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第17話 向き合う気持ち

 バンドにこだわる理由。そう聞かれて美月みづきはすぐに答えられなかった。


 だが、春樹はるきにとってはそこは重要な項目。彼女のバンドへの想いを聞いておかなければ、これから進む道を切り開くことがきないから。本当に自分の目標を叶えられる場所なのかの見極めができないから。


 しばらくして、美月みづきは言葉を紡いだ。


OCEANオーシャンのように輝きたかった。私、ピアノやってる時は音楽、楽しくなかったの。始めた時は楽しかったんだけど……周りの期待の目が怖くて……でも、バンドなら私の気持ちを表現できるって。勝ち負けにこだわらないでやれると思って……だから」


 一度区切り、力強く宣言する。


「スタープロジェクトで優勝してメジャーデビューしたいと思ってる。そうすればOCEANオーシャンみたいになれるって」


「なんだ、大した理由じゃねぇのか」


 返ってきた答えが想像していたものと違い、春樹はるきは失望する。そして、続けて言葉を発した。


「結局やってることは兄貴たちの後追いか……」


「そんなこと……」


「ないって言いたいのか? だけどな、お前。自分が矛盾したこと言ってるって気づいてねぇだろ?」


 美月みづきは彼の言っていることを理解できないでいた。


 矛盾。そんなつもりはない。自分はただ、音楽を紡いで、人に笑顔になってもらいたいだけ。そのために活動してきた。


 何ひとつ気づいていない美月に、春樹はるきは現実を突きつける。


「スタープロジェクトで優勝したいって言ってのに、勝ち負けにこだわらないでやれるって言ってんだよ。そんなの無理だ。ガチでやるか、趣味でやるか。どっちか選ばなきゃならねぇんだよ。そんな生半可な覚悟でやってると音もしょぼくなっちまう。前にお前が送ってきた歌のようにな」


 あの歌は確かに春樹はるきの心を熱くさせてくれたが、それは春樹が美月みづきの素直さに憧れていたからであり、歌自体に感動の要素はなかった。


 ただの自己の押し付け。それが美月のやっていることだ。


 ピアノで否定された美月みづきが、自己承認欲求を満たすためだけに始めたバンド。


 春樹はるきとは形は違うが、これも立派な現実逃避だった。


「ちょっと言いすぎだ」


「言いすぎ?」


「あぁ、美月みづきは本気で音楽やってる。それは俺が保証する。最終目標は知らなかったけど……俺たちにプレッシャーを与えないようにあえて言わないでいてくれただけだと思う」


 どんどん覇気がなくなっていく翔兎しょうとの言葉を聞き、春樹はるきはため息を吐いた。そして、


「お前は音楽の素人だから、スタープロジェクトを知らねぇのも無理はない。でも、あれは生半可な気持ちで勝てるもんじゃねぇんだよ」


 春樹はスタープロジェクトについて説明する。


 四年に一度開かれるプロのバンドを選出するための大会だ。


 キャッチコピーは『次世代の申し子、ここに集まれり』


 日本だけでなく、世界各国から応募が殺到し、事務所と契約していないバンドマンなら誰でも参加可能。


 それだけならまだしも、制限人数はなしで、審査員特別賞などの賞は存在しない。


 一千万、下手をすれば億を超える参加人数の中からたったの一組だけがプロデビューできる鬼門の道。


 そのためか、この大会で優勝したバンドは高確率で有名になれ、第一線での活躍が確約される。現にこの大会から選ばれた対象者二名は、今も第一線で活躍している。


「兄貴たちもスタープロジェクトにエントリーした。でも、予選落ちだ。それだけ厳しい大会なんだよ……」


 悲しい声色でOCEANオーシャンが挑戦した時のことを口にする。だから、


「俺の前で誓え! 本気でバンドをやっていくって!勝ちにこだわって、やっていくって! じゃなきゃ、俺は一緒にはバンドはやらない」


「そこまで言わなくても……」


「俺がバンドをやるのは、本家の奴らに復讐するためだ! 見返すためだ! こんな生半可な気持ちでやって欲しくない。それ以前に、こんな奴が兄貴と同じ舞台に立って欲しくない!」


 想いが強いから、声を荒げてしまう。この場所がカラオケボックスだということを忘れて。


「そうだね……春樹はるき君の言う通りかもしれない。私はただOCEANオーシャンの後追いをしていただけかもしれない。でも、すぐに答えは出せない。三日ほど待ってほしい」


 美月みづきが素直に非を認め、春樹はるきは驚愕。さらには、自分が悪者になったような気がした。


美月みづき……」


 険悪なムードになってしまったため、この日は解散。カラオケルームを出て、三人はそれぞれの家路に着く。


 だが、その帰り道に美月は、自分の左胸を押さえる。そこには前までなかった大きな違和感があった。そう、しこりのような大きな違和感が……


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