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第55話 新年と祈願

「あけおめ!」


『あけおめ!』


 一同は地元で有名な神社へと来ていた。


 目的は初詣とスタープロジェクトへの祈願のため。


 それにしてもBIGBANGビッグバンのメンバーと元軽音楽部のメンバーで来ているので人数が多い。


「じゃーん、かわいいでしょ!」


 ようが自分が着ている振袖ふりそでを見せびらかす。だが、男性陣の注目の的は美月みづきだった。


 彼女を色恋の目で見ていない春樹はるきですら心を動かされる可憐さ。それには、女性陣も圧巻のものがあった。


「恥ずかしいよー」


「浴衣の時も思ったけど、美月みづきって和服似合うよね」


「洋服もだよ」


「そうだねー。彼氏さんは美しい美月みづきを見ていたいもんね」


「悪いかよ」


 咲良さくら翔兎しょうとのやり取りが続く。それを他のメンバーは呆れながら見ていた。


美月みづきもいいけど……柚葉ゆずはも綺麗だよ」


「そ、そうですか……ありがとうございます」


「みんなボクも褒めてよ!」


「はい、はい。ようもかわいいよん」


明里あかり!」


 適当にあしらわれるよう。それを見て、皆でほっこりとする。


 一連のやり取りを終え、一同は神社を歩いてまわる。


 今は正月。儲けどきなのか、この時は神社に屋台が出ていることが多い。


 美月みづきはそちらに目が移っていくのだが……


「お参りが先だぞ」


「ぷー。わかってるよ」


 頬を膨らませながら、翔兎しょうとの言葉に了承していく。


 参拝場に行く一同だったが、一月一日は参拝客が多かった。行列ができており、参拝するまでに時間がかかりそうだ。


「でも、みんなここを選んでくれてありがとう」


「それにしてもショックだったんだよん。美月みづきがそんなことになってるなんてん」


「そうじゃん! ボクらにも言ってほしかったじゃん! 陽奈ひなが聞いたら……」


「ごめん……」


 咲良さくらから余命宣告を聞いた双子の姉妹。今は平静を装っていれるが、聞いた時は心臓が止まるくらい衝撃を受け、一日中泣いた。


 そんな双子の会話に割って入るように咲良さくらが口を開く。


「二人も美月みづきの味方。早く言っても良かったんじゃない?」


「本当にごめん。でも、ありがとう」


 皆の優しさに温かな気持ちになる美月みづき。そんな彼女をなだめるように春樹はるきが言葉を紡ぐ。


「ここの効果は保証するよ。俺もここで願って肺炎治ったからなー。宇崎うざきにも絶対効くよ」


「うん、信じてるよ」


 万病平癒まんびょうへいゆの神社。それが今初詣に来ている神社だった。この神社で願い、絶対に治らないと言われていた病気を治したと言う伝承もあり、侮れない場所だ。


 長時間並び、自分たちの番に回ってきた。


 賽銭さいせんを入れて手を合わせる。


 最後の望みとしての神頼み。医療では治らないと言われたための悪あがきでもあった。


「スタープロジェクトで優勝できますように」


 だが、美月みづきが願っていたのは違うことだった。自分の病気よりも、皆の夢を優先する。それが美月みづきと言う人間だった。


美月みづき……」


「後ろの人に迷惑かかるからさ行こうか」


 美月みづきの合図で皆は移動。外へと移動し、次は絵馬を買っていった。


「みんな願い書いた?」


「もちろん」


「じゃあ、見せあいっこしよ!」


「なんで……恥ずかしい」


「いいじゃん!」


 美月みづきが結局言いくるめ、一同は絵馬の見せ合いになった。


 しかし、皆が書いたのは美月みづきの病気の治療についてだった。


 皆の自分を思う気持ちに涙が流れそうになる。


「私たちはこれでもいいけど、メンバーのみんなはスタープロジェクトで優勝を書けば良かったでしょ?」


「バカだね。優勝は神に頼まなくたって掴めるしょ? でも、ハニーの病気はもうこれしか治療方法がないんだよ」


「確かにな。皆の結晶が集まれば治るかもな。魔法みたいに」


「本当にみんな美月みづきが好きなんだねん」


 美月みづき以外のBIGBANGビッグバンのメンバーが全員顔を逸らして照れる。


 彼らの純粋な気持ちにようは笑った。


「なんで笑うんですか!」


「ごめんじゃん! 面白いから笑ったじゃなくて、かわいいなーって思ってじゃん」


「確かに、ちょっとかわいいかも」


 咲良さくらの言葉に彼らはさらに照れる。


 しばらくはそのやり取りがあり、一同は絵馬をくくりつけてくる。


 その時に手を合わせて「自分たちの願いが届きますように」と願って。


「おみくじ!」


「初詣の醍醐味だね」


 次に一同はおみくじのエリアへとやってきた。


 翔兎しょうと春樹はるきは乗り気ではなかったが、その場の雰囲気で二人も引く。


「大吉!」


 またもようが自信満々に見せびらかしてくる。


「私も!」


「私もだよ!」


 美月みづき咲良さくらが嬉しさを前面に出しながら言葉にする。


 その横で乗り気ではなかった二人が舌打ちをする。


