「んっしょ……あ……」
ガラガラと少し重たい体育館の扉を引くと、視界に広がったのは懐かしい景色。
シャトルが飛び交い、ワックスのかかった床を靴底で鳴らす音に胸がときめいた。
やっぱり私、バドミントンが好きだ……!
「にしても、人数少ないなぁ」
「そもそも存在しなかった部ですからね。来年になら経験者も来てくれるかもしれませんよ
「わ! 二葉さんもう日誌届けてきたの?」
「ええそうです」と、
「さあ、こんなところで突っ立ってないで、私たちも早く着替えましょうか」
「うん!」
Tシャツとハーフパンツに着替えた私たちは、先に来ていた
「え⁉ かりん・まりんペアを相手に凄い! 三波さんって本当に初心者⁉」
私がそう言うと、隣で二葉さんがしたり顔で頷いた。
「彼女の武器はフットワークの速さですね」
「フットワーク……ああ確かに、昨日の脚力はやばかったね……」
三波さん・おびき寄せ作戦の時のことを思い出し、すぐに合点がいく。ついでにセバスのことも甦ってきて、もしかして彼から逃れるために付いた脚力なのではと、私は
「とは言え、花林さんと伍井さんのお二人は、三波さんに力加減を合わせていらっしゃいますが。それにまだ打ち返す力が弱いですね。打ち方も雑ですし。他にも改善すべき点は多々あるので、1つずつ教えてあげましょう」
「うん。きっと知らないこともあるだろうからね」
バドミントンはスピードスポーツだ。一球一球がとても速い。
だからフットワークの速さが、勝敗の鍵を握るのである。つまり三波さんの武器は――
「大きな戦力でしょう?」
二葉さんは嬉しそうな顔で、眼鏡をくい上げした。私はまた胸ときめく。
「うん! ほんと凄い! 三波さんっファイトー!」
「お嬢さまに声援をくださるとは、さすがは私めの女神、あやみんさまです……ありがとうございます」
「いやああああああ!」
どこからともなく現れたセバスに耳元で話し掛けられ、私は恐怖のあまり壁側まで後ずさった。
というか、あやみんって何⁉
「もうセバス! 付いて来ないでって言ったじゃないっ。それにワタクシのあやみんちゃんに、気安く近付かないでくださる?」
三波さんは懸命に動かしていた足を止め、ぷくぅと頬を膨らませる。
ああそっか。二人の間で、私の共通のあだ名が出来ていたわけね……。
「ですがお嬢さま、これが私めの務めですゆえ。それにタダーン♪」
震える私を残して、他の部員のみんなは「わあ!」と声を揃えて歓喜した。
いつの間にかセットされたアンティークテーブルの上には、クッキーやらマカロンやらフィナンシェなど、一口サイズのお菓子が並んでいた。
「良かったらみなさんでどうぞ。紅茶もありますよ?」
「あれは私が好きなスノーボールクッキー! ……コホン。じゃあせっかくですので、みなさんで頂きましょうか?」
あ、いいんだ。
登校初日から慌てて立ち上げた割りに、二葉さんはノリノリだ。
というわけで、練習開始の時間までのんびりとお茶会をすることになった。
「何してるんだ、お前たち……?」
けれどそれには、後から来た顧問の
「ん? 片寄先生の手に持っているそれって、もしかしてあれですか⁉」
「ああ一ノ瀬。試合に出るなら、これ必要だろ?」