演奏が始まる。だが、
これが最後で、全てが決まる重要な演奏なはずなのに……
この要因には
だから、この演奏では彼らに恩返しがしたい。
彼らの歌で、彼らの想いも乗せて最高の演奏がしたい。
おそらくメンバー全員が
だから、やろう。最高の演奏を。
決意をした
生での観客はいない。しかし、これを間近で聞いたら、うっとしてしまうのも無理はない。
コメント欄が盛り上がる。スマホ越しでこれなのだから、彼らへの期待度がどれほどまでは語るまでもないだろう。
次いで、ギター、ベース、ドラムが一斉に音を鳴らす。音のハーモニーが形成され、先ほどの音とは別次元の音へと変貌する
「🎵 胸を締め付けられるほど悔しい夜もあった……目指した場所に拒まれた。壁に阻まれた……」
その
画面越しでも鳥肌が立つほどの歌唱。本当に高校生なのか錯覚するほどだ。
静かにAメロが歌われるが……Bメロに入った瞬間、イメージがガラリと変わる。
力強い低音へと歌声が変わったからだ。
他の楽器の音も耳をすませば少し変わったと認識できるレベルで変化を入れる。
だが、男性だからこそできる表現力を見せていく。
『キャー、翔兎きゅん、かっこいいー』
女性ファンのコメントが飛び交い、彼女たちのハートを一気に持っていく。
一気にサビまで走る。
サビに入り、心に訴えかけるような声色へと変貌。最後に余韻を残しつつのロングトーン。
次の瞬間に、
それが終わったかと思うと、次は
かつての音痴はだいぶ改善されてきており、人前で聞かせられるだけのクオリティに仕上がっていた。
ガラス細工のような繊細さで男らしい音色を響かせ、オーディエンスを驚かせる。
それぞれのソロパートが終わり、バトンが
静寂な夜のように静かに声を届ける。BGMも美月のキーボードだけになり、雰囲気を構築していく。
しかし、サビに入った瞬間に眠っていた闘志を呼び覚ますように、一気にドラムが雰囲気を百八十度変える。
それに呼応し、
翔兎は歌う。彼の個性を全面に押し出し、この演奏に賭ける
「🎵 想いは紡がれる。誰かが意志を汲み取って」
最後のフレーズを歌い切る。ロングトーンで締める構成だが、余韻には浸ってもらいたい。
歌にこの想いを乗せて……
演奏は終わった。
彼らとしては全力でやり切った。後悔はない。
『うぉぉぉぉぉ』
コメント欄は最高の盛り上がりだった。
全てのバンドがラストスパートをかけてきているのだが、この配信が一番熱狂しているのではないかと錯覚させるだけの力があった。
「ありがとう、ありがとう」
結果はわからないが、これだけ盛り上がったのは絶対に
彼らが歌を提供してくれたから、これだけの演奏ができた。ファンを楽しませることができた。彼らには本当に頭が上がらない。
そうこうしていると
今まで見たことない勢いで、
最後のポイント争いから三分が経過した時、画面に急にサングラスをかけたモジャモジャ頭の男が現れた。
「一次予選お疲れ様でーす! レミー・シドラでーす」
この大会の主催者──レミー・シドラ。この男が登壇したということは、一次予選は終了ということ。つまり……
「今日、ここで決着が付く」
この状況を見ながら、
彼の言葉に皆は息を飲んだ。
緊張している挑戦者のことは差し置いて、レミーは続ける。
「今日まで皆さんはたくさんのライブをしてきましたね。日々精進したと思います。そこには敬意を表します」
彼が素の感想を表に出す。
「だけど、これは大会だからね。二次予選に進める人を決めないと」
すぐに残酷な現実を突きつけてくる。
わかっていたが、この言葉を聞いただけで
「集計が終了したぜー。ということで、結果発表! 二次予選に進んだ上位百組はこちらだ!」
彼の言葉の後にランキング表が表示された。
一位から順に下にスクロールされていく形式。
三分の一が終了。ここまでに表示されたグループは喜びの感情を露わにする。
だが、
「大丈夫! 大丈夫!」
そう言い聞かせるように
それでも最後まで諦めたくない彼女たちは、手を重ねて神に願うように祈っていく。
残り十枠。緊張に緊張が走る……
「あっ、た……」
現実に思考が追いつかない。
「勝ったんですよ! 私たち勝ったんですよ!」
画面に映る九十九位の文字を見て、
その横で
「
「
彼の言葉でようやく現実に帰還し、
夢に見たスタープロジェクト一次予選突破。
その現実を認識できた途端、
それはメンバー全員がそうだったのかもしれない。隣を見ると、全員が涙を浮かべ、嬉しそうに分かち合っている。
『さすがです。最高でした』
『四年前の日の涙』というアカウントからメッセージが届いた。それを
「やっぱり……」
口にはしない。でも、彼らもまた
「彼らにも届いてくれてたら嬉しいなー」
コメントの主に納得していると、
突然の
「
「はい!」
彼に名前を呼ばれただけで、胸が張り裂けそうなほどドキドキする。無意識に背筋もピンとなっていたい。
何を言われるのか期待をしながら待っていると……思いもよらない言葉がかけられた。
「俺と、付き合ってください」
「今のって……」
「ハニー、僕だけのハニーだよね!」
驚いている
「俺、一次予選を突破できたら告白するって決めてたんだ。そのために、髪も切ったし、黒色にも染めた。君に相応しい男になるために」
彼の言葉に美月は涙が溢れそうになる。だが、その気持ちをグッと堪えて、
「私、死んじゃうんだよ。一緒にいられる時間が短いんだよ。それでもいいの?」
「あぁ、いいよ。だって、俺は美月じゃなきゃ嫌なんだ。ダメ、かな?」
「ダメじゃない。嬉しい……私こそ、喜んで」
満面の笑みを向ける。
こんな自分を好きになってくれる人がいる。決められた運命があるとわかっていても。それでも好きになってくれる人がいる自分はなんて幸せ者なのだろう。
「よかったね。
彼らの告白を見て、この場にいた全員が心温まる。
こうして、二人は晴れて恋人になった。
スタープロジェクト一次予選突破という名誉も手に入れて。
第2章完
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第2章完結です。ここまでお読みいただきありがとうございます!第2章は19話から始まり、美月の過去編など色々なことがありましたが、無事書き切ることができました。
これもひとえに読んでくださった方のおかげです!ありがとうございました!