「だからおみくじ嫌いなんだよ」


銀河ぎんがとは初めて息があったな」


 良い結果を出したことのない二人。凶が連続で続くという事件があった日から、おみくじは引かなくなった。


 そして、今回も二人とも凶。


「まぁ、こんなものエンタメの一種だし、気にしない、気にしない」


「アタシは気にしてないし……まぁ、吉だし普通かん」


「そう、こんなものエンタメ、エンタメ。僕も末吉だし……」


 気にしていないと言った二人が一番気にしていそうな言葉使いだった。


 おみくじの結果に意識を向けている一同。しかし、気づいたら美月みづき翔兎しょうとがいなかった。


「あの二人、抜け駆けしてイチャイチャするつもりだね」


「そんなつもりはないと思うけど……」


 吉を出し、唯一、おみくじを気にしていない柚葉ゆずはが咲良の言葉に呆れる。


 肝心の二人はお守り売り場にいた。


「病気平癒か……」


「一応買っておいたら? 効くかどうかわかんないけど……」


「うん、翔兎しょうとが言うならそうしようかな」


 少しだけ値段がしたが、今後の未来のために初めて購入する。


 買い物が終わり、皆のところに戻る美月みづきたち。咲良さくらからはからかわれた。


 やっとお待ちかねの屋台。美月みづきはるんるんになりながら見て回る。


「そういえば、あの時の夏祭りも楽しかったよねん」


「うん、楽しかったじゃん!」


 一年生の時に行った夏祭り。あの時もこうやって楽しく皆で屋台を周った


 色々なことをして、部員の新たな一面が垣間見れた。そして、そこから絆も深まっていった。


 だが、その後の神門じんもん家主催の演奏会。


 登壇した美月みづきたちは酷評を受け、最後までやらせてもらえなかった。


 苦い思い出もある夏祭り。その話を聞き、


「一族が悪いことした。すまない」


「なんで春樹はるきくんが謝るの?」


「そうだよ。悪いのはあの女。今度会ったら、ギャフンと言わせてやるんだから」


「高校も違うし、会うことはないと思うけど……」


 呑気に話している美月みづきたちの横で春樹はるきが暗い表情をする。それを見て美月みづきは「どうしたの?」と声をかけるが……


「大丈夫、大丈夫」


 誤魔化していく春樹はるき美月みづきは疑問に思ったが、それ以上は踏み込まなかった。


 懐かしい話と苦い思い出の話を終え、屋台の物を買っていく。


 美月みづきは大好きなりんご飴を購入し、翔兎しょうとと一緒に食べた。この時に翔兎の物と食べ比べをし、間接キス。


 お互いに甘い気分になれた。


 チョコバナナ、綿菓子、たこ焼きなど美味しいそうなものは片っ端から食べていく。


「やっぱりイカ焼きだよね」


陽奈ひなが好きだったよねん」


 夏祭り時以来、すっかりお気に入りになってしまった咲良さっくら。美味しそうに頬張る姿がリスみたいで可愛かった。


「ハニー、じゃがバターあったよ」


「本当に!」


 急いで屋台へと移動し、値段など気にせず購入。口の中へと勢いよく含んでいく。


宇崎うざき……お前、ブラックホールみたいに飲み込んでいくな」


 春樹はるきの言葉に反応しながらも、どんどんと口に食べ物を運んでいく。そんな時……


「ゲホッ! ゲホッ!」


 美月みづきが咳き込んだ。食べていたものは飲み込んでいたので、吐き出すことはなかったが……地面に赤い滴が飛び散る。


美月みづき!」


「大丈夫、だ……ゴホッ! ゴホッ!」


 咳き込む割合が多くなり、ついに膝を地面についた。


「やっぱりガタが来てるんじゃ……」


「大丈夫、大丈夫」


 なんとか治り立ち上がる。ちょっとだけフラついていたが、しばらくして正常になっていく。


「本当に大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」


 自分では体が衰えてきているのを実感できている。スタープロジェクトまで持つか心配している部分もあるが……絶対に持たせると覚悟を決めている。


美月みづきのこともあるし、今日は解散しよう」


「いや、大丈夫だから……練習しよう!」


 翔兎しょうとの意見を跳ね除けるように美月が意気揚々と声にする。そんな彼女の言葉を聞いて彼は「でも……」と口にする。


「私なら大丈夫! もう直ぐ二次予選だし、スキルアップもしておきたいんだよ」


美月みづき


「何?」


「今日は帰って大人しくしておいたほうがいい。本番で倒れたら元も子もないんだよ」


「でも……」


「お願い」


 手を握り、真剣な眼差しで美月みづきを見据える。


「アタシも咲良さくらに賛成」


「ボクもじゃん」


 BIGBANGビッグバンのメンバーも同じ意見のようで、美月みづきは仕方なく彼らの意見を呑んだ。


「ありがとう」


 美月みづきの急な体調悪化により、一同は解散。今年の初詣が終わる。そして、徐々に近づいてくるスタープロジェクト二次予選。


 開幕まであと十日。

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