ネットを挟んで、二葉さんと視線を交わす。私はニッと白い歯を見せた。
「勝ち抜き戦になります。では、一ノ瀬綾海さんから」
タンッ。
二葉さんの上げたシャトルが、私を目掛けて放物線を描き始めた。
私は下降するシャトルに向けて腕を伸ばすと、その場で1、2とリズム良くステップをした。それからシャトルにかざしていた手とラケットの持つ手を身体と一緒に入れ替え、高い打点で打ち返す。
パン!
コントロールがし易いように、ほどよく力を抜いて打ったスマッシュが、シャトルケースを捉えた。打球にぽーんと弾かれたケースは、床に転がるまでの間、空洞の小気味いい音を響かせながら弾む。
「はい余裕~! せんせー、私の選んだやつで決まりだから~♡」
実はそんなに難しくない、シャトルケース倒し。
コントロールが乱れるのは、やっぱり打ちにくいコースだったり、スピード感の中での返球の時だろう。
三波さんのようにフットワークの速い選手が有利なのは、このためである。素早く打球に対応出来れば、ミスが防げるというわけだ。もちろん、フットワークに関しては、他にも利点があるのだけれど、今は別にそれを考えたりしなくてもいいか。
ということで、落ち着いてその場で打ち返すだけなら、コツさえ掴めば割と簡単なのである。……まぁ1本目で倒せたのは、とてもラッキーだったけれど。
「というか全国区のプレイヤーなら、これくらい出来て当たり前だよね~?」
私は四谷さんを見てプレッシャーをかけた。しかし。
パンッ! カコンッ、ポンポンポンポン……。
「はい先生~! あやみんの取り消して私の選んだやつにしておいて~♪」
あっさりとシャトルケースは倒された。おまけに。
「はい決まり~! 先生、そのまま申し込んでおいていいよ~♪」
続けて伍井さんにも倒されてしまう。
「もう! まったくここでも息ぴったりとか! しかも二人とも全然危なげないじゃないっ」
「いぇ~い」と、悔しがる私の前で二人は楽しそうにハイタッチをする。
でもさすがだなぁ。男子の打ち方みたいに、最小限の動きであんなに強く返球出来るんだもんなぁ。
かりん・まりんペアのフォームは、弓矢を引くように腕を伸ばして打つ私のスタイルとは違って、返球が読みにくいのではないだろうか。
はぁ。ダブルスで何とか県大会に進める私なんかが、この二人と同じユニフォームを着るってどうなんだろう……。
「ふぁ⁉ ち、ちょっと!」
身体に異変を感じて、私は我に返る。
「こ、こらぁ、またそれぇ~……」
「あやみんよ。戦いの最中に、何をぼーっとしておるのだ? なぁ茉鈴?」
「そうだぞ、あやみん。私たちの記念すべき最初の戦いだぞ?」
「もう何なの、その口調はぁ~……」
例の如く私は、二人に挟まれながら胸を揉まれる。両側から激しく攻められ、今にもホックが取れてしまいそうだった。
「お、おいお前ら。ラッキーの度が超えてるって……」
「あやみんさま……」
吐息を零すばかりの私に、片寄先生とセバスが顔を赤くする。
というか、眺めていないで助けてってば……!
「解放して欲しいんだったら、その四谷さんっていうの止めてくれない?」
「んね、ほんとそれ。花林の言う通りだよ。だって私たちは、もうチームメイトなんだからさ?」
「あ……う、うん、ごめん」
もしかして私を気遣ったパフォーマンスなの、これ?
「可愛い声がいっぱい出ちゃうね~」
「早く言わないと、こっちも触っちゃうぞ~」
でもね、このやり方は嫌ですって。