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作製編  67 【強制終了版】

 ドラゴンテイルの王都――。

 本来なら、最短距離を全力で進むことが出来れば、王都まで一ヶ月少しの距離……。

 しかし、アルス達の進む方向はアサシンの少年達の仲間の居る場所を経由する。そのため、一直線とは行かずに蛇行してドラゴンテイルを進むことになる。

 また、その度に手合わせと滞在費免除の武器の修繕の鍛冶仕事で、日程は、更に大きく遅れる。ドラゴンテイルの王都に付くまでに、実に四ヶ月も掛かる次第だった。

 アルスは王都を歩きながら嬉しそうに囁く。

「この生活最高……」

 鍛冶屋の仕事漬けという状況に、アルスはご満悦。イオルクに聞いていた玉鋼から造った刀や小太刀を触れられるのは、一人の職人として最高の喜びだった。

「でも、そろそろ火炉を使った仕事もしたいなぁ」

 そのアルスに、エリシスがぐったりとして話し掛ける。

「あんたは、いいわよ……。ちゃんとやるべき目標がここにあるんだから……」

「どうしたの?」

「『どうしたの?』じゃないわよ! ここの国、完全に情報が封鎖されててセグァンの情報が一向に入らないじゃない!」

「ああ、そんな人も居たね」

「忘れるな! あたし達の仇よ!」

「この王都で丁度半分だから、また四ヶ月の我慢だよ」

「もう! いや~! ずっと戦いっぱなしで飽~き~た~!」

「セグァンを倒すんじゃないの?」

「もう十分よ! あたしは、これ以上強くならなくていい!」

「どうしたの?」

 ズズイっと、エリシスはアルスに迫る。

「いい? もう、伸び代一杯なのよ」

「またまた~、エリシスさんったら」

「本当よ……。これ以上は戦闘狂のアサシンか騎士にでもなる領域よ」

「そうなの?」

 アルスの問い掛けにエリシスは頷き、リースとユリシスは首を振る。

「わたしは、まだ試したい魔法がいくつかあります。姉さんとリースさんに相手をして貰って、少しだけど、近接戦闘でも戦えるようになってきたので」

「私は、そろそろアルス越えの時期かと思ってる」

「下克上でもするの?」

「そうじゃなくて、蓄積された経験がそろそろ使えるんじゃないかな?」

 リースの話を聞いて、ユリシスは問い掛ける。

「まだ利用してなかったんですか?」

 リースは両の頬に手を置いて悶える。

「初めての相手はアルスにしようって……。ずっと前から決めてたの……」

「言葉と行動が合ってないです……」

「乙女の純情を捧げるって、こういうことじゃないの?」

「そんな暑苦しいのは、相手が引きますよ」

「私の純粋な情熱が……」

「その情熱で、アルスさんを亡き者にでもするつもりですか?」

「殺さないよ……」

 エリシスは溜息を吐く。

「アホな会話してないで、さっさと、この国出ようよ」

「目的の王都に着いて、さっさと出て、どうするんだ……」

「どうせ、許可なんて下りないわよ」

「分からないじゃないか」

「だって、ここで許可下りたら、二ヶ月ぐらい留まるんでしょ?」

「そうなるね」

「あたしは、どうすればいいの?」

「本当に伸び代がないの?」

 エリシスは項垂れながら、ガシガシと頭を掻く。

「っつーかさ……。ぶっちゃけると、セグァンなんて直ぐに見つけて、やっつけて終わりだと思ってた……。ハンターの賞金首でも凄く高いわけでもないし、終わったらハンターで貯めたお金で、やっつけた記念の豪遊パーティーをするつもりだった……」

「浅はかだ」

 エリシスのグーが、アルスに炸裂した。

「浅はかって、何よ!」

「だって、仇討ちはシリアスで進んでたのに、いきなりダレるんだもん……」

「あたしだって、普通の女の子なのよ? 旅しても遊びたいし、日々の最低限の鍛練でセグァンを倒せなければ意味ないじゃない。自由に使える時間を汗臭い青春だけで終わらせたくないのよ」

