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作製編  44 【強制終了版】

 ドラゴンウィングへ向かう砂漠の前の町の宿屋、兼、レストラン――。

 Aランチを四人分頼み、アルス達は昼食を取っている。アルスとリースの目の前では、無言で食事をし続ける姉妹。

 全て完食し終えると、姉妹は大きな息を吐いた。

「生き返った……」

「本当に……」

 リースが唖然として質問する。

「いつから食べてないの?」

「二日前よ」

「どうして?」

「ボロボロになった武道着を有り金叩いて新調したんだけど、盗賊が出て来なくて」

「それで?」

「だから、営業所でここら一帯の事件を頭に入れて、金づるを探してたのよ」

「それがアルスだったんだ……」

 武道着の少女はアルスを見る。

「へ~。あんた、アルスって言うんだ」

「アルス・B・ブラドナー。こっちは、リース・B・ブラドナー」

「兄妹か。あたし達と一緒ね」

「いや――」

「ん?」

 アルスは視線を斜め下に向ける。

「――親子」

「親子? ……ふ…くく……あはははははっ! 何っ⁉ 何でっ⁉」

 武道着の少女は爆笑している。

「孤児院に連れて行ったら、そこのシスターに親子にさせられちゃったんだ」

 武道着の少女は笑い過ぎの涙を拭う。

「ああ、可笑しい……。二人は幾つなの?」

「十歳と十五歳」

「世の中には信じられないことが起きるわね」

「人のこと、言えないでしょう。君だって、信じられないことをしたばっかりじゃないか」

「あんなのただの事故よ」

「あれが事故……」

「そうよ。あ! あたしのことは君なんて呼ばないで。エリシス・バルザックって、名前があるから」

「エリシス?」

「そう。そして、妹のユリシス。あたし達は双子よ。ちなみに十三歳」

「そうなんだ。……あれ?」

「何よ?」

「ユリシスの方は、エリシスのことを姉さんって言ってなかった?」

「言ってるわよ」

「双子なのに、どうして?」

「あたしの方が、先に生まれたからよ」

「そういうことが分かるんだ」

 アルスは『両親が几帳面だったんだ』と感心する。

「全部、姉さんの勝手な思い込みです。本当は、どっちが先に生まれたかなんて分かってません」

 ユリシスの補足に、アルスはガンッとテーブルに頭を打ちつけた。

 リースがアルスの代わりに質問する。

「じゃあ、何で?」

「姉の方が権限が上だという解釈を姉さんが勝手にして……」

(凄い双子……)

 ユリシスの説明に、エリシスは笑っている。

 そして、一頻り笑い終わると、エリシスがアルスに話し掛ける。

「ところで。あんた達はこれから、どうするの?」

「知り合いに会いに行くところ」

「へ~」

「そういうエリシス達は?」

「仇を探してるところよ」

 エリシスの言葉に、リースが反応した。

「仇って?」

「セグァン・アバクモワ……。あたし達の家族を殺した盗賊。そして、これが似顔絵」

 エリシスは、アルスとリースに似顔絵を見せる。

((分からない……))

 手配書の絵は、何かの落書きのように歪んでいた。

「すみません……。わたし達、絵心がないんです……」

 ユリシスが空かさず補足した。

「二人の描いた絵なんだ……」

「快心の出来でしょ?」

 ユリシスは苦笑いを浮かべながら、もう一枚、手配書を出す。

「二ヶ月前に手配書が更新されました。こっちの方なら分かると思います」

 それを見て、アルスとリースが言葉を失くす。

「どうしたんですか?」

「これ、僕が描いた絵だ……」

「「え?」」

 リースは手配書を握って、声を震わせて言葉を吐き出す。

「やっと、名前が分かった……!」

 エリシスとユリシスは『一体、何があったのだろう?』と会話を止めた。


 …


 アルスは、正直、目の前の双子の姉妹に会わなければ良かったと思っていた。リースに仇の存在を知らせるのは避けておきたかった。

 しかし、知ってしまった以上、情報交換が始まってしまう。

「あたし達は、ドラゴンアームに住んでいたの。この世界では神聖な地だから、ドラゴンレッグからの攻撃もなかったし、特別なところだと思ってた。父さんは、そのドラゴンアームの神殿を守る衛兵で、血で神殿を汚さないように武器は棒を使ってた」

