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序章・切っ掛けの少年 24

 更に一日が経過した――。

 この日も家で謹慎中のはずだったイオルクだが、午前中に城の議会に呼び出しを受けていた。

 その呼び出しの大凡の流れをフレイザーとジェムは知っていたが、呼び出したのがイオルクへの処分を下すはずの王ではなく議会の呼び出しというのに、二人は不安を覚えた。

 父のランバートは議会の役員でありながら昨日から身内を理由に参加できないことと、息子達の反応から王を踏み台にした件だと予想がついていた。

 家族の中で理由の分からない母のセリアだけが動揺をしている。

 それを見たフレイザーとジェムは、安心させようとセリア近づいて声を掛ける。

「大丈夫ですよ」

「暗殺者と対峙したから、イオルクの証言が欲しいのです」

「でも、昨日から謹慎なのよ……」

 そう不安を漏らしたセリアに、張本人のイオルクが笑顔でセリアに話し掛けた。

「謹慎なんて、よくあることじゃないですか。俺にとって、謹慎は休暇と同意義です。だから、今日は休日出勤みたいなもんですよ」

 頭の後ろで手を組み、いつもと変わらない緩い顔を張り付けているイオルクの頭にセリアのグーが炸裂した。

「何で、謹慎中に反省しないのですか!」

 セリアの不安は一気に吹き飛んだ。

 どう励まそうかと悩んでいたジェムとフレイザーだったが、余計なお世話だったように感じた。イオルクが居れば、何もしなくても勝手にセリアの導火線に火が点き、怒りが勝手に不安をどこかに吹き飛ばすのが、この家の日常だった。今は大爆発前の、導火線が燃えている最中といったところだろうか。

 そのセリアの導火線に火を点けたイオルクは、何事もなかったように殴られた頭をガシガシと掻き、面倒くさそうにしている。

「この子は、本当に昔から……」

 額を押さえるセリアを見て、フレイザーとジェムは何処か安心していた。あとは時間を掛けて、ゆっくりイオルクの呼び出された理由を話すだけでセリアは不安ごとを忘れるだろう。

 フレイザーがいつもの厳格な声でイオルクに言う。

「イオルク、早く行け」

「は?」

(兄さん、ここを潮時と見計らったな)

 兄弟ならではの感覚。ジェムはフレイザーの考えを読み取り、フレイザーがこれ以上イオルクに場を荒らされるのを嫌ったのだと判断する。

 そうと分かれば、ジェムが行動に移すのも早い。

 直ぐ様、イオルクに効果覿面の言葉を投げる。

「イオルク、そろそろ母上の導火線が切れるぞ」

「…………」

 そう聞いたイオルクは無言で右手をあげると、逃げるように家を飛び出していった。


 …


 王都の町を疾走し、呼び出しの時間よりも早く城に着いたイオルクは、城門の受け付けで直ぐに会議場に向かうように指示を受けた。

(随分と早く着いたんだけど、相手の方はいいのかな?)

 そんな疑問が浮かびながらも指示された通り、イオルクが会議場に辿り着くと、会議場は既に多くの者が集まっていた。

 だが、会議場の観覧席や議席にイオルクの座る席はない。代わりに用意されていたのは、会議場の真ん中に立たされて質疑応答をするという裁判の被告人のような立ち席だった。

(こっちの方が、母さんの小言を聞くよりマシじゃなかったのか……)

 イオルクは今だ現状を理解しないまま、溜息を吐いた。

 そして、王を足蹴にした張本人が指定の立ち席についたことで進行役が一歩前へ出る。

『本日は、一昨日起きた暗殺事件に関しての審議をしたい』

 進行役が言葉を発すると、会議場の空気が一段張りつめ、会議場の人々の目は一心に真ん中の立ち席へと向かった。

 イオルクが不思議そうな顔をして、司会役に訊ねる。

「何で、状況確認じゃなくて審議になるの?」

『心当たりは無いか?』

「俺、審議を問われるような悪いことしましたっけ?」

 間抜けなイオルクの声が響き、イオルクへの審議が始まった。


 …


 急遽行われた審議会はイオルクの愚行を問いただして審議するためだけではなく、最終的な判断を任された王がイオルクの言い分を聞いて処分を下すための判断材料を収集するためのものでもある。

