事件から一日――。
城の会議場では会議が開かれ、暗殺までの経過と報告が議論されることになった。説明は一通りの詳細を纏めた学者の口から始まった。
『今回の暗殺事件について、分かっている範囲で説明させて頂きます。今回の催しは、多大な成果をあげて遠征を終えた部隊を労う式典でした。警護は式典の広場の外をフレイザー様率いる部隊で警護。内側をジェム様率いる部隊で警護。王族の方々は、各親衛隊が警護していました。そして、一番の問題である建物の警護をしていたのがドルズド様の部隊になります』
『そうだ。建物に易々と侵入されたドルズドこそ、問題だ』
『ドルズドをここに呼び出せ』
議会に参加した部隊長の何人かから、ドルズドを責める発言が会議場に響き渡った。
それに対して、学者が一拍空けて答える。
『残念ながら、ドルズド様を呼ぶことは出来ません』
『何故だ?』
『ドルズド様は、昨夜殺されました』
会場の中がざわめく。
『何があったのだ?』
『首謀者がドルズド様だった……と、我々は予想しています』
会場が大きくざわめくと、進行役が呼び掛ける。
『御静かに! 御静かに御願いします!』
進行役の注意で会場は落ち着きを取り戻していくが、ざわざわと話す声が完全に消えるまでには暫しの時間を要した。
学者は会場が静かになるのを確認してから、ゆっくりとした口調で話を続ける。
『順を追って説明します。ドルズド様は、塔の警護に部隊を配置していませんでした。これは暗殺発覚後、突入したフレイザー様の証言からも間違いありません。突入から塔を駆けあがって暗殺者の死体を確認するまで、フレイザー様は警護の人間に誰一人として会っていません』
『つまり、今回の暗殺に合わせて塔はもぬけの殻だったということなのか?』
『恐らく』
『暗殺の計画を事前に知ることは出来なかったのか?』
『難しいと思います。今回の警護は部隊ごとに区切られていたので、警護の情報が外には漏れません。それに事情聴取の結果、ドルズド様は巧妙に自分の小隊に知られぬよう配置を御命じになったようです。塔を挟んで左右の建物に配置を分散したことで、建物に居ない騎士の誰かが塔に配置されていると騎士達は思い込まされていたようです。実際は部隊を二つに分けて左右に配置し、塔には暗殺者しか居なかったのです』
『そんな単純なカラクリなのか?』
『はい。単純だからこそ、思い込みも強かったのかもしれません』
会場には、何とも言えない空気が漂っていた。
『続けます。次は暗殺者についてです。暗殺者は証拠隠滅のため、何者かによって殺されています。犯人はモンスターの類で、塔から出る獣を何人もが目撃しています。死体の喰い千切られた痕から見ても間違いないでしょう。また、頭部から胸を喰い千切られているので、暗殺者の身元は分かりません。分かるのは残された遺留品から分かる暗殺者の能力だけです』
『能力?』
『はい。皆さんも目撃したはずです。暗殺者を追い詰めた姫様の親衛隊の武器が切断されたのを』
『あれは折れたのではないのか? 切断なのか?』
『はい。紙のように切り裂かれています。これは、その親衛隊の者に借りた武器です。二本、対のロングダガーで、こちらが切断された方の切り口です』
学者が切断されたロングダガーの柄と剣身を持ち、切り口を見せる。切り口は滑らかで新品の刃物のようであった。
『そのダガーの金属は?』
『この国の良質な鉄鉱石です。簡単に切断できるようなものではありません』
『では、暗殺者は、どのように切り裂いたのだ?』
『親衛隊の者は、ナイフで切り裂かれたと言っていましたが、暗殺者は刀剣の類を所持していません。調査の結果、ロングダガーを切り裂いたのは鏃です』
『馬鹿な!』
会場は再びざわめき、学者は会場が静まるのを待った。さっきと同様、それ以上に会場がざわついたが、学者は粘り強く会場が静かになるのを待ち、会場が静まると説明を再開する。
『たった一度だけの方法です。現場には毒の入った小瓶が八個と空になった小瓶が二個残されていました。この小瓶……内側が鏃の型をしているのです』
