「ありがとうございましたっ」
神無月高の部員の殆どが、高校からバドを始めたらしい。とは言え相手は先輩だ。勝てて良かった。
うんうん、初戦から幸先いいぞっ。
ステージの上で神無月高の先生にアドバイスをもらった後、私と美鳥はいそいそとコートへ向かう。
もちろん、かりん・まりんペアの試合を観るためにである。
審判もしないといけないけれど、先に休憩をくれたからその間だけ。
「アウト。サービスオーバー
パイプ椅子に座って線審をする凜々果が両腕を広げると、ネットの紐を留めたポールの前で、主審を務める神無月高の1年生部員がそう言った。
「ラッキー」
「花林ナイスジャッジー」
コートの一番奥に引かれた二本線の手前側、ダブルスのロングサービスラインからはみ出たシャトルを、花林はラケットの縁でひょいっと拾い上げる。
どうやら相手選手がロングサーブをミスして、花林たちにサーブ権が移ったところらしい。
第1セット目。ファーストゲームは、かりん・まりんペアのリードで試合が進んでいた。
「6点リードだなんて凄いですね。相手は部長の十夜さんたちですよ? 全国区ではないものの県大の常連のペアなんだそうです」
「そうだったんだ! 次、私たちも試合させてもらえるんだよね? ……うう、急に身震いしてきたぁ」
「私もです――と普段なら言うところでしたが、さっきの実戦で自信がつきましたし、練習試合なのですから負けもありです」
「……確かに」
美鳥って、もっとプレッシャーに弱いと思ってた。
「なんです? ほら、花林さんがサーブしますよ。集中して観ましょう」
「う、うん」
そう言えば今の神無月高のサーブ、ロングサーブだった。きっとこの流れを断つために、
「
「サーブ
タンッ。
「茉鈴」
「花林」
冷静に互いの名前を呼ぶ掛け声が特徴的だ。
「本当、お二人とも別人ですよね」
「うん。かっこいい……」
二人がするプレーの魅力の1つに、まるで双子のような息の合ったローテーションがある。
けれど十夜さんたち相手だと、先程の私たちのようにコートの中を振られることがないので、ホームポジションのままシャトルを捕まえられていた。
囲碁や将棋の手数ではないけれど、足を運ぶ数が少ないのだ。それに二人の打球は常に弾道が低く、十夜さんたちは攻撃に転換出来ない。レシーブで返球するしかなく、点が取れずにいるようだった。かりん・まりんペアを前に、苦戦を
「眩しいなぁ。二人がチームメイトだなんて夢みたいだよ……」
「ええ、本当そうですね……」
睦高で出会った二人は、自由奔放で、だけれどどこか
でも同世代でバド部に所属をしている人からすると、コートに立つこの姿こそが、かりん・まりんなんだ。私もそうだった。
「花林。……――ナイスショー!」
あっという間に11点。失点は3点のみだ。
凄い。私たちだったら、接戦でも嬉しいかも。
そんな風に
「お疲れさま。はい……って、ちょお!」
二人はボトルもタオルも受け取らずに、むんずと私の胸とお尻を鷲掴みした。
「こ、こらぁ、試合中でしょ……? んあっ、しゅ、集中だってぇ……!」
「うしし。エネルギーチャージだよん♪」
「指、気持ち~♪」
うう。まさかこんな子たちだったなんて、全く夢にも思わなかったんですけれどぉぉ……!