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第5話 総体予選・初戦=ep2先制点=

 隣のコートで、神無月高校との第一ダブルスの試合が始まった。花林と茉鈴の淡白な表情からは感情が読み取れない。でもこれこそが、私たちが憧れてやまない二人の姿なのである。試合となると別人になるから、本当ゾクゾクしてしまう。


 それにしても……と、そう私は前に向き直って目線を上げた。

 かっこいい二人と対戦するとばかり思っていた相手は、ネットを挟んで私たちの前に立ちはだかる。


「これから十夜さん・去月さりづきさん対、一ノ瀬さん・二葉さんの試合を始めます」


 なるほどー。私たちになら、確実に1勝を取れるって見込みですかー。

 でもね、神無月高の部長さんたち? 例え自分たちの実力が及ばないとしても、絶対に諦めないって私は決めているから。


「あやみんさま~!」

1本ぽーんですの!」


 まだどの試合も始まったばかりで、応援もちらほらと聞こえてくる程度。そんな温まり切っていない会場の中、コートの後ろに並べられたパイプ椅子の席で凜々果が、観客席ではセバスが私たちへ大きな声援を送ってくれている。壇上からも片寄先生に視線を注がれ、そのどれもが私たちの背中を押していた。


「21ポイント3ゲームマッチ、ラブオールプレー」


 相手と主審・線審の人たちへ1人ずつ挨拶をした後、トスに勝ってサーブ権を選んだ私は、美鳥の前でラケットを構えた。

 私は美鳥へ出したサインの通り、対角線上にいる十夜さんへ丁寧にショートサーブを打つ。そしてすぐに後ずさり、右コートの中央へ。次の返球に備えるためだ。

 けれどセンターライン寄りに放ったサーブを、十夜さんはバックハンドで取ってそのまま真っ直ぐ奥へ返したので、私は前へ出て美鳥と縦のフォーメーションを取った。


 低めに進んでいくシャトルはスピードがあり、コースもいい感じに外へ。

 美鳥はバックハンドで捕まえたのだろうか。美鳥が打ち返した先、前衛には十夜さんが待っていて、叩き込まれるかと思った私はもう一度少しだけ下がって攻撃に備えた。


「は!」


 十夜さんが叩いたのは左、美鳥の方だった。けれど美鳥は対応してクロス。ネットを挟んで私の前へ落した。

 前と言ってもいいコースだ。前衛に移動した私もいるし。美鳥の返球は、さっきの十夜さんが叩いたように、サイドラインに向けて落ちた。

 だからここは去月さんが拾う。バックハンドで上げたのはセンターライン上。相手の横のフォーメーションに対し、私たちは縦のフォーメーションだ。また美鳥のターンになる。


「やあ!」


 去月さんへスマッシュを打つ美鳥。去月さんは拾う。でも角度がなくて速さのある美鳥のスマッシュは、去月さんがラケットを構える、やや前よりの位置からは取りにくかったようだ。去月さんはぐっと膝を曲げて、屈みながら頭の上でレシーブをした。


「美鳥っ」

「ええ分かっています!」


 何とか打ち返したシャトルを、美鳥は再び去月さんへスマッシュ。

 けれどここで十夜さんが上がって来た。背の高い十夜さんがネット前に出ると、私は酷くプレッシャーを感じた。


 でも臆しちゃだめ! 負けないんだから!


 そうして私が闘士を燃やしたと同時。美鳥の角度を付けない高速スマッシュを、十夜さんはラウンドの体勢で取った。

 つまり十夜さんは、自分の頭より左側に伸びたシャトルを、バックハンドで取らずにフォアハンドで打ち返したのだ。

 十夜さんの身体を反らせながらの伸びやかなショットは、より一層私に体格差を意識させた。けれど、近距離でのショットにひるむ暇なんて全くない。


 十夜さんが繰り出す破裂音と共に、私はラケットを振る。しかし高い弾道にラケットはくうを切った。

 でも美鳥が十夜さんのようにハイクリアで返してくれたお陰で、私にはどんな打球にも対応出来る余裕が生まれる。

 そして1回2回3回と緩急かんきゅうをつけながら自陣へ行き来していたシャトルは、私の意表を突くクロスカットで相手側のコートに落ちていったのだった――。


「イン。ポイント1‐0ワン・ラブ


 競り勝った。やった、十夜さんたち相手に先制点だ!


「ナイスコーですの!」

「あやみんさまぁぁあ!」

「ナイスショー綾!」

「うん! 美鳥もないふぁいだよっ」


 うわぁ。1球目から、こんなにラリーが続くなんて……。

 けれど、なんかすごいたぎる!

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