「レディースアンドジェントルマン! さぁ、始まったぞ二次予選が!」
大会の主催者であるレミー・シドラが声高らかに宣言する。
会場には人の心を刺激するヒップホップのような陽気なリズムが流れており、この音を
「さぁ、私たちは今、東京国際展示場のホールにいる! この意味がわかるかな?」
「うぉぉぉぉぉ!」
今かと開始を待ち侘びている何万人もの観客が、ホール全体に届くような熱気をあげる。そんな彼らを「静粛に、静粛に」と押さえ込むレミー。
観客が収まるのを見送った後、レミーは咳払いし、
「ここでお待ちかねの大会のルール説明だ。二次予選、本戦ともにこの会場で行われる。大会日数は二次予選に一日、本戦二日の計三日だ! 皆、頂点目指して頑張ってくれたまえ!」
「うぉぉぉぉ!」
「それでは、一次予選を突破した百名の紹介だ!」
レミーの言葉で会場のモニターに全バンドの名前が表示される。人数が多いので、ダイジェスト形式での表示になる。
当然ながら、その中に
「では、その中でも優秀な成績をおさめた上位十名の紹介! とくとご覧あれ!」
会場の裏に上位十名のバンドが待機している。一人ずつレミーが紹介していく。
「まずは首位通過。ひとりひとりのレベルが高く、破壊的な演奏を見せる新世代バンド。アンドロメダ!」
三人の男女が愛想を振る巻くように観客に手を振りながら、ステージへと出てきた。
そのバンドを見て、控え室にいる
なぜなら、出てきたのは
「
「続いては、二位通過。圧倒的な演奏力に、真摯な人間性が売り。トラブルがなければ首位通過間違いなしと言われていた現時点無敵のバンド。オリオン!」
純粋な笑顔で観客に手を振る男女。その中にある人物がいて
「
去年、桜花学園を卒業した元生徒会長。
軽音楽部が廃部になった後に開かれた文化祭の時に『スタープロジェクトで待ってる』と言われたが、こういった意味だったのかと今理解した。
「まだまだいくぜ! 三位通過。メンバー全員が前科持ちという危なすぎる経歴。今は更生したと主張しているが大丈夫か! アメリカ育ちのカメレオン!」
だるそうな表情を見せる男女のバンド。愛想をふるまうそぶりすらせず、会場のステージに出る。
「私としてもつい嬉しくなってしまった。このグループが四位通過だ! あの
さすがはエリート一家なだけあり、礼儀作法はバッチリ。人前での顔を見せ、ファンに愛想を振り撒く。
「あの女……嫌いじゃん」
「アタシも」
夏祭りでトラウマを植え付けられた
「まさかの飛び入り参加で五位通過! 期待の新人バンド。ペルセウス!」
緊張しながらステージへと進んでいく四人の男女。
「冬夜……」
観客席で赤ん坊を抱きながら、彼氏を見つめる
「海外からの参加者も今回は多いぞ! ドイツ出身のバンド。ヤマネコ!」
両手を振りながら、憧れの日本に来れたことを喜ぶ男性たち。ステージに立ち、少しだけ涙目でいた。
「長くなって悪いな! ちゃっちゃと進めていこうか! 続いては高校生バンド。全員が楽器を始めて一年という経歴。天才少年と少女が紡ぐサクセスストーリー。ペガサス!」
学生ならではの無邪気な笑顔を向ける男女。それをモニターで見ていた
「続いて、不死鳥の如く再生し、あの
薬指のハートの指輪をカメラに映るように強調しながら、ステージへと上がっていく。
「まさか……」
それを見て
「どうしたの?」
話しかけてくれた
「ごめんハニー。ごめん」
「
いつもと違う彼を見て、彼女は何かを感じて取ったが、彼のためにそっとしておくことにする。
そんな中でもメンバーの紹介は続いていく。
九位にスネーク、十位にウルフという名のバンドだった。
「韓国のバンドか。珍しいな」
「そうなの?」
「あぁ、バンドもないことはないんだけど、確かアイドルの方が人気なんじゃなかったかなー」
海外事情など詳しくない
レミーが締めの挨拶をする。
「これで上位十名の紹介は終わりだー。だが、上位のものが絶対に優勝できるというわけではない! そこは肝に銘じて、気を引き締めて大会に挑んでほしい! では、十五分の休憩の後に一人目の演奏だ。審査員の皆様よろしくお願いしますね」
そう言って、今回の大会で選ばれた審査員の方を見る。
人数は十名。その中には著名人が多かった。音楽界の絶対的権力者やスタープロジェクトの歴代優勝者。そして……
「今回特別審査員として
「皆さん、頑張ってください」
「あのー、それだけですか……」
「はい」
すぐに座ってしまった
「挨拶ありがとうございました。本当は
会場に穴が開くのではないかと錯覚するほどの拍手が飛ぶ。
レミーの本音に
こうして開会式が終わり、紹介された一同は控室へと戻っていく。
「
突然、控え室を飛び出した健斗を追いかける
その
「どうしたの?」
「
「愛って誰ですか?」
「そうか、
「そんなことがあったんですね」
「あのホウオウってバンドにいたアイツ、絶対、
世の中に似ている人は三人はいると言われているが、もう既に二人目が見つかっている。三人全員が自分の前に現れるなど、どれくらいの確率なのか。
「だから確かめたいと……」
「痛てぇな」
ぶつかった肩を押さえながら、筋肉隆々の男が
「
「おー、
長身の長髪女性を見て、
「そうだ。それがどうした」
「お前、名前は?」
無遠慮に近づく。
「答えなくていい」
「答えろや! 質問には答える。常識だろ?」
短絡的な性格な
「やめろ。困ってるだろ」
後ろから爽やかな声が聞こえてきて、
「
「
無遠慮に近づく
そんな彼を見て
「必死になってどうしたんだ
「テメェらがその
「悲しいこと言わないでよ。
「あぁ、まだ死んでなかったんだ。落ちこぼれの雑魚が」
ゴミを見る目で
「
あまりに倫理観のかけた言葉に、この場にいた
「ふざけないで! アナタたちのせいで
「
「うるさいんだよ。私が決めたらそれが正義なの。口ごたえしな……」
「そんな性格だから、
「あぁ? ゴミのくせに言うじゃない」
「お前は昔から、
「アイツの話はするな!」
自分より弱いと思っていた
「まぁ、落ち着きなさい」
一触即発の雰囲気を
対して
「時間か」
ステージに向かうため、二人を連れて
「楽しみにしていますよ。アナタたちの演奏」
「またね。
「私たちも戻ろうか」
「いや、僕は……」
*****
「それではお待ちかね、一組目の演奏を開始いたします! エントリナンバー・一番。アンドロメダ!」
レミーの紹介と共に三人がステージに上がる。その姿は先ほど見た、ごろつきとは打って変わった姿だった。
「見せてやるよ」