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第62話 宇崎家

「双子だと……」


 東雲優しののめゆうが放った言葉に、健斗けんとは呆然とする。


 なぜなら、健斗けんとは彼女が双子だったということを知らないから。だが、それは彼の認識であり、優からしたら事実を言ったまでのことだった。


 そんな彼の言葉を無視して、彼女は美月みづきの方を見る。


「初めましてだね。血縁上だと……あなたが姉ってことになるのかしら?」


「姉……何のことかさっぱりです」


「だよね。急にこんなこと言われても困るよね。でも、私の父は宇崎光秀うざきみつひでなんです。いわば異母兄弟ってやつです。信じれないなら、DNA鑑定しますか?」


 DNA鑑定まで言ってくるゆう。ここまで言われたら信じるしかないが……美月みづきは母からこのことを一度も聞いたことがない。


 その美月みづきの顔を見て、ゆうの瞳に寂しさが宿る。その寂しさを紛らわせるために、ゆうは力強く言葉を発した。


「あの男は私たちの母を捨て、アナタの母親を選んだ。まぁ、私たちがみごもっていることは知らなかったみたいですが……」


「母は……私の母はそのことを……」


「おそらく知らないと思いますよ。そして、宇崎うざき家が音楽の名門であることも」


「名門……」


「えぇ、神門じんもん家、杉本すぎもと家、宇崎うざき家。御三家と呼ばれる音楽界最強の家系。アナタもまたその血を引いているのです」


美月みづきも……」


 美月みづきの卓越された音楽の才能やカリスマ性。今の話で春樹はるきは合点がいった。


 それと同時に、健斗けんとは今の話を聞いていて、美月みづきあいが似ていたのも納得できた。


 二人は異母兄弟だったから。


 愛は母親に似ておらず、本当の親子なのか心配していた。だが、彼女が父親似で美月も父親に似ているのだとしたら……二人は遺伝子レベルで似ていてもおかしくない。


 そんなことを考える健斗けんとの横で、この話を否定したくなった美月みづきは悔しそうに言葉を紡いでいた。


「でも、私の父は優しかった。もし、その言葉が本当だったとしても、この事実は変わらない」


「そう信じたいでしょうね。でも、私が感じた事実も変わらないです。だからと言って、私はアナタを恨んだりしません。まぁ、あの男の方は恨みますが」


 ゆうにとっては、母を苦しめた悪魔のようなやつだ。こういう感情になるのも無理はない。


 だが、美月みづきとしては家族三人で過ごしたあの日のことが記憶の奥底にあり、信じたくない。


 父と遊園地に行った。一緒に乗り物に乗ってくれたし、ボールプールでも遊んでくれた。


 五歳くらいの記憶で曖昧だが、とても楽しかったのを覚えている。


 それを見て母も喜んでいた。とても幸せだと言える時間だった。


 お互いが譲らない価値観が宇崎光秀うざきみつひでという男にはある。


「待てよ」


 静かな声で健斗けんとが言葉を発する。そこには怒りが宿っているように感じられ、話を聞いていた者たちの注目は健斗けんとへと移った。


「勝手に話を進めるなよ」


「なんですか?」


 健斗けんとゆうの方を睨みつけていくが、肝心のゆうは優しげな表情で健斗けんとの方を見る。


 その姿があいにそっくりで、健斗けんとは一瞬だけたじろいだ。だが、すぐに冷静さを取り戻し、口を開ける。


「どうもこうもないだろ。俺はあいに妹がいたことなんて知らない。あいは、そんなこと一度も話してなかった!」


「そうですよね……それについては、順序通りに説明しないとですね」


 健斗けんとへと真剣に向き合うために、彼の方へと体を向ける。


 あいと同じで小柄な体型をしている。髪もクリーム色のミディアムヘアで、あいを意識しているのか本人が目の前に蘇ったかのような錯覚を得る。


「私、病気なんです。おそらく、もう長くはないでしょう」


 ゆうの言葉にこの話を聞いていた五人は言葉を失った。しかし、彼女は五人を置いてけぼりにするかのように、続きを発した。


「病気は三歳の頃に発症したらしいです。そして、私はアメリカの病院に入院しました。そこで治療をして去年、日本に帰ってきたのです」


「そんな話……」


「信じられないでしょうね。でも、事実なのです。だから、あいから聞かなかったのではなく、おそらくあいも私の存在を信じられなかったのだと思います。三歳の記憶など曖昧なので」


