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第54話 クリスマスデート大作戦後編

「やっぱり凄い人通りだね」


「そうだな」


 原宿竹下通りにやってきた美月みづき翔兎しょうと。二人とも何度か来たことがある場所だが、デートで来るとなるとまた違った感覚が味わえる。


 現在時刻十四時。イルミネーション点灯までは三時間ほどあるので、どこかで暇でも潰そうと画策する。


「何する?」


 とは言っても、欲が少ない翔兎しょうとは何かしたいことがあるわけでも欲しいものがあるわけでもなかった。


 ただ、美月みづきと一緒ならどこでも楽しめるから。


「クレープ食べたい!」


「おい、さっきご飯食ったばっかだろ」


「スイーツは別腹だもん!」


「わからねぇー」


 翔兎しょうとが大きなため息を吐く。


 昨今はスイーツ男子という言葉が当たり前に使われており、『スイーツ=女子』という風潮はほとんどない。だが、彼自身がそっち側の人間ではないので、理解は追いつかない。


「じゃあ、私だけ食べるから。それならいいでしょ?」


「わかったよ」


 渋々了承する翔兎しょうと。それとは裏腹に美月みづきはるんるんな気分でクレープ屋へと向かう。


 原宿といえばクレープ。この場所に来たら絶対に食べる。一番好きなスイーツと言っても過言でもなかった。


 クレープ屋に到着。人気店なので列ができていたが、美月みづきは気にせずその列に並ぶ。


 翔兎しょうとは近くで待ち、美月みづきの姿を見ていた。


「こういうのが好きって可愛いなー」


 いつもは大雑把な性格をしているが、ふと見せる女の子特有の可愛さ。それが翔兎しょうとの心を打ち、美月みづきという女性により惹かれていく。


 しばらく待ち、美月みづきが嬉しそうにこちらに来た。


「ジャーン! でっかいイチゴでしょ」


 子供みたいに無邪気に見せびらかしてくる。その姿を見て不意に口が開いていた。


美月みづきってイチゴ好きなのか?」


「好きだよ」


「そうなんだ」


 今まで一緒にいたのに、彼女の側面しか見れていなかったことを翔兎しょうとは痛感する。


 美月みづきが美味しそうに口に頬張る。幸せそうにもぐもぐしていくが……


「口についてるよ」


 翔兎しょうとは口についているクリームを手で取ってあげる。


 彼の急な行動に美月みづきはドキドキした。食べる手を止めてしまい、彼を見つめる。


「どうしたの?」


「なんでもない、なんでもない。それより、この後どうする?」


「そうだなー、俺は美月みづきのしたいことならなんでもいいよ」


「じゃあ……」


 天を仰ぎ、顎に手を当てて考え事をするが……原宿でしたかったことはもう終わった。(イルミネーショ以外)


 美月みづきとしても特にやりたいことがあるわけではなく、翔兎しょうとと一緒に行動できるだけで満足だった。


 行き先に悩んでしまう二人。そんな時……


「じゃあさ、猫カフェとかどう?」


 意外な提案で美月みづきは少しだけ驚いた。同時に可愛いと思ってしまう自分もいた。


 恥ずかしそうにしながら言葉を紡ぐ翔兎しょうと


「俺、猫好きなんだよ。美月みづきは猫好き?」


「うん、猫派か犬派かって言われたら猫が好きだよ。でも、一番は熊なんだけね」


 美月みづきの好きな動物を知り、翔兎は目を見開く。しかし、猫も好きと言ってくれたので少しだけ嬉しかった。


 猫カフェにいけることにテンションを上げる翔兎しょうと


 目的のビルに入り、エレベーターに乗る。


「楽しみだね」


「お、おう……」


 可愛い猫ちゃんたちに会える嬉しさが、二人の気持ちを高まらせる。


 エレベーターの中で期待を膨らませていると目の前の扉が開く。


 念願の猫カフェとうげんきょうの入り口が見え、緊張しながらも中に入りチェックインをする。


 翔兎しょうとが手際よくやっていき、いざ猫カフェの中へ。


 入った瞬間に温かい雰囲気の空間だと感じた。壁や床などは全面的にひのきを使用。いるだけで心が軽くなる空間だった。


 肝心の猫が目の前を通り、目の端に入る。


「可愛いー」


 二人ともメロメロになる。


 視界を見渡すとたくさんの猫がいた。


 スコティッシュフォールドやマンチカン、三毛猫など多種多様だ。


「おいでー」


 翔兎しょうとが甘い声で猫に話しかけていく。また違った一面を見た美月みづきは彼のことを可愛いと思った。


 猫を丁寧に撫でながら、美月みづきに話しかける。


「こういったところは初めてか?」


「うん。ちょっと勇気がなくてこれなくて……」


 いつか来て見たいと思っていたが、結局これずじまい。ちょっと勇気がないと自分が情けなくもなる。


 そんな彼女をなだめるためか、翔兎しょうとが話をする。


「来たことあるっていっても俺もなぐさめのためだよ。ほら、中学の時、悪友とつるんでたって言ってただろ? 本当はあれはダメだってわかってたんだ。そんな自分をなぐさめるために、純粋なこのたちになだめてもらってたんだよ」


