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作製編  77 【強制終了版】

 その日は早めに宿を取り、合同の鍛練を終え、早いうちに眠りに付いた。お風呂に入るのも清潔なベッドで寝るのも、実に久しぶりだった。

 そして、夜が明け、宿を出ると向かう先はハンターの営業所。更新される賞金首をチェックするが、セグァンの賞金は据え置きのまま。新しい情報も入っていなかった。

 リース達が、がっかりする中で、アルスは掲示板にある一つのハンターの募集広告に足を止めた。

『サウス・ドラゴンヘッドにて、ハンターを募集 ― 盗賊を捕らえるのに協力を要請するものなり』

 アルスが腕を組んで考えていると、アルスに気付いたユリシスが声を掛ける。

「どうしました?」

「これ、少し気になって」

「ハンター募集の依頼ですね?」

「この募集を掛けているのが、サウス・ドラゴンヘッドの国なんだ」

「国で募集というのは珍しいですね」

「うん」

 アルスとユリシスの周りに、リースとエリシスも集まる。

「どうしたの?」

「このハンターの募集で、ちょっと」

 エリシスは、ざっと流し読みをする。

「安い報奨金ねぇ……」

「でも、国が募集って珍しくないですか?」

「まあね」

 アルスはポツリと呟く。

「これ、セグァンのことが絡んでんじゃないかな?」

「これだけじゃ判断できないじゃない」

「サウス・ドラゴンヘッドという場所だけで募集を掛ければ、盗賊達には誰がターゲットか分からない。そして、可能性は低いけど、ドラゴンウィング、ドラゴンテイル、ドラゴンチェストと回って、セグァンの噂が入らなかったということは、そのままドラゴンヘッドに残ってたという可能性もある」

「なるほどね。国単位での募集なら、相手があの盗賊団だったとしても不思議じゃないわね。あんな残酷な殺し方をする盗賊団を放っておくわけがないわ」

「ターゲットを内密にして、人数が揃ったら数で押し切ろうってことですかね?」

「有り得るわね。魔法国家だから、魔法使いの兵隊は沢山居る。要は、その魔法を使う詠唱時間の盾にする兵士を集められればいいんだから」

「どうする?」

 エリシスは営業所の中にある机と椅子を指差す。

「少し相談しましょう」

 全員が頷くと、それぞれ椅子に座った。

「アルス、お願い」

「最近、進行役にばっかりさせられてるなぁ。まあ、いいけど」

 アルスは咳払いを一つする。

「正直、ドラゴンチェストに入ってからは、何処を目的地にするかということは定まっていない。セグァンが利用する可能性の高い西回りの安全の確定してない道を北に進んで、情報を集めているのが現状だ」

「そうなのよね。セグァンの情報が一切入ってないのよ」

「そうなると、今度は何を目標に旅を続けるかということになりますよね?」

 エリシスとユリシスの意見に頷き、アルスは続ける。

「可能性の一つとしては、国のないドラゴンチェストでハンター業をしながら、セグァンを待ち続ける。これは盗賊の多いドラゴンチェストを拠点として僕達が動くというパターン。もう一つは、今の張り紙の可能性――つまり、ドラゴンヘッドに残り続けていた可能性を信じて動くというパターンになる。他にもあれば、追加して」

 全員が暫し考えるが、一切の情報が入らない以上、何処かを拠点に情報が入るのを待つか、セグァンを探して動くかの選択以外は思いつかなかった。

「その二つでしょうね。あたしは、前者のドラゴンチェストでウロウロするパターンを考えてたわ」

「後者の方を目的にしていいかどうか……。悩みますね」

 しかし、他の三人が悩む中、リースは口を開いた。

「ドラゴンヘッドへ行こうよ」

「どうして?」

 エリシスの聞き返しに、リースははっきりと自分の意見を言う。

「ドラゴンチェストに居ても待つだけだし、情報ならドラゴンヘッドでも手に入る。それに本当にセグァンだったら、私達は接触するチャンスをみすみす逃すことになる」

「それは後味悪いわね……」

「確かに、何もしないで終わってしまうというのも……」

「だったら、行って確かめて、それから今後のことを考えようよ」


 ――後悔したくない。

 ――小さな可能性でも、動かないわけにはいかない。


 これまでの努力が何のためのものであったのかが、リース達の脳裏に蘇る。

「その方が良さそうね」

「はい」

 リース達の視線はアルスに向かう。

「それでいいけど、もう一つだけ、向こうについてから決めたいことがあるんだ」

「何よ?」

「敵の戦力の線引き。ギリギリの戦いになりそうだったら、きっぱりと身を引く」

「勝てる戦いしかしないって?」

「いや、勝算のある戦いしかしないってこと。確実に勝とうとは思わない。でも、負けると分かっている戦いは参加しない」

「あんまり変わらないと思うけど?」

「大有りだよ。僕達は目的を果たした後のことも考えているんだから。死んだら意味がないじゃないか」

「まあ、確かに失くしちゃいけないものは増えたわね。いいわよ、それで」

 アルスは意外そうにエリシスを見る。

「やけに素直だね?」

「多分、平気だからよ。国で募集掛けてんのにギリギリの戦いはしないでしょ? 負ければ世界中に馬鹿の証明をすることになるんだから」

「エリシスは勝てる戦いになっていると予想してたのか」

「あたしだって、無駄に死にたくないしね。数の暴力ってのは好きじゃないけど、セグァンを叩くのに手段なんて選ぶ気ないわよ」

「そうだよ。好き放題なことをやられたんだから……」

 リース達に沸々とあの日の思い出が蘇り始めると、アルスは終わりにしようと話を締めに入る。

「じゃあ、これでいいかな? 次の目的地は、サウス・ドラゴンヘッド」

 リース達が頷いて返事を返す。

「現地に着いたら、情報収集してから行動を決めよう」

 リース達が再び頷いて返事を返す。

「じゃあ、決まりだ」

「ここからは、気持ちを切り替えるわよ」

「はい、最後の戦いになるかもしれません」

「今まで切磋琢磨して鍛えあげたもので、セグァンをやっつける!」

 アルス達は、サウス・ドラゴンヘッドへと目的地を定めた。

「でも、まだセグァンが居るとは決まってないからね?」

「何で、やる気を削ぐの……」

「コイツは……」

「まったく……」

 珍しくリース達がアルスに項垂された。

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