学者が暗殺で使われた空の小瓶を掲げ、会場中に見えるように一周する。
『この小瓶に氷雪系の魔法を掛けて鏃が作製されたと思われます。そして、この時に出来た鏃は数十秒の間だけ、恐ろしいほどの切れ味を持ちます』
『溶け切るまでの時間ということか?』
『そうです。毒の液体にも秘密がありますが省きます。詳細は成分表と特徴を纏めている最中ですので……。後日、提出するレポートで確認をお願いします。――状況報告に戻ります。一回目の鏃作製時に姫様の親衛隊の者が現われ、暗殺者は鏃で応戦してロングダガーを切断。同時に姫様の親衛隊の者を窓から突き落としました。まあ、彼は、しぶとく窓の下で体勢を立て直していたのですが……。これにより、暗殺者は一個目の鏃を失います。そして、邪魔者が居なくなった事で二個目の鏃を作製し、ボーガンにセット。しかし、これも失敗。先ほどの彼が防ぎます』
『大したものだな』
『はい。しかも、ボーガンを破壊したあと、しっかり証拠の矢を溶けきる前に確保していました。お陰で我々は、直ぐに暗殺方法が分かったのです』
会場には感嘆の息が漏れる。
『この後は、ジェム様の部隊が王族と貴族の方々を避難させ、フレイザー様率いる部隊が塔の制圧。そして、暗殺者の死体発見に繋がります』
『なるほど。大体の流れは整理できた。……質問していいかな?』
『どうぞ』
『ドルズドは、どのように関連しているのだ?』
『尤もな質問です。まず、暗殺事件でのドルズド様の立場です。本来、暗殺の行なわれた塔にはフレイザー様ではなく、ドルズド様が塔へ向かい、警護をしていたアリバイを得る手筈だったと思われます。しかし、予想外の方法での暗殺の阻止により、主犯であるドルズド様よりフレイザー様への連絡が早く入り、ドルズド様はアリバイとなる塔への侵入が遅れ、姿を消したものと思われます。そして、この事件、根が深いものと思われます。ドルズド様は証拠隠滅のために一族ごと殺されたのです』
会場は荒れる。静止の声も掻き消される。
収拾は無理と判断すると、学者は強引に話を進め、無理に皆の興味を自分へと集中させる。
『黒幕が居ます。それに獣が関わっています。獣自身が意思を持っているのか、命令されて動いているのかは分かりません。しかし、この事件は、ドルズド様とその獣によって計画されたものです。そして、失敗したドルズド様は殺されたのです』
『目的は……』
『姫様の暗殺です。ただし、残された小瓶からも分かるように、狙いは複数人居ます。そして、前回も今回も、姫様が一番の標的に上げられています』
『前回?』
『ドルズド様は、前回の姫様の暗殺にも関わっていたと思われます』
『な⁉』
『屋敷から姫様の部屋に続く道順を何度も検討したような地図が見つかっています』
『一体、これは……』
『何が起こっているのだ?』
『分かりません。狙われたのが王族なら国を狙われたと考えるべきでしょう。報告は、以上です』
学者は席に戻るが、会場はざわめいたままである。そして、収拾がつかないため休憩が入った。その間にも『警護のシステム改善』『騎士団の強化』『ユニスの本格的な親衛隊の組織』などが取り沙汰された。
休憩が終わり、会場が落ち着きを取り戻すと会議が再開される。議題は、次のものへと移る。議題を出したのは学者ではない。
『次の議題は少々厄介ごとだ。先ほどの説明にもあがった、姫様の親衛隊の騎士……イオルク・ブラドナーについてだ。彼は結果的に暗殺者から姫様を守った。本来なら表彰されて然るべき存在だ。しかし、その過程で、彼は王様を足蹴にしている』
会場のあちこちから溜息が漏れる。
『王様を足蹴にするなど、言語道断だ』
『何をどうすれば、そのような行動に繋がるのだ』
そこでティーナが手を挙げ、反対意見を述べようとする。
『言いたいことは大体分かる。しかし、これは第三者の意見が重要なのだ。悪いが、この議題に関しては、姫様の親衛隊の者と親族の者は席を外してくれ』
