一方のアルスは霧に覆われた山を登り切り、エルフの隠れ里へと到着していた。
出迎えたのは皺が刻まれた顔の老人。しかし、背筋は真っ直ぐ、髪も白髪に変わるところがなく茶髪を保ち、服はエルフ達が着る服と同じデザインのものだ。
「久しぶりだな、アルス」
「クリスさん……」
「イオルクの馬鹿は、一緒じゃないのか?」
「はい……」
「どうしたんだ?」
「……亡くなったんです」
「嘘だろ?」
「本当です……」
アルスの言葉に、クリスは暫し言葉を止めた。
「病気か? それとも、誰かに殺されたのか?」
「寿命です」
「そうか……、そうだよな。アイツは、誰にも負けるような奴じゃねぇからな」
「はい」
アルスは左腿に当たるメイスに手を掛ける。
「お爺ちゃんの最後に造った武器です」
アルスはメイスを地面に置いてロックを外すと鞘が開き、本来の姿を現わす。
「もしかして……、オリハルコンで出来ているのか?」
「はい」
クリスは地面に胡坐を掻いて直に座る。
「手に取ってもいいか?」
「やめておいた方がいいと思います。お爺ちゃんの家族の人達は、危なさに気付いて触れませんでした。クリスさんは、それに気付いてないみたいですから」
「……なるほどね。武器の扱いに長けている者か、武器を造れる者にしか分からないってことか」
クリスは仕方なく納得する。
「これは、それほどのものなのか?」
「はい」
頭に手を当て、クリスは大きく息を吐く。
「イオルクじゃなくて、アルスの言葉なら信じた方がいいな。従うよ。――だけど、素人目から見ても凄いのが分かるぜ。店で売られてる新品の剣よりも光って見える」
「そこは変わらないかと……」
「アルス、そこは嘘でも頷いとくとこだろ?」
「すみません」
「ったく、正直な奴だな」
クリスは笑ってみせる。
「この武器、他にも仕掛けがあるんだろ?」
「よく分かりましたね?」
アルスは鞘に再びロックをして大剣を封印するとメイスに戻す。
「この大剣、魔法が撃てるんです」
「へぇ、どれどれ」
クリスは立ち上がって、メイスに戻った大剣を握る。
「くそ重いな」
「大剣に白剛石の鞘が付いていますからね」
クリスは何とか両手で持ち上げる。
「で、どう使うんだ?」
「柄から撃ちたい系統のイメージと魔力を送り込むだけです。あと、撃つ時に発射するイメージ」
「簡単じゃねぇか」
クリスは火属性のイメージで魔力を送り込む。
「で、あとは……、行け!」
メイスの先端の穴から、圧縮された火球が飛び出した。
「凄ぇな……。本当に出やがった……」
「簡単でしょう?」
「ああ」
「それなら大剣に魔力を貯めれるから、僕でも使えるんですよ」
「そういうことか」
クリスはニヤリと笑うと、メイスを下ろした。
「さすが、イオルク。仕事に手抜きがない」
「信用しているんですね」
「そういう関係だからな。お前も、そういうダチを作れるようになりな」
「……それ以上のものが出来ちゃったんですけどね」
「は? 何だよ、それ?」
アルスは視線を斜め下に向ける。
「娘……」
クリスは頬をチョコチョコと掻いて、一呼吸置く。
「……お前、彼女作って妊娠させたのか?」
「違います。十歳の女の子を十五歳になって直ぐに、養子にすることになったんです」
「何で、そんなことになるんだよ?」
「僕と同じ境遇の子で孤児院に連れて行ったら、そこのシスターが、その子の受け入れを拒否して仕方なく……」
クリスは呆れながら腕を組む。
「イオルクもトラブルを引き込むタイプだったけど、お前もそうだったのか?」
「そうみたいです」
「その話を聞くと、悲しい話が悲しくなくなるな」
「皆さん、同じ反応ですよ……」
「だろうな。――で、その子は?」
「連れて来るにしても、里の皆さんに許可を貰わないと」
「イオルクだったら、許可取らずに連れて来たと思うけど?」
「僕には出来ませんよ」
「お前、本当にイオルクに似てないな」
「さっき、同じタイプだって言ったじゃないですか……」
「タイプと性格は別もんだろ」
「クリスさんのルールなんて知りませんよ……」
クリスは、再び笑ってみせる。
「しかし、少し切り返しのキレが良くなったな」
「ああ……。もう二人、旅の仲間が出来たから……」
「他にも居るのか?」
「何か強引に着いて来ちゃって」
「お前、イオルクが居なくなってから、トラブル発生能力全開だな」
「どんな能力なんですか……」
「案外、イオルクの影に隠れて分からないだけで、ちょくちょく発生してたんじゃないか?」
「お爺ちゃんの影で、僕が目立たなかったのは認めますけど……」
アルスは、そんな厄介な能力は要らないと思った。
「それで、あとの二人は?」
「双子の姉妹です」
「女ばっかりだな」
「出来れば相談できる男の人が欲しいんですけどね」
「でも、ハーレムじゃないか?」
「皆、子供ですよ」
「お前、そういうのダメだっけ?」
「ダメっていうか、まだ女の人を特別視してないです」
「そうか。第二次成長は、まだ先か」
アルスは溜息混じりに付け加える。
「お爺ちゃんのせいで、女の人を見慣れちゃったせいもありますけどね」
「ああ……。あの馬鹿、旅先でアルスを娼館まで引っ張って行ってたんだっけ?」
「はい……。お陰で、女の人が裸で歩いてても平気になっちゃいましたよ」
クリスは大笑いをしている。
「本当、悲しい話が笑い話になっちまうな。でも、イオルクが死んだってことは、次はオレかもしれない。今日は、ゆっくり話を聞きたいよ」
「いいのかな? 許可が下りなかったら、このまま帰るつもりだったんだけど……」
「話はつけとくよ」
「そんな簡単にいいんですか?」
「アルスが許可を取りに来たってことは、そいつらを信じてるからだろ? オレに紹介できない奴らなら、オレに話さないで、そのまま帰るはずだからな」
「クリスさん……」
「待ってるぜ」
クリスは手を振ると、里のエルフ達に伝えに行った。
アルスは信頼してくれたクリスに頭を下げる。
「ありがとうございます」
アルスはエルフの隠れ里を後にした。