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作製編  80 【強制終了版】

 翌日――。

 指定された宿屋で夜を明かし、午前中に召集の命令が入った。午後までに町の入り口に集合し、セグァン率いる盗賊団を殲滅することになったのである。

 アルス達は戦う準備を始める。

「アルス、何をしてるの?」

 リースは盛大に広がっているアルスのリュックサックの中身を指差す。

「今回、旅をしながらじゃないから、中身を全部持っていく必要はないでしょう?」

「そうだね」

「鍛冶道具とかは、ここに置いて行くつもり。僕達以外の団体行動だから、荷物を持ち過ぎて遅れるわけにも行かない」

「そうか。私も着替えとか置いて行こうかな?」

「一着ぐらいは持って行ってもいいかもね。汚れるかもしれないし」

 リースは自分のリュックサックを確認する。

「思ったより余計なものは入ってないから、このままでもいいか」

「余計なものは、僕が背負ってたしね」

 広がっている荷物の中には思い出作りと称して、リース達が買い込んだ民芸品などが転がっている。リースは誤魔化し笑いを浮かべ、『必需品だったから……』と漏らした。

「必需品ねぇ……」

 アルスが広げた荷物のうち、必要ないものを部屋の隅に纏め始めたその時、扉が勢いよく開いた。

「アルス~! あたしの替えの下着ない?」

「あのさ……。エリシスは女の子なんだから、少し僕に預ける荷物を考えようよ……」

「別に気にしないわよ。使用後の下着を嗅がれたら嫌だけど、洗濯してあるヤツだし」

「嗅ぐか! そんなもの!」

「冗談よ。で、あたしのものは?」

 アルスが部屋の隅を指差すと、エリシスは部屋の隅まで走って行き、自分の名前の書かれた布袋を漁り出す。

「やっぱり、あった。え~と、あと……、これとこれ」

 必要なものを探し出すと、エリシスは扉に向かう。

「じゃあね」

 アルスは、がっくりと項垂れた。

「恥ずかしくないのかな……」

「エリシスは、下着とか隠さないで渡すしね」

「毎回、勝手に畳んでいいのか葛藤させられる、こっちの身にもなって欲しいよ」

「寧ろ、アルスが一回畳んであげてから放り出すようになった気もするんだけど」

「だって……。グシャグシャ、ポイッって投げるんだもん……。そのままだと皺になるし、リュックサックの中も幅取るし……」

「どっちが女に子か分からなくなるね?」

「本当だよ……」

 アルスは盛大な溜息を吐く。

「エリシスは自立したら、どうするんだろう?」

(すっかり、お母さんの考え方になってる……)

 リースは苦笑いを浮かべ、やがて、アルスの荷物整理も終わる。

「行こうか?」

「うん」

 アルスとリースは武器をしっかりと携帯し、リュックサックを背負うと扉へ向かう。

 扉を開けると、丁度、エリシスとユリシスも顔を出した。

「準備はいいみたいね?」

「うん」

「じゃあ、行きましょう」

 アルス達は、宿屋の一階へと向かった。


 …


 アルス達が町の入り口に着いた時、集まっているハンターは数名だった。盗賊団を退治するには少な過ぎる。

「どうしたんだろう?」

 リースの質問に、エリシスは『さあ?』と答えを返す。よく見ると、ハンターが町の入り口に居る男と何かを話して町を出て行っている。

「どうやら、本当の集合場所は、ここではないようですね」

「どうしてかな? ……あ」

 リースは答えに気付いた。

「ここに集まって移動したら、盗賊達にバレちゃうからだ」

「よく考えていますね」

 アルス達は少し離れた場所で人数が減るのを待ち、誰も訪れる気配がないのを確認すると、町の入り口で待つ男に話し掛ける。

「今日の盗賊退治の任務の者です」

「場所は道なりに進んで、二つ目の山の山道に入ってくれ」

「分かりました」

「君達で最後だからな」

「はい」

 アルス達は町を出ると言われた通りの道を進み、二つ目の山の山道に入った。

 アルスは山道の地面を見る。

「かなりの人数を集めたみたいだね。歩いたことで、乾いてない土が随分と顔を出してる」

「本当だ」

「足跡の違いだけで十人位?」

「見逃したり、重なったりしたものとかを考えて十五、六人でしょうか?」

「そうすると、僕達を合わせて二十人ぐらいかな?」

「盗賊は、何人ぐらいなんだろう?」

 リースの言葉に、エリシスは自分達の事件を思い出す。

「あたしの国では、確か二十人ぐらいのはずだったわよ」

「それ以上に増えてることないかな?」

「可能性はあるわね。でも、二十人のハンターに本隊の魔法使い部隊でしょ? こっちは倍の人数ぐらいなんじゃないの?」

「奇襲を掛けて呪文を詠唱する時間を稼ぐだけとはいえ、一人で相手に出来る人数は限られますからね。奇襲で油断している隙を突いても、相手に出来るのは倍の人数ぐらいかと思います。三倍にして一人頭、三人を相手にするのは作戦としてキツイです」