 会議場の隣りの部屋では王とユニスが控え、審議の会話を聞いていた。

 この部屋にはイオルクが心配で堪らず、王に無理を言ってユニスが着いて来ていたのだが、初っ端からイオルクがあまりにいつも通り過ぎて笑いを堪えていた。

 反対に判断を下すべき王は頭を押さえ、声を漏らす。

「何故、あの者には一国の王を足蹴にした自覚が無いのだ……」

 笑うのを堪え切ったユニスが、息を整えながら王に理由を告げる。

「それはきっと、イオルクが目的を果たしているからでしょうね」

「目的? 暗殺を阻止したことを言っているのか? その過程など、どうでもよいというのか?」

 ユニスは頷いた。

「長い付き合いだから分かるのですが、暗殺からわたしを守れたことで満足して、イオルクの中では、もう終わったことになっているのだと思います」

「どういう男なのだ? 私を踏みつけたことはまるで覚えていないのか?」

 王は溜息を吐いた。

 その王を見て、ユニスは思う。

(お父様、その忘れていることが凄いことなのです。イオルクは体を張って暗殺を阻止したことを当たり前だと思ってくれているのです。あの場でわたしが傷ついて、悲しむ人が出ることの辛さを分かっているから行動してくれたのです。その悲しむ人には、お父様、お母様が含まれているのですよ)

 イオルクの行動は身近にいる者にしか分からないことが多い。それはドルズドの経歴の改竄で歴史に記されないことがあったり、友との約束のために本人が隠したせいであったりと、周りの人に情報が入らないからである。

 それでもユニスは、王が審議会での話を聞いて、イオルクのことを分かってくれると信じていた。


 …


 会議場では進行役が溜息を吐いて、イオルクに補足を入れていた。

『王様を足蹴にしたであろう? そのことについて言っているのだ』

「ああ、そのことか」

『言い訳はあるか?』

 その問いに、イオルクは待ち時間なしで答える。

「ない」

『では、王を足蹴にした非を認めるのだな?』

 しかし、そう問われると、イオルクは腰に右手を当てて否定する。

「認めない。認める必要もない」

 その回答に会議場がざわめく。それは当然であろう。王を足蹴にしたことは認める。しかし、それに対しての非を認めないと、端から見れば矛盾するようなことを言っているのだから。

 進行役が思わず訊ね返す。

『お前は、一体、何を言っているのだ?』

 そう言われると、イオルクは鼻から大きく息を吐き出した。

(何か、ズレてる気がするんだよな。コイツらの言ってることって、全員無事だったという結果からピーチクパーチク難癖をつけてるだけって感じがして。もし、王様やユニス様が傷でも負ってたら、同じことを言っていられたのかね?)