悔しそうにティーナが拳を握ると、その肩をフレイザーが叩く。
尚もティーナは会場に目を向けたが、会場中の雰囲気を悟り、諦めて拳を解いた。
フレイザー、ジェム、ティーナ、イチは指示に従い会場から退場した。
…
退場した四人は、近くにあるテラスへと移動する。大き目のテラスは四人が横に並んでも十分な広さを持ち、会場の音は一切聞こえない場所だった。
早速、ティーナがフレイザーに頭を下げる。
「先ほどは、申し訳ありませんでした」
「気にするな。私の弟のためにしてくれたことだ」
「……はい」
ティーナは頭を上げ、フレイザーに顔を向けると、フレイザーが口を開いた。
「こうして話すのも久しぶりだな」
「そうですね。私がフレイザー様の下に居た時は、話す機会も多かったのですが」
「姫様の騎士へ昇進が決まった時は、優秀な部下を取られたと姫様を恨んだものだ」
「御冗談を」
フレイザーは軽く笑ってみせる。
「少数の部隊とはいえ、しっかりしているようだな」
「優秀な部下の御陰です」
と、そこにジェムが口を挟む。
「イオルクも、ですか?」
「…………」
その質問に思わずティーナが沈黙してしまうと、フレイザーとジェムが声をあげて笑う。
「やっぱりか」
「そうだと思った。家族である我々ですら手を焼くのだから」
イチが複雑な表情をしてジェムに訊ねる。
「言い難いのですが……。その、イオルクは御家庭でも?」
ジェムが笑顔で答える。
「滅茶苦茶ですよ」
(ここまで言い切られてしまうイオルクって……)
複雑な表情を見せたイチに、ジェムとフレイザーが続ける。
「だけど、憎めなくてね」
「アイツは、自分の気持ちを貫き通せる奴だから」
そこで会話は一度途切れ、イオルクを部下に持つを二人の上司はイオルクのことを想う。
軽い性格だが、イオルクが頑固なのをティーナは知っている。家族にも語らず、親友との約束を守って見習いを続けたことを知っている。そして、見習い最後の一年は、己の信念に忠実過ぎて試験に合格しなかったことも……。
イチは全てを知らないが、ユニスとティーナがイオルクに置く信頼を知っている。そして、それは親衛隊に入って、イチが信頼関係を築き上げて知ったものである。
穏やかな声でティーナは言う。
「……私も同じです。お調子者でいつも怒鳴らされてばかりですが、どこか憎めない」
「そうですね。嘘や冗談を言うことも多いですが、どういうわけか、皆が許してしまう」
イオルクに対してブラドナーの家族と同じ近い印象を持つティーナ達を見て、フレイザーが質問する。
「君達の目から見て、イオルクはどうだろうか?」
「どう……とは?」
「捉え所のない奴でな。質問する方も困る。実力や性格……何でもいい」
ティーナは思う。さっきイチが質問した家族内でのイオルクについての質問の逆。親衛隊にいるイオルクのことを知りたいのだろう、と。
しかし、城内でのイオルクの様子は、概ね共通意識があると思われる。
(何でも……か。最近の手合わせしていて思うことを語ろう)
ティーナはテラスの手摺りに手を掛けると話し出す。
「恥ずかしいことですが、実力は私より上かもしれません」
そうティーナが言ったことに、イチは驚く。朝の修練を見る限り、ティーナの方が、実力が上にしか見えなかったからである。
「そうでしょうか? 私はティーナ殿の方が強いと感じるのですが」
イチに目を向けると、ティーナの口元は小さく緩んだ。
「イオルクとレイピアを合わせると、手加減されているように感じることがあった。己の引き出しをすべて見せず、それでいて私が知らない武器の間合いや特性を見せられているような……。最初はブラドナーの家訓に従って会得した多彩な武器の基礎を身に付けた修練の質の差だと思っていたのだが――」
ティーナは軽く笑う。
「――イチが言ったように嘘をつくのが得意な奴だからな。昨日、王様の親衛隊に抜剣も許さず、走り抜けたアイツを見たら確信に変わった。イチは同じことが出来るか?」
イチは顎に手を当て、昨日のことを思い出す。そして、ハッとあることに気付く。