「逆に詠唱時間を稼ぐまでは、必ず相手をしていないといけないとも言えるから、そっちの方もキツイかもしれないね」

 話しながら山道を進むと、山の中腹辺りで道が開けた。そこには集められたハンターが依頼主の説明を待っていた。

「予想通りの人数ね」

「全部で二十人ぐらいです」

「もっと集まってるかとも思ったけど、報奨金がしょぼいからこんなもんか」

 エリシスとユリシスが集まったハンターを観察して話していると、依頼主の貴族と思われる者が声を張って話し出した。

「御集まり頂き、感謝します。これから皆さんには盗賊団の殲滅の御力を御貸し頂く訳ですが、作戦を伝えていませんでした。これは万が一にも盗賊団の耳に入り、盗賊団が別の場所へ移動してしまうかもしれないことを警戒するためです。御理解の上、寛大な心で許して頂きたい」

 依頼主の貴族は深々と頭を下げた。

「では、作戦を伝えます」

 アルスは腕を組むと、昨日、トルスティが先に自分達に伝えてくれたのは信頼されていたからなのかと考える。

(それとも、作戦まで日もないから、言っても同じと思ったのかな?)

 別の場所に居るであろうトルスティとミストを思いながら、アルスは、再び耳を傾ける。

「作戦は奇襲による時間稼ぎです。別の大きな山道を進む本隊が、盗賊団が陣を張る場所に魔法の一斉射撃を行ないます。盗賊団は本隊を狙って動き出すので、今から進んで頂く細道から盗賊団の陣の横に出て待機し、機を見計らって奇襲を御願いします。予想では、その間に本隊の第二射の詠唱時間が稼がれ、第二射により盗賊団は、ほぼ壊滅。その後、殲滅戦に移行する計画です」

 ハンター達の中から話し声が漏れる。

『楽な仕事だな』

『最初は報奨金が安いから不満だったが、滞在費を全て持って貰ったから、久々の休暇も過ごすことが出来たしな』

『噂じゃ、相手の盗賊団はランクCで余裕だって話しだ』

 依頼主の貴族が咳払いをする。

「作戦は、太陽が真上に来たら開始です。もう少し日が昇りましたら、あちらの山道から進んでください。奇襲ですので、移動中はなるべく大きな物音を立てないように御願いします。待機中は、大きな声での私語は厳禁ですぞ」

『分かってるって』

『そこまで素人じゃないさ』

 ハンター達は割りとリラックスした状態だった。

 その様子を見て、エリシスがアルス達を指で突いて呼ぶ。

「あのさ、少しいい?」

「何? トイレ?」

 エリシスのグーが、アルスに炸裂した。

「違うわよ! 何で、トイレ行くのに全員に宣言しなくちゃいけないのよ!」

「何も殴らなくても……」

「真面目な話しなのよ!」

「そうなの?」

 エリシスは、他のハンター達に聞かれないように声を落とす。

「この依頼、かなり簡単よね?」

「まあ、そうだね」

「セグァンのところに向かいたいんだけど、ダメかしら?」

 エリシスの言葉に、リースとユリシスの顔は真剣になった。

「多分、大将であるセグァンの周りには強い部下が居るはず。だけど、この流れだと確実に殲滅戦に移行して、あたし達は仇の顔を拝むことなく終わるかもしれない。自分の手で討てなくても、アイツが討たれるところだけは見たいの」

 アルスは考え込む。

「まあ、奇襲というか、こちらに目を向けさせる陽動の意味もあると思うから、セグァン本人に攻撃を仕掛けるのはありだけど……」

「お願い」

「わたしからもお願いします」

「私も」

「……分かったよ。その代わり、自分達から危険なところへ向かうんだから、油断は禁止」

 リース達は頷く。

「それと大怪我しそうなら、迷わず距離を取るか逃げる。これが終われば普通の人生を歩めるんだから、こんな詰まらないことで台無しにしちゃダメだよ。全員で乗り切るんだ」

「ええ!」

「はい!」

「分かってる!」

 この部隊の中で、アルス達だけが一段階違う気合いのノリになっていた。

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