 イオルクは頭を掻きながら会場を見渡し、くだらないもののようにボソッと言った。

「そんなんだから、最近の騎士団は温いんですよ。ドルズドなんかに出し抜かれて」

 会場の空気が一瞬で変わる。

 ピリピリと空気が震え、会場のあちこちから怒号が響いた。

『言葉を弁えろ!』

『貴様は何様のつもりだ!』

 会議場からの非難の声は城の一角でありながら、城中に聞こえるのではないかというほど大きなざわめきとなって響き渡った。


 …


 隣りの部屋でユニスが頭を抱える。

「イオルクの馬鹿! いきなり会場全体を敵に回して、どうするのよ!」

 さっきまで笑いを堪える余裕を見せていたユニスだったが、今のイオルクの言葉は予想外だった。

 ユニスは王である父親の前であることも忘れて、頭を抱えて苦悶し続ける。

 それを見かねた王がユニスの右肩に手を置く。

「落ち着きなさい」

 ユニスが勢いよく王に顔を向けて叫ぶ。

「だって! イオルクったら、いきなり!」

 王はポンポンと二回ユニスの右肩を叩き、大人の対応で静かに話し掛ける。

「大丈夫だから落ち着きなさい。私は、あの者の言っている続きが気になるし、悪い印象も持っていない」

「……本当ですか?」

 王は頷くと、真剣な顔で会場の方へと耳を傾けた。

 先ほどのイオルクの辛らつな言葉と、それに対する議会の役員や騎士達の反応を聞き比べ、王は僅かに心の引っ掛かりを感じていたのである。


 ――今、正しいことを言ったのは誰だったか?

 ――そして、何故、そのことを言われた者は、怒りをあらわにしなければいけなかったのか?


 怒りを向ける矛先が違う……そのなような疑問が王の胸に湧いていた。


 …


 イオルクが進行役に質問する。

「この中で、あの日に戦場の空気がしていたのに気付いていた人は居るんですか?」

『戦場の空気?』

 イオルクは頷くと、両手を軽く広げて続ける。

「暗殺者に気付いてからでもいい。殺気、音、臭い、感覚……何でもいい」

『一体、何を言っているのだ?』

 かつて騎士であったはずの進行役に、イオルクの言っていることは伝わらないようだった。

 回りくどいと思ったイオルクは、自分の取った行動のありのままを告げる。

「あの時、あそこは戦場だったはずだ。戦場に王など存在しないし、同士であり、ユニス様のの危機に立ち向かう仲間だったはずだ。だから、俺が踏み台にしたのは王ではない」

 そうイオルクが言うと、一瞬、会議場が沈黙した。

 そして、直後、今度は会場中で嘲笑う声が響く。

『アイツは、王と騎士の区別もつかないのか?』

『そんな見習いに入る前の希望者が夢見るようなことを、本気で言っているのか? 現実は、そんなものではない』


 ――王と騎士が一緒などと、この騎士は何も分かっていない。

 ――きっと、騎士の階級が何を表すのかも分かっていない。

 と、皆が笑っていた。


 あまりに純粋すぎたイオルクの言葉は、階級や地位によって区別されるのが当たり前になってしまったノース・ドラゴンヘッドでは受け入れられない発言だった。理想を持ち込んで押し通そうとしているだけだと、笑われたのだ。

 しかし、どんなに笑われようと蔑まれようと、親友と語った騎士像を貫いたイオルクの顔は話し始めた時と変わらず、間違っていたと恥じることも後悔を浮かべることもなかった。


 …


 会議場の雰囲気を感じながら、ユニスは零すように囁いた。

「酷いよ……」

 ユニスは、イオルクが嘘をついてないのを知っていたから悔しかった。そして、今、イオルクが笑われている理由が、かつてイオルクの親友を奪ったドルズドの考えと変わらない、地位や欲が作り上げた貴族の規則のように感じていた。


 ――あの時、イオルクと同じ行動を取れた者がどれだけ居ただろうか?

 ――騎士として動いた者が、何故、嘲笑の的にされているのか?


 イオルクが、また見習いの時と同じ理由で理想を汚されたのだと思うと、ユニスの目には涙が溜まり、父である王に顔を向けた。

「お父様、イオルクは間違っていません! いち早く暗殺者に気付いたのはイオルクだけでした! それはイオルクが、あの場所を戦場だと感じたからに他なりません! イオルクは嘘など、言っていません!」

 ユニスの目には訴える強さの他にも、怒りも見て取れた。それは自分を助けてくれた者が、本気であったことを知っていたからだ。暗殺事件で自らも命の危機に遭い、その時にどのような恐怖が身に降りかかり、それを跳ね除けるのにどれだけの勇気が必要かということを知ったからでもある。

