「ありがとーう」
あの文化祭から一ヶ
この場には
彼女自身が生で見たいと言ってきため、時間を合わせて特別に招待した。
『アンコール! アンコール!』
コメント欄が盛り上がる。
ここに集まった全ての人が一団となり、一つの世界を構築する。
ライブ視聴人数は三万を超えていた。
あの文化祭での演奏が聞いているのか、文化祭前から倍の集客ができていた。
「みんなありがとうね! 時間も余ってるから、もう
『うおぉぉぉ!』
スマホやPCが熱に支配されるかのような賑わい。それに応えるように、
次に選んだ曲は、去年、軽音楽部音みんなで児童養護施設で演奏した曲。
あれは
文化祭の時とは違い、アイドルのような可憐な声色で歌う。ポップな曲とは相性の良い声だった。
だが、この演奏は大いに盛り上がった。
画面越しなのに、実際にこの場に人がいるかのような感覚になる
このコメント欄での応援に、彼女たちの心も燃えるような感覚に襲われ、
とても楽しい演奏だった。
2曲が終わり、今度はファンミーティングに移行する。
一次予選では『人を惹きつける魅力』も見ているため、この時間は必須だった。
とはいっても、基本は雑談。
今ハマっていることや、時事ネタなどを話したりする。そこに質問などが少し飛び交った。
『
「えっ! 恋、人……」
突然の質問に、戸惑いを見せるが、「い、今はいないよ」と、正直に答えておく。
『マジ! じゃあ、俺もワンチャンあるってこと?』
「はは……」
変な男のコメントに苦笑いを浮かべる。
そして、
多分両思いなのに、バンドのメンバー以上の関係になれていない二人。もし違ったら、恥ずかしいが……
質問の後に突然目が合い、
「話題、変えよう! ほら、みんな私たちの歌で何が好きなの?」
『
だが、好みは人それぞれのようで、バラバラな意見が飛んできた。
「だよね。でも、やっぱ『スキノカタチ』が多いかー。まぁ、文化祭で増えたファンだからこうなるよね」
この結果になったという事は、あの歌に込めた想いが皆に届いたという意味でもあるだろう。
曲の話が終わり、今度は
ここで無碍にしては印象を悪くするので、三人はファンに対応していく。
それぞれしっかりと答えていった。
だが、この時に
「なんでもないよ。大丈夫……」
『そういえば、あの時の三人はメンバーにならないんですか?』
「あの時の三人?」
『はい、お団子の子と茶髪の子、それと白髪の子』
特徴を言われて、
「あぁ、あの三人ね。お団子の子と茶髪の子は軽音楽部の時の仲間だよ。あの時に助っ人してくれただけなんだ。白髪の子は……誘ったけど、断られちゃった」
今いる
仕方ない。彼女が選んだ選択なら、
納得の理由を聞かされリスナーはこれ以上追求してくる事はなかった。
この後も雑談で盛り上がった。柚葉はこの場にいるのに、スマホで参加してポイントを入れてくれた。
雑談で盛り上がっている最中、リスナーのひとりが、重要な話題を入れてくる。
『そういえば、ランキング見ましたか?』
リスナーの言葉に
「見たよ! まさか、あそこまで上がってるとは思ってなかった」
八十八位。
文化祭の効果があったとはいえ、凄まじい急上昇。しかも、一次予選突破圏内の百位以内に入れていた。
『でも、あと十日もありますから、油断は禁物ですけどね。一気に抜かれるかもしれない。その怖さがあるのがスタープロジェクトです』
「そうだね。肝に銘じておくよ」
リスナーからの指摘で、
ここからはリスナーとの一致団結も大切だ。
リスナーとの絆を深めるために、親近感を得ようとさらに雑談をした。
大いに盛り上がったあと、この日は配信を終了した。
「ライブ配信どうだった?」
間近で見ていた
「参加してるんだよ」
「そうでしたね」
ライブ配信は視聴者と演者が交差して初めて意味を成す。
故に、どちらかが配慮に欠いたら、絶対にいい配信はできない。
「じゃあ、少し練習していこうか」
「いいね!」
「あぁ、俺も問題ない」
「どうしたの?」
「ハニー、どうして
突然ぶっ込んだ話をしてきた。
見られていた。
あの時感じた視線は彼のものだったのか……
心当たりのあることを指摘されたが、
誰も心配させたくないから、彼女は嘘をついていく。
「なんのことなー」
「誤魔化さないで!」
「誤魔化さないでよ……」
「
今の言葉を聞いて
「確かに
余命宣告だけは絶対に言えない。言えば皆を傷つけることになる。
せめてスタープロジェクトが終わるまでは……絶対に言えない。
「なら、治療に専念してほしい」
「どうして!」
「どうしても何も、僕にはハニーが全てだ。手遅れになってからでは僕が後悔するんだ。もうあんな思いは二度と……」
「俺も
「そうです。治療に専念してください」
二人の意見に
三人の言葉を聞いて、
もう時間がない。それを知っている二人。だから、真逆の意見を述べたくなる。
「大丈夫だよ。せっかくここまで来たんだから頑張ろうよ! 予選突破できるんだよ」
「あぁ、俺もその方がいいと思う」
今の
彼の言葉は
「なんで今回にこだわる!」
「命に関わる病気だったらどうする! 手遅れになったらどうする! 死んだら何にもなんねぇんだよ!」
夢より命。それ以上のものはない。それが彼の価値観だった。
「わかってるよ……」
「あぁ?」
「わかってんだよ! そんなこと!」
悲しそうな表情で
掴んでいた胸ぐらを離し、鞄からスマホを取り出した。
「何してる!」
「スタープロジェクトのエントリーを取りやめる」
「やめろ!」
「
「
「言わないで!」
強い口調で
彼女の声は全てをかき消すかのようだった。
しかし……彼女の言葉は届かなかった。
「
紡いでほしくなかった言葉が空間に広がり、彼女が知られたくなかった秘密が、