「そうなんだ」


「でも、今日ここに来れただろ。また一歩成長できたって思えるんじゃねぇか」


「ありがとう」


 二人は笑い合う。その後もしばらく雑談は続いた。


「そうだ! おやつでもあげてみないか?」


「おやつ?」


「あぁ、サービスでやってるんだよ。まぁ、おやつ代は払わないとだけどな」


 おやつ代は翔兎しょうとが持ってくれると言ってくれたので、美月みづきはお言葉に甘える。


 翔兎しょうとに購入してもらったおやつを猫にあげていく。


 美月みづきはスコティッシュフォールドの猫が気に入ったらしく、その子にあげていく。


 食べる姿が愛らしく、見ているだけで癒される。


「美味しい?」


 返答などしないことはわかっているのに、なぜか動物には話しかけてしまう。無意識に甘い声になり、優しい微笑みも向ける。


 美味しそうに食べる猫。すごく可愛かった。


 他の子にもあげた。まるで自分が飼っているかのような錯覚にも陥る。


 まぶたが落ちている猫もいた。無意識に撫でてしまっており、それだけで微笑みが浮かぶ。


*****


「あんな美月みづき初めて」


「そうなの?」


「うん、私と一緒の時には絶対に見せない笑顔。やっと、大切な人ができたんだね」


 咲良さくらが自分の元に寄って来ている猫に触れながら言葉にする。


「それより……俺たちまで入る必要なかったんじゃね?」


 一緒に猫カフェについてきたことを春樹はるきが疑問に思う。


「可愛いからいいじゃない」


「いいじゃん!」


「なんか流されてる気がするけど……」


 春樹はるきの元に猫が一匹。彼のことを見つめる。それに彼は心奪われ……めちゃくちゃ可愛がった。


*****


「そろそろかー」


「そうだね」


 気づけば窓の外はだいぶ日が暮れてきていた。


 餌を食べている姿を見たり、おやつを与えたり、昼寝している姿を観察したり、ありとあらゆる猫の姿を見れた。


 名残惜しいが、美月みづきたちは猫カフェを後にする。


 二人は手を繋ぎながら、原宿に来た本来の目的を達成させるために歩いて行く。


 到着。まだ点灯前なのにイルミネーションの近くにはたくさんの人がいた。


「楽しみだね」


 美月みづきの言葉と同時に雪がちらついてきた。突然の天候に集まっている他の人たちも驚いていた。


「ロマンチックだね」


「そうだね」


 偶然にしてはタイミングが良すぎる。だが、それは最高のクリスマスの日を演出してくれた。


 雪がちらつき始めて一分後、イルミネーションが点灯。


 雪や街の光と合わさり、最高に綺麗な光の群生になる。


 二人は心を奪われ、頭の中を空っぽにして楽しんだ。


「蛍の光、窓の雪、ふみよむ月日重ねつつ、いつしか年もすぎの戸を、あけてぞ今朝けさは別れゆく♪」


 美月みづきが小声で歌い出す。


 不意を突かれた翔兎しょうとだったが、その歌声がとても綺麗で耳を澄ませて聴き惚れてしまうほどだった。


「私、この歌好きなんだよね」


「どうして? 確か別れの歌だよね」


「そう、別れの歌なんだけど……寂しさを感じさせないっていうか……なんか、好きなんだよね。ごめんね、変なこと言って」


 上手く言語化出来ない美月みづきだったが、翔兎は彼女の気持ちを汲んでくれた。


「綺麗だね」


「あぁ、綺麗だな」


 目の前で点灯するイルミネーション。光などいつも見ていて慣れているのに、なぜか蛍光灯などには出来ない幻想さを持つ。だからこそ、人々の心を打つ。


「私ね、今が一番幸せだよ」


 その言葉の直後、翔兎しょうとは突然、頬に柔らかい感触を感じた。


美月みづき、今……」


「恥ずかしいから言わないで」


 背伸びして無理に行った。それだけ美月みづき翔兎しょうとのことを好いていた。


 デートの時間が終わる。いつまでも見ていたい光景。いつまでも続いてほしい時間。


 でも、この時間は一生は続かない。そして、運命の日が来ることも変えられない。


 グレていた時は思いもしなかった。希望などなかったし、やりたいこともなかった。毎日が退屈で、一人になれる夜に早くなってほしいと思っていた。


 だが、今は時間が止まってほしいと思っている。この時間が一生……そして……


*****


「帰ろうか」


 二人が気になり、美月みづきたちを付けていた咲良さくらが一緒について来ていたメンバーに言う。それに従い、BIGBANGビッグバンのメンバー、明里あかりようは帰宅して行った。


「よかったね。美月みづき


 咲良さくらの目には涙が浮かんでいた。

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