アルス、エリシス、ユリシスに支えられて、リースは四日ほどで気持ちを立て直した。この日数が長いか短いかは分からない。そして、リースのために心の痛みを共有し、励ましあったことで、一つのパーティとして旅をするために纏まり出した。
今回のことでアルス達は、旅をすることで全員が戦いは避けられないことを強く認識させられた。特に奇襲という方法を取られた時、最初の攻撃はお互い庇うことが難しく、個人の力量に左右されることを思い知らされた。
――パーティの力量を上げること。
特に一番小さくて弱いリースをどう守るかが、このパーティの重要な問題になった。現段階のアルスとリース、エリシスとユリシスの二組での戦い方から脱却し、四人での連携を強めることこそ、優先度が高いと判断した。
アルス達は、色々と連携させるパターンを試し、結果、次の陣形が一番安定していると全員で判断した。
前衛1…エリシス
前衛2…リース
後衛1…アルス
後衛2…ユリシス
この陣形の前衛にはエリシスとアルスとも考えたが、後衛の要であるユリシスを守れる役目も兼ねると、アルスが後衛に居る方が最適であると考えた。アルスの所持しているメイスは、破壊どころか傷を付けることも困難なもの。それでガッチリとユリシスを守れば、このパーティで一番の回復魔法の使い手を守ることが出来る。また、アルスがしっかりと守れば、ユリシスの詠唱も安全性が増す。
そして、前衛にリースを加えた理由。当初、リースの位置は前衛より一歩後ろの中衛とも考えたが、リースの武器は短剣類、中衛ではエリシスをサポートすることも連携することも出来ない。少し不安だったが、リースを前衛に置いて、暫く全員でリースをサポートする方針に決めた。接近戦はエリシスがリースをサポート。後衛から、アルスとユリシスが魔法でサポートして、付き纏う死に、リースの心が負けない強さを手にすることを待つことになった。
…
そして、エルフの里を出て二ヶ月後――。
「僕の視線の先には可哀そうな盗賊さん達の姿が……」
「アルスさん、完全にバックアップになっちゃいましたね」
エリシスの取ってきたハンターの仕事――五人組の盗賊団をエリシスとリースが完膚なきまでに叩きのめしていた。
「リースには、いいこと教わったわ。優先的に関節を破壊すれば全力で打っても死なないじゃない」
目の前では、足の関節をやられた盗賊達三人が足を抱えて蹲っている。
「私も少し難しいけど、腱を断ち斬れば大丈夫」
目の前では、器用に利き腕の腱をやられた盗賊二人が武器を握れずに戦意喪失。
お互い命のやり取りをするから仕方がないとはいえ、一方的にやられた姿を見ると、少し同情の念が芽生える。
「リースに教えた戦い方をエリシスが真似するとこうなるんだ……」
「わたしは、リースさんにこれだけの戦い方を教え込んでた、アルスさんの方が、どうかと思いますけど」
「確かに……。今まで襲って来た連中と比べて、少し異質な気がしてきたよ。お爺ちゃんは、僕に何を教え込んだんだろう?」
「武器を持って戦うのはよく分かりませんから、どういう意見を言っていいか……」
「そうだよね」
(でも、明らかにおかしいとも思えるのはあります。アルスさんというより、リースさん。あんなに早く上達するものなんでしょうか?)
大人を打ち負かすリースの技術は、素人のユリシスから見ても少し異常に思えた。
「アルスさんは、リースさんの成長をどう思います?」
「どう? 僕もあんなもんじゃなかったかな?」
「……そうなんですか?」
(わたしの勘違いでしょうか?)
疑問は、一言で一蹴されてしまった。
そして、今度はアルスが懸念を口にする。
「エリシスもリースも、少し言葉に気を付けた方がいいかもしれない」
「どうしたんですか?」
「いや、殺してないにしろ、相手を傷つけているんだから、嬉々として話しちゃいけないかなって」
ユリシスは落ち着いた口調で否定する。
「違いますよ」
「そういうのじゃないの?」
「半分は自分達の強さを誇っていると思います。でも、もう半分は虚勢だと思います」
「虚勢?」
「そうやって強がらないと、心が持たないんです。有りの侭、全てを受け入れたら壊れちゃいますよ」
「そうか……」
(確かに戦いに付き纏う不快感を何処かで相殺しないと、心は持たないからな)
アルスは人間であるが故に、心から切り離せない部分というものを考えた。
そのアルスの難しい顔を見て、ユリシスは話し掛ける。
「逆に、アルスさんは少し気を抜いた考えを持ってもいいと思いますよ」
「そうかな?」
「はい。物事を綺麗な方や正しい方に捉えるのはいいことですけど、自分の心や他人を守るために嘘をつく場面もあります。それを理解していれば、小さなことに疑問なんて持たなくて流せるようになります」
「これでも、大分軽い性格になったと思ったんだけどな」
「まあ、それがアルスさんらしいとも言えます」
「長所なのか短所なのか……」
「両方でしょうね」
アルスは頭に手を持っていく。
「そうだね。エリシスやリースが好き好んで人を傷つけていないのは分かっているんだ。だったら僕は、それを信じて笑って流しておけばいいんだ」
「そう思いますよ。……確かにやり過ぎの感はありますけど」
特に、エリシスにやられた盗賊の怪我は酷い。
「僕に手加減を覚えろって言ったのに……」
ユリシスは苦笑いを浮かべると、逃げるようにエリシス達のところへ向かい、倒した盗賊達をロープで縛る手伝いを始めた。
アルスは、それを笑って流してみる。
「本当に簡単なことだな」
アルスもエリシス達のところへ、回復魔法を掛ける手伝いに向かった。