「そういえば、イオルクはアサシンの身のこなしをやって見せ、親衛隊を置き去りにしたイオルクの足の速さはアサシンと同等のものでした!」
「アサシンと同じ速さの騎士なんて聞いたこともないし、イチのアサシンの動きを再現したとなると、イチに見せていないアサシン対策をイオルクは隠し持っている節があるな」
「む……」
イチが顔を顰めると、ジェムは笑ってフレイザーに語り掛ける。
「兄さん、我が弟の評価は高いですね」
「あの状況だ。実力を隠す暇なんてないだろう。アイツは家族だけでなく、仲間にまで嘘をつくのだな」
フレイザーの言葉にティーナの顔がフレイザーに向く。
(今、家族にも……と? 今の話の流れから出る家族に嘘をついていたというのは――本当の自分の実力を隠していたという意味のはず……まさか)
ティーナがフレイザーに訊ねる。
「もしや、イオルクが見習いだった時の出来事を……ご存知だったのですか?」
「私とジェムだけな」
「嘘つく弟が健気に思えまして……。だけど、うっかり姫様に情報を洩らしてしまいました」
ジェムはユニスにヒントになるようなことを言っていた。そして、それが切っ掛けで、ユニスやティーナはイオルクの過去を知ることになったのである。
(迂闊(うかつ)だった。あの時の姫様との会話で気づくべきだった)
だが、あのイオルクの行動を知っていたのであれば、止めなくてはならないもののはずだ。
ティーナは厳しい顔でフレイザーに言う。
「イオルクが生きていたから良かったものの、ドルズドのせいでイオルクが死んでしまっていたら、どうするのですか? 死んでしまった者は、二度と帰ってこないのですよ?」
そう言われると、普段厳格で鋭い目をしているフレイザーの目が弱々しく沈んだ。
「私達は言えなかったのだ……。騎士である前に家族なのに……」
フレイザーは声を落として語る。
「まだ子供のはずなのに、イオルクは一人の騎士だった。友の誇りと守る仲間のために戦い抜いた。ある日、ジェムと私は戦場で戦うイオルクの姿を見て、何も言えなくなった」
ジェムもフレイザーと同じように声を落として言う。
「本当に、イオルクは家では普段通りの姿しか見せなかったのだ。だけど、一度戦場に出れば、自ら前に出て、作戦の指示も与えられていない仲間のために指揮を執り、味方の被害を最小限に留めようとあらゆる手段を使っていた」
フレイザーが大きな溜息とともに言う。
「そして、これが決定的だった。アイツは戦が終わった後で仲間と笑うのだ。自分の戦果としてではなく、共に生き延びたこと、共に大切な人を守り抜いたことを語り合っていたのだ。それを見せられると、今、イオルクの同士として戦場に居ない自分達が助太刀することは、イオルクの誇りを傷つけてしまうと思わされてしまった」
「あの時、辛かったのは兄さんも私もだったのだ。イオルクは弱音を全然吐いてくれない。頼ってくれれば、それを口実に兄さんも私も手助けすることが出来たのに……。私が出来ることといえば、イオルクを強くするために修練の相手をすることだけだった。イオルクの相手をして鍛えることしかできなかった」
ジェムはフレイザーを見て、苦笑いを浮かべる。
「兄さんは子供が読むには難しい戦略書を噛み砕いて、イオルクにも分かるように本にしてから、そっと家の本棚に混ぜていましたね」
そう言われ、フレイザーは眉間に寄せる。
「今だから正直に言うが、あの手助けは絶対にイオルクにはバレると思っていた。なんせ、イオルクが手にしている本は、全部私の筆跡なのだからな」
ティーナとイチが吹いた。
「イオルクは気づかなかったのですか⁉」
「御兄弟なら三人で署名をしたりする場面もあったでしょう⁉」
ジェムとフレイザーは笑う。
「それどころか、筆記試験に落ちていたイオルクの勉強を父上に見るように言われて、兄さんも私も直ぐ側で何度も紙に試験の答えや説明を書いていましたよ」
「アイツは鋭いのか鈍いのか、よく分からなくなる」