「その油断から、この国に入って直ぐに負けたんだよね?」

「あれは、もう大丈夫。プライベートと戦闘で切り替えるスイッチを作ったから」

「そんな簡単に出来るの?」

「出来たわよ。その代わり、手加減できなくなったけど」

「僕に手加減を教えた人のはずなのに……」

「それにさ。これ以上の強さを求めると、日々の練習時間が増え過ぎて旅なんて出来なくなるわよ。あんた、あくまで一般人で居たいんでしょ? 戦う人になるわけじゃないんでしょ?」

「それはそうだね」

「日々の鍛練と模擬戦は欠かさずやるけど、一般人であることを忘れて、楽しむことを忘れるのも本末転倒な気がするわ」

「そういえば、少し買い物とかして、のんびりした時間がない気がするね」

「でしょ? 独特の文化圏だから娯楽が少ないのよ」

「娯楽か……」

「早くドラゴンチェストに行きたい……」

 エリシスが再び溜息を吐くのを見ると、アルスはリースとユリシスに振り返る。

「二人は、この国に未練ある?」

「未練って……、そんなのないけど」

「わたしも、時間さえ取れれば未練というものはないです」

「じゃあ、切り上げようか」

「本当⁉」

 アルスは頷く。

 喜びのポーズを決めるエリシスとは逆に、リースが少し心配そうにアルスに話し掛ける。

「ねぇ、アルス。ここが目的だったんでしょ? いいの? それで?」

「僕に無理やり付き合わせるのも良くないんじゃないかな」

「私は、そこは無理にでも付き合わせるべきだと思うよ」

「でも……」

 リースはエリシスに向き直る。

「アルスの我が侭に付き合ってあげてよ。この国がアルスの一番の目的なんだから」

「だって~……」

「私達、沢山迷惑掛けたじゃない」

「それは……」

「お願い」

 リースに真っ直ぐ見詰められると、エリシスは何も言えなくなってしまった。

 諦めるようにエリシスは溜息を吐くと、結っている髪を手で梳いて答える。

「……分かったわよ。アルスに付き合うわよ」

「ありがとう」

 リースはアルスに振り返る。

「ほら、アルスもお礼」

「うん……。ありがとう……」

「リースの頼みじゃ仕方ないわよね」

「じゃあ、行こう」

 リースは一番大きな屋敷のある方向にアルスを引っ張り、歩き出した。

 その後姿を見ながら、ユリシスがエリシスに声を掛ける。

「負けちゃいましたね」

「あんなに真剣に見詰められたら、何も言えないわよ」

「リースさんの中で、アルスさんは本当に特別なんですね」

「リースがアルスを特別に思ってるせいで、二人の思い出を話してくれないから、根っ子の部分は、さっぱり分からないんだけどね」

「アルスさんがリースさんの心を射止めるような何かがあったのは確かですよね?」

「まあ、あたしもアルスはポイント高いからね」

「そうなんですか?」

「頼りないけど頼りになるって感じなのよ」

「どういう意味ですか?」

「やる時はやるってことよ。それを何度か見せられれば、ポイントは加算されるでしょ?」

「なるほど」

「まあ、あたしの周りにアルスしか男が居ないから、勝手にポイントが加算されるのはアルスだけってのもあるけど」

「でも、マイナスにはなってないんですよね?」

「その時は、またユリシスと二人旅をしてるでしょうね」

「なるほど」

「そういう、あんたは?」

「単なる友人です。将来的に愛人まで発展する可能性もありますが」

「リースの独占欲は強いわよ?」

「冗談ですよ」

 ユリシスは小悪魔的な笑みを湛えてみせる。

「普通に、いい人だと思いますよ」

「そうよね。これだけ一緒に居て飽きさせないんだから」

「明らかに『オモチャとして』ですが」

「あたし達、三人の?」

「姉さんだけとは言い切れないでしょうね……」

 頭の中に蘇る数々のエピソード。

「今のうちにアルスの機嫌を取っとこう」

「ドラゴンチェストに入るまでに充電しておきましょう」

 一体、何が充電されるのか分からないが、明らかに良からぬものが双子の姉妹の中に蓄積されているのは間違いなかった。

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