 大事な家族のことを母親から聞かないと言うことはない。記憶が曖昧で、彼女自身も信じられないのだとしたら……


 そんな曖昧なものをただの幼馴染に話すだろうか。


「でも!」


 ゆうが自分に置かれた状況を話していくが、健斗けんとはそれでも信じることができなかった。


「仕方ありません」


 まだ信じきれていない彼にとどめを刺すかのように、幼い頃一度だけ一緒に撮った家族写真をポケットから取り出して見せる。そして、


「姉のことは残念でした。母から事件を聞いて、一晩中泣きましたから」


 悲しそうな表情を浮かべる彼女の姿を見て、健斗けんとも心が痛くなった。


 まだ、信じられないが、この写真を見せられたら信じざるを得ない。歯を食いしばり、現実を受け入れる。


 そんな彼の方を見ながら、彼女は言葉を紡ぐ。


「これを。アナタが持っていてください」


 左手の薬指からハート型の指輪を外し、健斗けんとへと渡していく。


「これは?」


「姉が付けていた指輪です。アナタが持っていた方が姉も本望だと思うので……」


 あいの私物。それを受け取り、健斗けんとは左の薬指に指輪をつけた。


 なぜだかあいがそばにいてくれるようにで、彼は自然と涙が流れてきた。


「そんなことを話すために、俺たちに話しかけてきたわけじゃないだろ?」


「えぇ、ここでは少し面倒になるので外へ」


 翔兎しょうとの言葉に返答し、ゆうBIGBANGビッグバンのメンバーは外へと出ていく。


 廊下の隅の方へと移動し、ゆうは口を開く。


「先ほどの御三家のお話、まだ続きがあるんです」


「続き?」


「えぇ、杉本すぎもと家には気をつけて。あの家系だけは闇があるみたいだから」


 彼女の言葉に全員は気を引き締める。


「どういうこと」


「私が聞いた噂ですけど……」


 話し始めた途端、ゆうは突然膝を着き、吐血する。


「大丈夫ですか?」


「えぇ、持病が悪化しただけですから」


 立ち上がり、優は話の続きを紡ぐ。


杉本すぎもと家は反社と繋がってる」


「俗に言うヤクザとかと繋がってるってことですか?」


「うん、しかも薬物の取引もしてるみたいで……」


 今の言葉で翔兎しょうといぶかしむ。それを見て、


翔兎しょうと?」


「もしかしたら、美月の言っていた陽奈ひなって女も……」


 翔兎しょうとの言葉で美月は背筋に寒気が走った。


 陽奈も薬物をやらされていたとしたら……自分たちの前から姿を消した原因がそこにもあるのだとしたら……


 あのANDROMEDAアンドロメダと呼ばれていたバンドを、杉本有馬すぎもとありまという人間を許せない。


 美月みづきが嫌な予感を抱いていると、アナウンスが鳴り、鳳凰ホウオウの順番が周ってきた。


「じゃあ、順番だから。私たちの演奏を見ていて」


 そう言って、健斗けんとにウィンクをしてから背を向けて歩いて行く。


 その時のゆうの仕草があいそっくりで、あの日の感覚が蘇ったように感じた。


 少し歩いたところで、ゆうは立ち止まる。そして、振り向き、美月みづきたちに笑顔を見せて、


「話せてよかった」


 そう言い残し、メンバーと共にステージへと向かって行った。


 スタープロジェクトのステージに立ったゆうは、感動を覚えていた。


「姉ちゃん、見えてる。やっと、やっと立てたよ」


 あいも目指していたと聞いていた。その場所へ、今自分が立っている。


 感涙するゆう。それをメンバーが慰める。


 服の袖で涙を拭き取り、ゆうはマイクの前に立つ。


「見ていて姉ちゃん」


 鳳凰ホウオウの演奏が始まる。


 亡き姉に捧げるために、過去の病を乗り越え、

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