「それで、エリシスの武器は棒なの?」

「ええ」

 今度はエリシスに代わり、ユリシスが話す。

「母は魔法使いで、回復魔法と補助魔法を使って衛兵をサポートする役目でした。母も衛兵の一人になります」

「二人とも両親の戦い方をそのまま受け継いだんだ……」

 リースの言葉に、姉妹は頷く。

「そして、一年前にこの盗賊がドラゴンアームの神殿を襲って両親を殺した。その時、襲った盗賊団のリーダーが手配書にあるセグァン・アバクモワなのよ」

「わたし達は、その盗賊を追ってドラゴンチェストに入ったんです」

「ドラゴンチェストの南から探索を始めたけど、見つからなかった。二ヶ月前に手配書に気付いて北上したの」

 今度は、リースが話し出す。

「その手配書が出る前、ノース・ドラゴンヘッドの私の街で皆殺しがあった。私は、その街のただ一人の生き残り」

「リースも同じだったのね?」

「うん……。アルスが私を助けてくれて、街の皆の埋葬を手伝ってくれた。それから、養子にしてくれた」

 エリシスはアルスに顔を向ける。

「あんた、いい奴ね」

「どうも……」

 返事だけを返したアルスに、エリシスは少し首を傾げたあと、リースに質問する。

「ドラゴンヘッドで、その後の足取りは?」

「ハンターの営業所では情報を収集できなかった。訪れた町でも話を聞かなかった」

「あたし達も同じ。ドラゴンアームで噂を聞かなかったから、足を伸ばしてドラゴンチェストまで捜索範囲を広げたのよ」

「そうなんだ」

「でも、同じセグァンなら、もうドラゴンヘッドに居ないでしょうね。そして、ドラゴンチェストの南から来たあたし達が気付かなかったということは――」

「ドラゴンウィングに向かった可能性が高いですね」

 リースとエリシスは、ユリシスの結論に頷く。

 そして、三人の話に区切りがつくと、アルスは少し真剣な顔で質問する。

「エリシスとユリシスの目的は仇討ちだけなの?」

「そうよ」

「はい」

「じゃあ、リースには、これ以上、話さないでくれないか」

 エリシスがアルスを睨む。

「どういうことよ?」

「リースを仇討ちに関わらせたくない」

「あんたの意見は知らないけど、リースは、どうなのよ?」

「復讐を望んでる」

「だったら、あんたは関係ないじゃない」

「積極的に関わらせたくないんだ」

「間違ってるわよ。本人の気持ちも尊重しなさいよ」

「だったら、僕の気持ちも尊重していいはずだ。僕は、もうエリシス達に関わらない」

「あんたって……、最悪!」

 アルスを睨むエリシスに、ユリシスが声を掛ける。

「姉さん……。リースさんは、わたし達よりも小さいんだから、アルスさんの言うことも分かってあげないと」

 リースを見ると、エリシスは舌を打つ。

「分かったわよ。その子、ただの町の子供だったんでしょ?」

「うん」

「もう、関わらないわよ」

「うん」

 リースは少し俯いたあと、アルスに話し掛ける。

「アルス……。私、今、ここで関わらなくても、大きくなれば必ずセグァンを探すよ。そして、仇を討つ」

「そうかもしれないけど、まだまだ先の話だよ」

「アルスが私のことを考えてくれるのも、私が進んで血で汚れるようなことを嫌っているのも、ちゃんと知ってる……。でも、だからって、エリシス達を遠ざけるのは違うと思う」

「…………」

 アルスは暫く考え込んだあと、エリシスとユリシスに頭を下げる。

「ごめん、言い方が悪かった。リースを刺激するようなことを言わないであげて欲しいんだ」

「……許してあげるわ」

「わたしも気にしてません。――というか、姉さん」

「ん?」

「わたし達、まだアルスさん達に謝罪の一つもしてないんですけど……」

「…………」

 エリシスは渋い顔で、一筋の汗を流す。

「あ、謝らないといけないかしら?」

「人としての常識があるなら」

 エリシスは仕方なさそうに謝る。

「悪かったわね……、疑って」

(こんな誠意のない謝り方は初めてだ……。でも、僕も酷いことを言ってしまったし……)

 アルスが頷くと、話はここで終わった。

 その後、アルスとリースが昼食を食べ終えると、アルスは会計の書かれた紙を取る。

「じゃあ、払っておくから」

 席を立ち、アルスはリースを連れて出て行こうとする。しかし、アルスの外套をエリシスが掴んだ。

「まだ、何かあるの?」

「あの、その……」

 エリシスは視線を斜め下に落とす。

「謝罪は、もういいよ。お互い謝ったんだし」

「そうじゃなくて――」

 アルスは首を傾げる。

「――宿代、貸して」

「……すみません」

 アルスは溜息を吐いた。

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