 言葉以上に語るユニスの目を見て、王は分かったような気がした。

(ああ、あの時、心に引っかかったのはこれだったのか。あの者――いや、イオルクの言葉が粗野だったために悪びれた様子もないように聞こえたが、イオルクの声は戦場として戦った騎士の言葉だったのだ。皆が私を王としてしか見ない場面でも、イオルクだけが私を騎士として見ていてくれたのだ)

 王はユニスの目元を優しく拭い、優しい声で言った。

「分かっているよ。何故なら、今、一番にイオルクの言葉を理解しているのが、私だからだ」

「え?」

 王は目を閉じ、あの暗殺の起きた広場で感じた感覚を思い出す。

「ああ……今ならよく解かる」

 王は、ゆっくりと目を開ける。

「私は、イオルクに命令されて踏み台を作った時、確かにあの場所を戦場だと感じていた。そこでは、私は見習いの騎士だった」

「お父様……」

 イオルクの言葉を理解してくれた父に安堵すると、ユニスは落ち着きを取り戻した。

 そして、まだ涙の溜まっている目で穏やかな声で言う。

「あの時、お父様は見習いの騎士まで戻ってしまっていたのですか?」

「そうだよ」

「きっと、お父様が見習いの騎士まで戻ってしまったのは、イオルクの皮の鎧のせいね……」

「ああ、そうかもしれない。イオルクの声に無意識に体が動いた」

 ユニスは胸の前で手を重ね、嬉しそうに王に目を向ける。

「じゃあ、わたしを助けてくれた騎士は、お父様とイオルクだったのですね」

 王は驚いた顔をする。

(……そうだ。結果からすれば、私はユニスを助けるためにイオルクと共に、あの暗殺者に立ち向かったことになるのだ)

 王がイオルクの踏み台になったのは、イオルクの気迫に気圧されたことが大きい。

 だが、王もイオルクも同じ気持ちなのだ。


 “ユニスに危機が迫れば、ユニスを助けたい”


 イオルクが足蹴にした理由は、あまりに単純だった。それだけのことでしかない。

(なんと……なんと単純な理屈なのだ。イオルクの言葉に嘘はない。会議場で審議をしているのは、何の審議だ? 何故、こうも単純な理屈に目が行かずに、私を踏み台にしたことの方へと、私を含め、皆の意識が向かってしまうのだ?)

 そこで王の脳裏に部隊別のトーナメントが行われた闘技場でのユニスの言葉が、ふと蘇る。


 ――『わたしも見誤っていました。それだけの騎士ではなかったのです。一番大事にしなければいけない純粋なものを持っていたのです』

 ――『人は、それを総称して単純と言い換えています。だけど――だからこそ、信頼できるのです』


 ユニスの言った意味が、唐突に理解できた。

 王はユニスを優しく抱きしめて、心の底から思ったことを言葉にする。

「あの広場で、お前を守る騎士になれて良かった。ユニスが無事で本当に良かった」

「お父様、わたしを守ってくれて、ありがとう」

 ユニスの体温を感じながら、王は思う。

(イオルクの想いは確かに純粋だ。あの場で私を王として躊躇していたら、ユニスはどうなっていただろうか? だからこそ――そういう騎士だからこそ、ユニスはイオルクに絶対的な信頼を置いているのだろう)

