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作製編  56 【強制終了版】

 初めて人を殺してしまったリース。本当は訪れては欲しくない瞬間だった。

 自分の身を守るためとはいえ、それは心に大きな大きな傷を刻み付ける。正当な理由があっても割り切れるものではない。

 次の日、再び出会ってしまった盗賊達に、リースは動けなくなっていた。

「ドラゴンウィングは治安が悪くなったんじゃないの⁉」

 昨日の今日で、ゆっくりと考える時間も与えてくれない状況にエリシスが叫んだ。

「ドラゴンチェストも、こんなものでしたよ。それにあちらの盗賊よりは、品があります」

「っなことは、どうでもいいのよ! 金欠の時には出てこないで、こっちに事情がある時にワラワラと!」

(姉さんの都合に、盗賊が合わせてくれるわけありませんよ……)

 ユリシスは溜息を吐いたが、それはエリシスの言動だけのためではない。エリシスの言っている不満も同様に持っていたからだった。

 ユリシスはチラリと、リースに視線を向ける。

 いつものリースではないのは明らかだった。肩に力が入り、呼吸も荒い。軽量武器を扱うリースが素速く武器を振る状態ではなかった。

「リースさん、今日は下がりましょう。わたしと魔法で援護しましょう」

 リースは首を振る。

「大丈夫……」

 リースは震えながら、前衛のエリシスの横まで進んだ。

「あんた、本当に大じょ――」

 エリシスは言葉を止める。恐怖で体は震えているのに、リースの意思を表わす強い視線は前方の盗賊達から外れていなかった。

(この子……、もう立ち直ろうと動き出してる)

 エリシスにもユリシスにも経験があった。

 だが、人を殺めた衝撃から立ち直るには、理屈よりも気持ちを前に向けなければならない。それが出来なければ、二度と戦うことが出来なくなるのを知っていた。そして、それを理解しても自問自答を繰り返し、理屈を捏ね、自分の中に確固たる決意を決めるには時間が掛かる。

 それなのに、リースは前へ向かおうとしている。

 エリシスは後ろのアルスに振り返る。

「リースは、まだ子供だけど、ちゃんと分かってるよ。奪うことになるかもしれない相手の命の重さも、奪われるかもしれない自分と僕達の重さも……。だから――」

 アルスがメイスを構える。

「――僕達が手助けして、リースが歩みを進められるように導こう」

 アルスの言葉を頭で反芻すると、エリシスは頷く。

「あたしん時は、ユリシスが支えてくれたからね。それはやらなきゃだわ」

 ユリシスも頷く。

「わたしの時は、姉さんです」

 アルスも頷く。

「僕の時は、お爺ちゃんだった」

 アルス、エリシス、ユリシスが頷く。

「なら、リースを支えんのは、あたし達よね」

「しっかりと支えてあげます」

「うん、僕達で」

 エリシスは視線を盗賊達へと戻す。

「リース、そんなに肩肘張らなくてもいいわよ」

 リースは首を振る。

「戦いには死が付き纏うから出来ない」

「あたしが守ってあげるわよ」

 リースの顔がエリシスへと向けられる。そこにあるのは強い笑顔だった。

「あたしは強いからね。頼っていいわよ」

「エリシス……」

「逆にあたしが危なくなったら、助けてくれるんでしょ?」

「そんなの当たり前だよ」

 エリシスはリースのおでこを、棒を掴んでいない左手の人差し指で突っつく。

「そう、当たり前なのよ。あたし達があんたを助けるのも、あんたがあたし達を助けるのも。だから、頼っていいの。頼られていいの。肩肘を張らなくていいの」

 リースの肩から力が抜ける。

「……そうなんだ」

 リースの後ろからユリシスの声が届く。

「魔法でしっかり援護しますよ。怪我だって治しちゃいます」

 リースは振り返る。

「ユリシス……」

 ユリシスはリースに微笑んで返す。

「何というか……、本当に心強いね」

「アルス?」

「正直、仲間が居るとこんなに安心できると思わなかったよ」

 自分だけではないリースへの想いが集まっていると思うと、アルスは嬉しかった。この問題はアルス自身がリースを立ち直らせなければいけないと思っていたが、エリシスとユリシスの姉妹は協力的で、リースのことを考えてくれていた。

「リース、皆の言っていることに間違いはないよ。僕達は、頼って頼られていいんだ。リースにも期待してる」

「私にも?」

「リースの培ってきた力で、お互いを守ろう」

「……うん」

 リースは俯き、自分を支えてくれる仲間に笑みを溢す。

「いつも通りだ。ナイフとダガーを速く振るには?」

 リースは顔を上げる。

「脱力して、余計な力を入れない」

「うん。足のスタンスは?」

「楽に動けるように肩幅ぐらい」

「大丈夫、出来てるよ」

「うん」

「今日は、急所を狙うのは避けよう。僕達を頼って、ゆっくり心を強くしていこう」

「……うん」

 リースは体を前に向ける。

「皆、ありがとう……。大好き……」

 その言葉に皆が微笑み、視線が前方の盗賊達に定まった。

「行くわよ!」

 エリシスの掛け声と共に、アルス達は盗賊達へと走り出した。

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