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ダンベル太郎
ダンベル太郎
たらんぼ
文芸・その他ショートショート
2024年11月12日
公開日
1,555字
連載中
おじいさんは山へ芝刈りへ、おばあさんはジムに行きましたー

ダンベル太郎

むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。


ある日、おじいさんが山へ芝刈りへ、おばあさんがジムに行っていると、大きな大きなダンベルがジムの床に置いてありました。


おばあさんは、片手でそれを持ち上げると、棚に戻しました。


そして、最近マナーが悪い客が多いと、トレーナーに苦情を出しました。


おばあさんがいつものメニューをこなして村に帰ると、おじいさんが慌てた様子で走ってきました。


「大変だ!村に鬼が出たぞ!」


おばあさんが駆け付けると、鬼は一目散に逃げていきました。


「逃げろ!あのババアが来たぞ!とてつもないバルクだ!」


「クソ!肩に小っさいジープ乗ってんのかい!」


おばあさんは逃げる鬼の背中に向けて、モストマスキュラーポーズを取りました。


おばあさんの僧帽筋が盛り上がります。上腕二頭筋は村の端からでも見えるくらい大きいです。


あまりの筋肉量に、村中から歓声が上がりました。


「おばあさん、鬼を追い払ってくれてありがとう!

皆の者、今日は宴じゃ!」


村長が叫びました。


その日の夜、村中が飲めや食えやの大騒ぎをしている中、おばあさんは家でサバ缶と干し芋を食べていました。


減量中だったのです。


「うぃ~、帰ったぞお」


おじいさんが酔っ払った様子で帰ってきました。


手には、大量の団子を持っています。甘い蜜がかかっていて、とてもおいしそうです。


「村長から土産にもらってのう…ほれ、お前も食うか?」


団子をほおばりながら、おじいさんがおばあさんに団子を差し出しました。


「おっと、減量中じゃったのう…」


こいつが本当の鬼かと、おばあさんは思いました。


「けけけ、食わんならわしが全部食べてまうぞお」


そう言うと、おじいさんは団子を一つ残らず食べてしまいました。

おばあさんは空腹のまま寝ました。


おじいさんは急激に血糖値が上がって、ほとんど気を失うように居間で寝てしまいました。


おじいさんは寒い居間で凍えたせいで、そのまま帰らぬ人になりました。


甘いものが大好きで、ろくに運動もしないジジイでした。


おじいさんのお葬式で、おばあさんはある使命に目覚めました。


もっと、みんなを健康にしたい。

もっと、みんなが食事に気を使う世の中にしたい。


しかし、どうすればいいかわからず、毎日ジムでスクワットをする日々が続きました。


そんなある日、おばあさんの元に一人の少年が訪ねてきました。名前は桃太郎だといいます。


「桃から生まれたせいなのか、ぼくは体が生まれつき弱い」


桃太郎はおばあさんの大胸筋に気圧され、少し震えながら続けました。


「村で一番強い体を持つあなたに、ぼくを鍛えてほしいのです」


おばあさんは桃太郎の体を見て、こう思いました。


あまりに細い腕、細い脚…


育てがいがある。最高だ。

全くもって、才能の塊じゃないか。


おばあさんは筋トレのおかげでものすごくポジティブでした。


「諦め」を司る脳の部位など、とっくの昔に焼き切れていたオールアウトのです。


その日から、おばあさんと桃太郎の修行の日々が始まりました。


鍛えて、食べて、寝る。

鍛えて、食べて、寝る。

この繰り返しでした。


3年の月日が経つ頃、桃太郎は身長195cm、体重135kg、

ベンチプレス260kg、スクワット350kg、デッドリフト400㎏の化け物に成長していました。


桃太郎はパワーリフティング世界選手権で鬼ヶ島出身の選手たちを破り、優勝しました。


鬼たちは桃太郎のあまりの強さと、鬼にはないリフティングフォームの美しさに恐れおののきました。


こうして、人間と鬼が争うことはなくなったのでした。


その頃、おばあさんは桃太郎を育てた名コーチとして一躍有名になり、食品会社「株式会社バーベル太郎」を立ち上げていました。


主力商品の「筋トレばあちゃんのプロテイン団子」は鬼にも人間にも飛ぶように売れていき、みんなが前よりもちょっとだけ健康になりました。


めでたし、めでたし。

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