新たなメンバー
目的は腹ごしらえと、
「
「えっ、これが普通じゃないの!」
チーズバーガーセットに追加でテリヤキバーガー、ノーマルバーガー二つ。さらには野菜にシェイクにアップルパイが二つ。
年頃といえど、運動部の男子級の大食いを見せられ、メンバーは驚きに包まれる。
「
「まぁ、よく食べるのは健康的な証拠だから」
本当に余命宣告されているのか疑いたくなるほどの食べっぷりで、嬉しいような、そうでないような……
他のメンバーも頼み終えたメニューを持ち、席へとついていく。
因みに、
頼んだメニューを容易くたいらげていく
急な
メモに書かれてあった歌詞。その一部の『
「この『君の気持ちがわからない。でも、苦しんでいる感情だけはわかる』って歌詞、俺は共感できるな」
中学の頃は前科持ちの父親のせいでいじめにあった。そのすぐ後に父親は再逮捕されたため、田舎の祖父母のところに引き取られたが……やはり、そこでは馴染めず、少しグレる。
街まで降りて一週間帰らない日もあった。
高校生になり、地元に帰ってきた。そこで
あの時の彼女の手に救われた。かけてくれた言葉も。そう、あの時の彼女の言葉を
「確か、兄貴はすれ違いをテーマにしてたっていってたよな」
「なら、歌詞は今日考えた方がいいよね。ほら、僕たちついさっきまですれ違いしてたし」
「自虐ネタにしてはキツすぎるぞ」
彼女は少しだけ甘いのかもしれないと
「大体はこの歌詞をベースにするのがいいのではないでしょうか?」
「確かに、
「何それ! 貶してるでしょ!」
いつも以上にツッコミにキレがあり、からかっている
「
「そうだね……というよりさ、そろそろ
「そ、そんな!
「でも、
「でも……」
「慣れないなら今のままでもいいよ。でも、私はフランクに接してほしい」
「なら……
「うん、それがいいかも!」
恥ずかしそうに顔を隠している
少し話が脱線してしまったが、
「
今や伝説と呼ばれている
そんな彼らにも涙を飲んだ時期が存在した。報われない日が存在した。あの日、流した涙の意味を自分たちが汲んであげたかった。
それが憧れの人にできる最大の恩返しだ。
「兄貴はメジャーデビューの話が来た時、断ろうとしたんだ。デビューしちまったら、スタープロジェクトに挑戦できなくなっちまうからな。でも……俺のせいで……」
「そうなんだ」
「だから、兄貴たちの想いまで乗せてくれてありがとう。
「そんなことないよ。私はみんなに感謝してる」
「そういうところもハニーの魅力だよ」
「ありがとう」
煌びやかな笑顔を向ける。その後は、ハンバーガーを口に運びながら、歌詞の話を続けていく。そんな時、
「そういえばよ、演奏場所どうするんだ?」
「いつも通り『
「それじゃ変わり映えしないじゃないですか。最後ですよ! 一次予選突破が決まる大事な場面です。場所にはこだわった方がいいです!」
「そう言われても……」
バンドを組んでから『
思案していく五人だったが、なかなかいい場所が見つからない。そんな時、「じゃあさ、私の家にしない?」と
「でも、楽器全部は入らないだろ?」
「そうだ。それが課題だから親父にスタジオ使わせてもらえないか頼んだんだろ」
「でも、ベッドとかテレビ外に出せばギリギリ入るかもしれないじゃない」
「ギリギリなんですね……」
あまりに無計画すぎる
「入るっていうなら、俺もそこがいい。あそこは
たったの三ヶ月ほどだったが、あの場所にはたくさんの思い出が詰まっている。
「わかったよ。試してみよう」
「そうですね」
「わかったよハニー」
満場一致で
最後は歌詞。できれば今日中に完成させて明日からは練習に入りたい。
五人は自身が持っている知恵と経験を振り絞り、的確なワードを出していく。もう少しで完成……そんな時、
「あのー、申し訳ないんですが閉店時間になりました」
女性の店員が
「ごめんなさい!」
全員で謝罪して急いで店を出る。
外はまだ雪がチラチラと舞っていて部屋の中との温度差に体がびっくりする。
「寒いね」
「そうだな……」
「それより、歌詞どうしようか」
後ちょっとだった歌詞のことを
「後は私がやっておくよ」
「でも……」
「いいから、いいから。私が作りたいの。皆の納得のいくものにするから……信じてほしい」
真剣な眼差しで四人の目を
「わかりました。信じてます……
「うん」
そう言って五人はそれぞれの帰路に着いた。
次の日からの練習に気合を入れて。
*****
「あと五分だよ!」
ライブ配信時間が一刻と迫ってきていて、
あの歌詞作りの日から九日。
最大限の練習をし、完璧に仕上げた彼女たちは一次予選最終日を迎えていた。
だが、肝心なボーカルの
「何やってるんだよ、あのバカ!」
「イライラしても仕方ないですよ。信じましょうよ」
「そう言ってもな」
そんな時、インターホンが鳴る。
「
部屋を飛び出し、階下へと降り、玄関を開ける。
「悪い、遅れた」
肩で息をしながら
「
「あぁ、どうした?」
目の前の男性に
なぜなら、目の前の男は金髪ではなく、黒髪。しかも長髪だった髪の毛もショートヘアーになっていて、雰囲気が一気に変わっていたから。
本人確認ができた。時間がないので急いで彼女の部屋へと向かっていく。
他のメンバーにも本物か疑われたが、
残り三分。
「終わってからだぞ」
「わかってるよ」
ファンがたくさんいた。彼、彼女たちに恥じない演奏をしていこう。そう思っていると……
『頑張ってください』
『四年前の冬の日の涙』というアカウントからメッセージが届いた。
それを見て、
「いくぜ!」
ランキング百五位。この九日間で下がってしまい、一予選突破はギリギリになってしまった。
だが、彼らは絶対に上手くいくと信じていた。なぜなら、あの時芽生えた絆は、どのバンドよりも固いものだと確信しているから。