ティーナとイチは、それもどこかイオルクらしいと思い、その抜けているところへ、イオルクの嘘が混ぜ合わさるために普段の嘘を見抜くのがより困難になっているような気がした。
「そういう訳もあって、兄さんと私はイオルクに何かあったら、メペルト家と一悶着起こす準備をしていたぐらいだ」
「そこまでの覚悟を……良い御兄弟なのですね」
「ありがとう」
ジェムがティーナにお礼を言うと、フレイザーが付け加えるように話す。
「見習いのことも今回のことも、アイツに非はない。何処までも真っ直ぐで間違っていない。アイツこそ騎士に相応しい」
その言葉に対して、ここに居る者で異を唱える者は居なかった。本音では家族を頼って欲しかったという言葉を胸の内に秘めていたとしても……。
ジェムが額に手を置き、空を仰ぐ。
「しかし、何で、王様を足蹴にしちゃったんだか……」
そう、あそこで踏み台にしたのが、王でなければ何の問題もない。誰もが、何故、王と分かっていながら踏み台にするのか、と疑問が浮かぶ。
そんな中、イチは何となく分かってしまった。それは、この中では一番イオルクと付き合いが短かかったからかもしれない。
少し離れて見ていた者の視点で、イチは言う。
「イオルクは、仲間意識が強い気がします。新任した私を直ぐに仲間のように扱ってくれましたし、あと……これは言い難いのですが、姫様にもタメ口を叩く時もありますし――」
フレイザーとジェムは苦笑いを浮かべる。
「――だから、相手が王様だろうと、イオルクは戦いになれば仲間と認識して躊躇なく踏み台にした気がします」
ティーナが眉を歪めて言う。
「そういえば言っていた、確かこんなことを……。『俺は例え王様でも、馬鹿だと思った者には馬鹿だと言いますよ』って。本当に思ったことを実行するとは思わなかったが……」
『思ったことは正直に言うし、実行に移す』という宣言をする者が、時々いる。しかし、それを口にした者が、本当に実行することはほとんどない。見栄であったり、虚勢であったり、自分を大きく見せる時に使う常套句のようなものだからだ。
しかし、それを本当にしてしまうのが、イオルクであった。
四人が同時に溜息を吐くと、代表するようにイチが不安を呟く。
「罰はあるのでしょうか? 何もないのに足蹴にすれば死刑ものです」
「今回は暗殺を退けるためだから、そこを強く考慮されれば……」
「その一点に尽きるな」
四人の中には同じ思いがあった。
――あの場面、誰よりも早く暗殺者へと立ち向かうためにイオルクが取った行動を、誰が責められるだろうか? と。
暗殺者のもとへたどり着く選択肢は、他にいくつかあったのかもしれない。しかし、一直線に最短で進む経路はあれしかない。まして、あの場にはイオルクの守りたい人が居た。動くなという方が無理かもしれない。
それから四人は会議の決定を待ったが、結局、会議で結論は出ず、判断は王に任されることになった。
…
ブラドナー家――。
暗殺を止めた張本人でもありながら、王を足蹴にしてしまったため、イオルクは自宅謹慎になっていた。
その当の本人は自宅謹慎を特に気にすることもなく、自宅の武器庫をガサゴソと漁り回し、色々な刀剣類を見ながら溜息を溢す。
「ダメだ。あの暗殺者の武器より優れている武器がない」
イオルクはロングダガーを切り裂かれてから、武器のことが頭から離れなくなっていた。
そのうち武器庫から家に戻ると、今度は二階のジェムの部屋に無断で入って本棚を漁る。
「これかな?」
本棚から武器関係の本を手に取り、イオルクは暫し読み耽る。
「合金か……これなら、あの未知の武器にも対抗できるのかな? え~と、金属同士を混ぜ合わせて、より強度の強い金属を創る。なになに……しかし、純粋な金属だけで造った武器も素晴らしい強度を誇ることもある。どっちが正しいんだ?」
イオルクは頭を掻いて本を閉じると、呟く。
「使えれば良かったから、武器のこと……何も分からないや。これは自分で造るしかないかな?」
イオルクは密かに何かを決断すると、ジェムの部屋を後にした。