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第50話 恩返し

 美月みづきの元に現れる春樹はるき健斗けんと。彼らの姿を見て、美月みづきは堪えていた涙が溢れ出てきていた。


 つい一時間ほど前に喧嘩別れしたばかりなのに、もう自分の目の前に姿を見せてくれた二人。彼ら優しさや温かさを感じた。


 二人が柚葉ゆずはの隣に並ぶ。


「このバンドは大変だぞ」


「わかってますよ」


 意地悪そうな声の春樹はるきに、舌を出しながら可愛く言葉を返す。


 柚葉ゆずはの行為に微笑みむ。その後、美月みづきの方を三人で見る。


宇崎うざきのおかげで俺は自分の大切なものをに向き合えた。感謝している」


「僕もだよ。美月みづきさんに救われた。精神的に崩れていた僕を美月みづきさんが救ってくれたんだ。ありがとう」


 春樹はるき健斗けんとが自分の胸中を初めて言葉に乗せて伝えていく。


 彼らの言葉に美月みづきは自分の気持ちと真剣に向き合う。


 なんでもっと早く気づかなかったのだろう。三人がBIGBANGビッグバンを大切に思ってくれていることはわかっていた。最高の仲間だということも。


 だが、彼らのBIGBANGビッグバンへの、美月みづきへの想いは彼女が想像している以上だった。それが嬉しく……嬉しくて……


 感傷に浸っていると次は翔兎しょうと美月みづきの方を向く。


 その視線は美月みづきの目を射抜くほど熱烈で、今が真冬の外だと言うことを忘れるほどの熱さだった。


「俺も美月みづきに出会えて、音楽に出会えて救われた。変われたんだよ。こんな不良だった俺でも変われるって教えてくれた。ありがとう」


翔兎しょうとくん……」


 いつも以上に真剣で男らしい声色に、美月みづきの乙女心はグッと掴まれた。


 他の三人の言葉が薄っぺらかったわけではないが、翔兎しょうとの言葉は彼女のハートを撃ち抜くほど強烈で、彼女の胸の奥をドキドキさせてくれる。彼への恋心を更に加速してくれる。


 唇を噛み締め、破裂しそうな想いを必死に堪えて美月みづきは言葉にする。


「私もだよ。みんなが私とバンドを一緒にやってくれて、私は夢を追いかけられてる。私の方こそ、感謝してるんだよ」


 軽音楽部が廃部になってから、半年ほど一人で活動していた。報われない日も多々あり、何度涙を飲んだことか。


 だが、春風はるかぜが吹き、心地よく新学期が始まったある日、翔兎しょうと美月みづきに声をかけてくれた。


 その日から美月みづきの心は解放された。


 襲われた時は、下心満載だけだったと知り、また絶望したが、柚葉ゆずはの言葉に救われた。翔兎しょうとを信じてみようと思えた。


 そうしたら、彼は本当に音楽を好きになってくれた。


 その後、春樹はるきと出会った。彼にも拒否られたが、最終的にはメンバーになってくれた。


 その直ぐに伝説を超える宣言。


 スタープロジェクトが始まり、健斗けんとが加入し、文化祭があり……今、新たなメンバー柚葉ゆずはが加入した。


 この過程がなければ美月みづきはここまでやってこれなかった。


 今まで起きた出来事を胸の中だけで思い出し、必死に想いを伝えていく。


 浮かぶ涙には純粋な気持ち以外込められておらず、彼女の人間性が今の言葉に全て込められているのを四人は感じ取る。


「やっぱ宇崎うざきには敵わねぇや」


「そうですね」「そうだな」


 春樹はるきが頭を掻きながら口にし、三人も彼の言葉に賛同する。


「もう、おだてすぎだよ」


 美月みづきが彼らの言葉に照れる。


 楽天的な性格の彼女でも今のは恥ずかしかったらしく、顔を首にしているマフラーで隠す。


 その姿に翔兎しょうとはグッと心を掴まれた。


 だが、美月みづきが照れているのを見て、春樹はるきは笑い、健斗けんと柚葉ゆずはは見惚れる。


 しばらく、じゃれ合う五人だったが……美月みづきがふとみんなに言葉を発した。


「みんな、ちょっといいかな?」


 美月みづきの言葉に四人が注目する。そして、彼女は本題を口にしていく。


「みんなでこの歌、歌わない?」


 提示された曲に、翔兎しょうと春樹はるきは「いいな」と反応したが、健斗と柚葉は首を傾げていた。


「そうか、まだこの時は二人はメンバーじゃなかったもんな」


「そうだな」


 OCEANオーシャンと合同練習をし、提供してもらった曲。それの説明する。


「いいね!」「いいですね」


 説明を受けて二人も了承。しかし、まだ肝心なことが決まっていなかった。それは……


「歌詞が決まってないんだよね」


 提供してもらったのは楽曲だけ。この歌を歌うとなると、残り九日で歌詞作成、演奏練習をしないといけない。そして、最終日に演奏。


 それでランキング百位以内に入れるか。


 五人でランキングを確認する。


 八十八位という予選突破圏内にいるBIGBANGビッグバンだが、ここから波乱が起きるのがスタープロジェクトだ。まだ油断はできない。


「でも、これがいい」


 美月みづきが強い想いで四人に言う。


「やっぱ、宇崎うざき宇崎うざきだな」


「そうですね」


「何よそれ!」


 全員が春樹はるきの言葉に肯定し、美月みづきは頬を膨らませる。その姿はとても可愛かったが、その場にいたものたちは笑っていた。


 彼らとしても、彼女の意見に賛成だ。たとえ、この選択で敗退したとしても彼女の、自分たちの後悔する選択だけはしたくないのだ。


「じゃあ、明日から練習再開だな。スタープロジェクト絶対優勝するぞ!」


『おー』


 気合を入れていく五人。だが、


「ごめん、お腹鳴っちゃった」


 恥ずかしながら美月みづきが自己申告する。またも笑いに包まれる四人。


「なら、みんなでハンバーガー食べに行こうぜ。美月みづきと行く予定してたんだよ」


「いいですね」


「歌詞についてもそこで話し合ええるしな」


「ハニー、おすすめ教えてよ」


「じゃあ、決まりで。いいよな美月みづき


「うん、行こうか」


 五人は楽しそうに雑談しながら目的の場所へと向かっていく。


 その後ろ姿には今まで以上に絆が芽生えているBIGBANGビッグバンの姿があった。


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