 王とユニスは、そのまましばらく動かなかった。


 …


 罵詈雑言が飛び交う中で、進行役はイオルクに告げる。

『これ以上の審議は必要ないだろう。私達も、君という騎士がよく分かった。取るに足らないと。他に何か言うことはあるか?』

「いいえ、別に」

『では、これにて終了する』

 これ以上は聞く意味もないと、打ち切られるように審議は終わった。

 イオルクも特に言うことはないと感じ、余計なことを言わずに進行役の言葉に従った。そして、まださわめき鳴りやまない会議場を、イオルクは踵を返して無言で外に出た。


 …


 会議場を出てテラスへ移動すると、イオルクは大きく伸びをして欠伸を一つ。

「だるかった……」

 そのイオルクを見て、クスクスと誰かが笑っている。

 イオルクが振り返ると、ユニスが立っていた。

「どうしたんですか? 一人で居ると、恐い隊長に叱られますよ?」

「フフ……。審議会で落ち込んでいるイオルクを見ようと思って」

「また物見遊山ですか?」

「そんなところ」

 イオルクは石造りのテラスの手すりに背中を預け、右手を返す。

「どうです? お目当ての哀れな騎士を見た感想は?」

「がっかり」

「は? がっかり? お望み通りでしょう?」

「いいえ。だって、落ち込んでないのだもの」

 イオルクは軽く両手をあげる。

「この通り、やる気なくなってますよ」

「それ、元からじゃないの?」

「まあ、審議会そのものにやる気は出ないですけどね」

 いつもと変わらないイオルクにユニスはまたクスリと笑い、一歩近づいて背の高いイオルクを上目遣いにして聞く。

「イオルク、審議会に出た感想は?」

 そう尋ねられると、イオルクは首を傾げながら答える。

「どうなんでしょう? とりあえず馬鹿に馬鹿と言った気分です」

 ユニスは可笑しそうに笑っている。

「変ですか?」

「ええ、とっても」

 ユニスは暫く笑い続け、笑い過ぎで出た涙を右手で拭きながら、左手でイオルクに手紙を差し出した。

「何ですか? これ?」

 差し出された手紙を受け取ったイオルクは、差出人の書かれていない手紙を裏表にひっくり返しながら不思議そうに見ていた。

 ユニスが答えを明かすように言う。

「お父様から。今夜、一緒に食事をしながら処分を下すって」

 それを聞いたイオルクは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

「さっき、審議会が終わったばかりなのに王様は判断が早いですね?」

「驚いたところ、そこなんだ?」

「驚きません? まだ会議の内容も伝わってないだろうに」

「全然」

 直ぐ隣りの部屋で審議を聞いていたとは知らないイオルクが、どう反応を返すか知りたくて、ユニスは『全然』と嘘を吐いた。

「ユニス様も大概にして変ですよね」

「えーっ⁉」

 だが、返って来た答えは、まさかの自分も変人扱いだった。

 嫌そうに頬を膨らますユニスの態度を見て、イオルクは笑っている。

「行きましょうか? 俺、謹慎中だから、あまり城内をウロウロできないし、部屋までユニス様を送ったら、帰ります」

 ユニスがイオルクの左手を取る。

「ええ、行きましょう。あと、イオルク……今度も助けてくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

 イオルクはニッとユニスに笑って見せると、右手を頭に持って行って呟く。

「アイツらも、これだけ素直だと楽なんだけどなぁ。何で、これだけで済む話が審議会なんて面倒くさいものまですることになるのかね?」

 イオルクの言葉に同意するように、ユニスは頷く。

「寧ろ、わたしの方が感謝を伝えきれないぐらいなのにね」

 イオルクは左手を握るユニスに顔を向けて顔を振る。

「それはないですよ。『ありがとうの言葉』と『ユニス様の笑顔』が貰えれば、それで十分。ダチに、それ以上を求めるのは間違いです」

「ダチ?」

「俺の感覚じゃ、ユニス様は守るべき主君であり、もっと身近な存在ってこと」

 そう言って、イオルクは歩き出した。

 ユニスは歩き出したイオルクの横顔を見上げる。

(そうやってイオルクは、あの時、お父様も同じ同士として認めたのよね)

 見上げるユニスの視線に気付き、イオルクはニカッと笑って見せた。

「やっぱり、貴方に認めて貰うのは尊いことなのだわ」

 助けてくれた感謝の気持ちと身分の違う自分を友達と思ってくれる嬉しさが、ユニスの胸を満たしていた。

 ユニスは部屋に辿り着くまで、イオルクの手を放さなかった。

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