むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
ある日、おじいさんが山へ芝刈りへ、おばあさんがジムに行っていると、大きな大きなダンベルがジムの床に置いてありました。
おばあさんは、片手でそれを持ち上げると、棚に戻しました。
そして、最近マナーが悪い客が多いと、トレーナーに苦情を出しました。
おばあさんがいつものメニューをこなして村に帰ると、おじいさんが慌てた様子で走ってきました。
「大変だ!村に鬼が出たぞ!」
おばあさんが駆け付けると、鬼は一目散に逃げていきました。
「逃げろ!あのババアが来たぞ!とてつもないバルクだ!」
「クソ!肩に小っさいジープ乗ってんのかい!」
おばあさんは逃げる鬼の背中に向けて、モストマスキュラーポーズを取りました。
おばあさんの僧帽筋が盛り上がります。上腕二頭筋は村の端からでも見えるくらい大きいです。
あまりの筋肉量に、村中から歓声が上がりました。
「おばあさん、鬼を追い払ってくれてありがとう!
皆の者、今日は宴じゃ!」
村長が叫びました。
その日の夜、村中が飲めや食えやの大騒ぎをしている中、おばあさんは家でサバ缶と干し芋を食べていました。
減量中だったのです。
「うぃ~、帰ったぞお」
おじいさんが酔っ払った様子で帰ってきました。
手には、大量の団子を持っています。甘い蜜がかかっていて、とてもおいしそうです。
「村長から土産にもらってのう…ほれ、お前も食うか?」
団子をほおばりながら、おじいさんがおばあさんに団子を差し出しました。
「おっと、減量中じゃったのう…」
こいつが本当の鬼かと、おばあさんは思いました。
「けけけ、食わんならわしが全部食べてまうぞお」
そう言うと、おじいさんは団子を一つ残らず食べてしまいました。
おばあさんは空腹のまま寝ました。
おじいさんは急激に血糖値が上がって、ほとんど気を失うように居間で寝てしまいました。
おじいさんは寒い居間で凍えたせいで、そのまま帰らぬ人になりました。
甘いものが大好きで、ろくに運動もしないジジイでした。
おじいさんのお葬式で、おばあさんはある使命に目覚めました。
もっと、みんなを健康にしたい。
もっと、みんなが食事に気を使う世の中にしたい。
しかし、どうすればいいかわからず、毎日ジムでスクワットをする日々が続きました。
そんなある日、おばあさんの元に一人の少年が訪ねてきました。名前は桃太郎だといいます。
「桃から生まれたせいなのか、ぼくは体が生まれつき弱い」
桃太郎はおばあさんの大胸筋に気圧され、少し震えながら続けました。
「村で一番強い体を持つあなたに、ぼくを鍛えてほしいのです」
おばあさんは桃太郎の体を見て、こう思いました。
あまりに細い腕、細い脚…
育てがいがある。最高だ。
全くもって、才能の塊じゃないか。
おばあさんは筋トレのおかげでものすごくポジティブでした。
「諦め」を司る脳の部位など、とっくの昔に
その日から、おばあさんと桃太郎の修行の日々が始まりました。
鍛えて、食べて、寝る。
鍛えて、食べて、寝る。
この繰り返しでした。
3年の月日が経つ頃、桃太郎は身長195cm、体重135kg、
ベンチプレス260kg、スクワット350kg、デッドリフト400㎏の化け物に成長していました。
桃太郎はパワーリフティング世界選手権で鬼ヶ島出身の選手たちを破り、優勝しました。
鬼たちは桃太郎のあまりの強さと、鬼にはないリフティングフォームの美しさに恐れおののきました。
こうして、人間と鬼が争うことはなくなったのでした。
その頃、おばあさんは桃太郎を育てた名コーチとして一躍有名になり、食品会社「株式会社バーベル太郎」を立ち上げていました。
主力商品の「筋トレばあちゃんのプロテイン団子」は鬼にも人間にも飛ぶように売れていき、みんなが前よりもちょっとだけ健康になりました。
めでたし、めでたし。