お昼を少し回った頃――。
アルス、リース、エリシス、ユリシスの四人は、アルスに引っ張られて町を後にしていた。
そして、エルフの隠れ里に行く途中の森の中で、アルスが説明を始めようとしていた。
「これから知人の居るところに案内するけど、約束して欲しいことがあるんだ」
「何で、知人に会うだけで約束がいるの?」
リースの質問に同意して、エリシスとユリシスも不思議そうにアルスを見る。
「約束できる?」
しかし、アルスの言葉と視線は、尚も問い掛ける。
「約束する」
「あたしも」
「わたしもです」
「信用するからね」
アルスは、一呼吸あけて話し出す。
「これから向かうところは、エルフ達の住む場所なんだ」
「「「エルフ⁉」」」
案の定、三人は声に出して驚いた。
アルスは人気のない場所まで引っ張ってきて良かったと、改めて思った。
「エルフが人間嫌いなのを知ってるよね?」
「知ってるけど、御伽噺程度よ」
「わたしも」
「私は少し知ってる。移民の街の前の町――ドラゴンチェストにエルフが居たって。でも、酷い目に合わされたって」
「うん、それは真実。だから、人間を嫌ってる。そして、そういう人達が居るのも事実だから、絶対に話して欲しくないんだ」
エリシスは腕を組んで、アルスに話し掛ける。
「あたし達は、そういうことをしないわ。そういうことをやられた立場だから、その馬鹿みたいな行動の愚かさは分かってるわ」
「絶対に言いません」
アルスは頷く。
「リースは?」
「言わない」
「ありがとう」
アルスは安心すると、話を続ける。
「少しだけ言っておくね。リースの町の人達が前に住んでいたドラゴンチェストの町……。そこでお爺ちゃんは、親友のクリスさんと奴隷を解放しているんだ」
「奴隷を解放? それって、ドラゴンレッグの砂漠の前の町ですか?」
「うん、ユリシスは知ってるの?」
ユリシスは頷く。
「知ってます。ドラゴンアームからドラゴンテイルを結んだ町です。そして、騎士とアサシンが道を守るようになって、ドラゴンヘッドからドラゴンテイルまでが安全に結ばれました」
「それで、少しだけドラゴンチェストが変わったのよね。――あ、そうだ」
「どうしたの?」
エリシスがアルスを指差す。
「ブラドナーって苗字が引っ掛かってたけど、あんたの爺さん、有名人だったんじゃない」
「ブラドナーは、有名な騎士の家系だからね」
「町を救ったのがアルスの爺さんか」
「いや、切っ掛けを作ったのは魔法使いのクリスさんの方だよ」
「切っ掛け? 魔法使い?」
エリシスが分からずに眉を歪める。
「クリスさんは、お爺ちゃんの親友で魔法使い。そして、エルフの女の子に恋をして、町ごと救っちゃったんだ」
「「「嘘⁉」」」
女の子三人が食いつき、アルスは一歩後退する。
「ほ、本当……」
「なになに⁉ あたしらが知らない話があるの⁉」
「聞きたいです!」
「私も!」
「……こういうの好きなんだ?」
「「「好き!」」」
アルスは引き攣った笑いを浮かべる。
(クリスさんは嫌がるかもしれないな……)
しかし、昔から、からかわれていることを思い出すと、話してもいいかという気にもなってくる。
(話してしまおう)
アルスは咳払いを入れる。
「簡単に話すけど、クリスさんはその町のスラムの出身で、ある日、奴隷商人に買われたエルフの少女と出会うんだ。その子の『助けて』という声を聞いて、クリスさんは助けに入った。だけど、奴隷商人に雇われたハンターに手も足も出ない。そこで、奴隷商人は取り引きをしたんだ」
「取り引き?」
「三年で100万Gを稼いで、エルフの少女と交換っていう条件」
「酷い……」
「そんなの無理だよ……」
「でも、クリスさんはお爺ちゃんと親友になって集めたんだ。ハンターになって、お金を稼いだ」
「それで、救い出したのね?」
アルスは首を振る。
「いや、救い出せない。奴隷商人がクリスさんからお金だけ取って、エルフの少女を奪おうとしたから」
「そんな……」
「そんな奴、袋叩きにしてやればいいのよ」
「その通り」
「へ?」
「クリスさんとお爺ちゃんが奴隷商人と雇われてたハンターをやっつけた」
「カッコ良過ぎるでしょ? で?」
「クリスさんは、エルフの少女を取り返したよ」
「「「お~!」」」
三人は満足顔で微笑む。
しかし、アルスの話には続きがある。
「だけど、三年の間にエルフの少女は鉱山の重労働で目を患ってしまっていたんだ。折角、再会したのにエルフの少女は、クリスさんを見ることが出来なかったんだ」
「……もしかして、バッドエンド?」
「続きがあるよ」
「ハッピーエンドでしょうね?」
「落ちから話す?」
「それは勘弁して……」
エリシスは項垂れて拒否した。
「クリスさんは、本当は直ぐにでも目を治すために奔走したかったけど出来なかった。町は奴隷商人のせいで奴隷になった他のエルフも居たし、奴隷の人間も居た。何より、生まれ故郷全体がおかしくなっていたんだ。スラムがあったり、町の人の売り上げが奴隷商人に渡ったりで、クリスさんはエルフの少女を優先できなかった」
「どうして?」
「一人だけ優先すれば、エルフの少女が傷つくと思ったからだよ。他の人を置いて、自分だけ助かって平気?」
三人は首を振る。
「だから、町を復興させてから、エルフの少女の目を治すことにしたんだ」
「随分と遠回りをしたんですね」
「だけど、そうしないと誰も救われなかったよ、きっと。クリスさんも、嫌いだった故郷を好きになったし……。僕はお爺ちゃんから聞いて、これが最善だったと思った」
「そうですね……。その後は?」
「町を復興させて、他のエルフ達も引き連れて、ドラゴンアームの神聖な水でエルフの少女の視力を取り戻したよ」
「「「それで?」」」
「二人は、今もエルフの隠れ里で暮らしてる」
「ナイス! ハッピーエンド!」
「素敵です……」
「それで、アルスのお爺ちゃんはエルフと縁があるんだ」
少女達は、うっとりとしている。しかし、疑問が残る。
「何で、エルフの隠れ里に行けたの?」
「その話は別にあって、お爺ちゃんが関わってる」
「それも聞きたいわ」
「わたしも」
リースもアルスに頷く。
「エルフの隠れ里に到着しないから、歩きながら話そうか?」
アルス達はエルフの隠れ里を目指して出発する。その間、イオルクがエルフの隠れ里に行くことになった話で、道中は盛り上がった。