウルフが攻撃力を強化したモンスター。リザードマンが守備力を強化したモンスター。オーガは、その両方を合わせて割った感じのモンスター」
「そして、大きく変わっていたのが武器よね」
「剣やレイピアが消えて大剣。手斧が戦斧」
「モンスターの攻撃に耐えれるように頑丈に……。よりダメージを与えるように重く大きなものに……」
「エリシスの棒が金属になったのは、そのためなんだろうね」
「正直、助かったわ」
エリシスは背中のリュックサックに固定してある棒を取り出す。
「これ、あたしを守る仕組みにもなってんのよ」
「頑丈になったから?」
「説明が面倒臭いわね。あたしが両手で端を押さえるから、思いっきり真ん中を押してみて」
「うん」
両手で支えているエリシスの棒をリースが片手で思いっきり押すと、リースの腕は柔らかい反発を感じる。
「金属なのに撓ってる……」
「そうなのよ。この撓りが攻撃を吸収するの」
「逆に攻撃力が落ちそうな気もするけど?」
エリシスはコンコンと棒を叩く。
「そうでもないわ。かなりの力が働いた時じゃないと撓らないから」
「じゃあ、攻撃する時は問題ないんだ」
「そこの調整をしたのがアルスの造ったものなのよ。攻撃力を落とさないで守備力を上げる」
「凄いね。……何で、私にはなかったんだろう?」
エリシスは右手を腰に当て、左手を軽く上げる。
「リースは持ってるじゃない。小太刀とダガーと……ナイフも? アルスの手造りの」
「今は小太刀とダガー一本だけしか残ってない……」
「余計なこと、思い出させた?」
「別に……」
(気にしてるじゃない……)
エリシスは溜息を吐く。
「不満そうな顔をしない。あたしは、アルスがリースに武器を造らなかった理由は分かってるわよ」
「何で、エリシスが分かるの?」
「自分じゃ自分を見れない。あたしがリースを見て、アルスを見れるからよ」
リースは首を傾げる。
「リースの小太刀とダガー。アルスの気持ちが詰まってる、もう特別製よ。リースはアルスを信じているから、安心してそれを使えるんじゃないの?」
「あ……」
「アルスは、それ以上に特別なものを造れなかったのよ。それが特殊な金属じゃなくても、心を込めて造った鍛冶屋の魂が宿ってる」
リースは、そっと小太刀に手を伸ばす。
「アルス……」
「使い手を捜すのをリースに頼んでるのも特別だと思うわよ。そのレイピアは、アルスの宝物でしょ? アルスとアルスの爺さんの想いが沢山詰まってる。リース以外に頼みたくなかったのも分かるわ」
リースは不満そうに、エリシスに話し掛ける。
「でも、全然知らない人が使うんだよ?」
「リースが選んだ人なら、文句も言えないってことでしょ。信頼されてんのよ。八十年経っても死んでしまっても、たった三年だけしか居られなかったリースを信じてるのよ」
リースがエリシスの言葉を聞いて止まると、エリシスは『しまった』と顔に出した。
(たった三年しか居なかったって思わせちゃったか……)
しかし、リースは別のことを口にした。
「あれだけのことがあって、三年しか経っていなかったんだ……」
「お?」
「あの三年間に、どれだけの思い出が詰まってたんだろう?」
エリシスは少しだけ安心した。リースは落ち込んだわけではなかった。
「寝ていた八十年より濃厚濃密のはずよ」
「うん……。あの三年間、アルスは私を想ってくれていた……。それだけは絶対に勘違いじゃないんだ」
「あの過保護が、それで済むわけないじゃない。死ぬまでリースを想い続けてたに決まってるわよ。あたしが保証する」
「そうだよね」
「そうよ。だから、きっちり残った仕事を終わらせて、アルスが守ってくれた、あたし達の未来をとっとと楽しまなくちゃいけないのよ」
「うんうん!」
エリシスはリースを強く抱きしめる。
「ここで、お別れだよ……」
「ありがとう……」
リースもエリシスを抱き返す。
「三年後、約束の場所で会いましょう」
「うん……」
「頑張るのよ」
「エリシスもね」
エリシスはリースを離すと、笑顔を浮かべて走り出す。
「じゃあね!」
「絶対に、強くなって会おうね!」
リースは手を振ると、エリシスが見えなくなるまで見送った。
「私は、ドラゴンテイルだ」
ドラゴンテイルに向けて、リースは歩き出した。
…
ユリシスはドラゴンウィングで魔法の資質を……。
エリシスはドラゴンアームで棒術の資質を……。
リースはドラゴンテイルで使い手を捜し、剣術の資質を……。
それぞれの資質を高めるため、少女達は各地に散った。
ユリシスは、エルフの隠れ里で魔法の資質を高めるべく努力を続ける。ここには魔法を覚える上で不足しているものがない。エルフという最高の師から魔法の極意を学び、人間だったクリスが研究した戦い方を身につける。逆にここで身につかなければ、三年後の約束の場所で役に立たないとも言える。
そして、問題があるとすれば、師の居ないリースとエリシスである。ドラゴンチェストで別れてから、エリシスがドラゴンアームの王都まで辿り着くまで一ヶ月弱。リースがドラゴンテイルの王都まで辿り着くのに一ヶ月強。二重詠唱、無詠唱魔法、使用魔法のレベルアップと修行を開始したユリシスに対して、二人は出遅れていた。
そして、その修行の遅れている二人の経過を少し追うことにする。