「ちょっと待てよ」
ドラムセットを買いに行こうと言う
理由は単純。なぜか勝手に買う前提の話になってしまっているから。
生半可な金額じゃ揃えられないことは、音楽をやっている
「ほら、
「なんか勘違いしてないか?」
「えっ?」
「
ちょっとイライラした口調で愚痴まがいの言葉を吐く。
音楽一家のエリート。さぞ豪華な生活をしているのかと思ったら、意外と一般的な家庭と変わりないらしい。
双方の認識の
ドラムは揃えられない。バンドとして活動できる夢が少し遠ざかったため、
落ち込んでいる彼女を見て
「まぁ、
「別に怒ってはいないんだけどなー」
ちょっとだけ強い口調で言ってしまった事を反省する
険悪なムードになってしまった二人だが……
「どのみち、
彼女の部屋の中にはキーボードにベッド、テレビも置かれている。既にスペースはほぼ埋まりきっており、とてもじゃないがドラムなど置けない。
仮に購入するとして、
どのみちバンドの練習をするには、もう
至急練習場所を探さなくてはならないが、学生の彼らでは金銭的にスタジオを借りるのも難しかった。
打つてなし。そんな時、
素早く文字を打っていき、誰かにメールを送信したようだった。
「親父が管理してるスタジオがあるから、そこを使えないか聞いてみた。もし、無理だった場合は悪い」
「それでもいいよ! ありがとう!」
「さすがエリート一家。金あるじゃねぇか」
「うるせぇな!」
一通り、問題が解決し、安堵する
「じゃあ、俺帰るわ」
三人はバンドの練習ををやるために集まっているので、練習ができないのであれば、この家にいる理由は
カバンを持ち、立ち上がったが……
街に出た三人は、渋谷のど真ん中にいた。
昨日と違い、晴天。更には日曜日なので人がごった返していた。
「人混みは苦手なんだよ」
「どこ行くんだ?」
「どうしようか?」
行き当たりばったりで決めてしまったので、やる事を決められていなかった。
あまりの無計画さに
二人を見かねた
「楽器見に行くか?」
一番行きたがっていなかった
「いいね!
「あと、俺は自分のギターが欲しいし」
「それじゃあ出発進行!」
指揮を取り、楽器屋を探し始める。
しばらく歩き、良さげな楽器屋を見つける。
「いつ来てもいいな」
色々な楽器を見れるのは
急に
黒を基調としたカッコイイドラムだ。七万円と値段は結構張っているが、プロが使うセットのため値段に見合う以上の演奏ができそうな予感がする。
「叩いてみたい」
元々少しやっていただけあり、ドラムセットを見るとウズウズするのだろう。
「あれ?
いつの間にか翔兎がいなくなっているのに気がつき、辺りをキョロキョロと見渡す。
「確かギター見にいくって言ってノリノリで売り場に行ったぞ」
「そうなんだ」
次はギター売り場に向かう。
「四万……うわぁぁぁ!」
喉から手が出そうな程に気に入ったデザインのギター。だが、手持ちが今は足りない。
そんな彼に寄り添い、慰めていく。
「大丈夫だよ。しばらくは私の貸してあげるから」
「あぁ……ありがとな」
声に覇気がなく、相当落ち込んでいるようだった。
結局見るだけに終わってしまい、三人は楽器店を後にした。
現在時刻十一時。
またもやることがなくなってしまい、目的地を決める時間になってしまう。
「ボウリング」と翔兎が、「ゲーセン」と春樹が、それぞれバラバラな場所を思案し、三人が楽しめる場所を上げていくなか、
「カラオケかー」
「そう。この際さ、
「そうだっけか?」
「そうだよ!」
「なんでだよ」
「頼む! カラオケだけはやめてくれ!」
頭まで下げ、普段の
「いいじゃねぇか! そんなに嫌なら歌わなければいいだけだし」
そんな
「わかったよ」
渋々了承する
フリータイムで中にはいる。これで結構遊べるのだからカラオケという施設は便利である。
一番手は美月が歌った。
歌声になると別人に豹変したかのように、クールな声色になる。
抜群の安定感。音程バーが外れることはほぼない。それでいて聞いているものに安心感を与える歌声は、プロ顔負けだった。
得点は文句なしの九十八点。群を抜いて上手いと言える点数だ。
「ふー。歌うって気持ちいいね。次、
そう言ってマイクを渡す
イントロが流れる。彼が入れたのは、SNSでバズっている歌。こう見えて意外とミーハーらしい。
第一声は安らぎを与えてくれると思える声だった。男性らしさが強調された声色だが、程よく高いキーも出せるようだ。
ガラス細工のように
『上手いと言われる』と言っていた意味を理解できた気がした。
これからのバンド活動のために、今日
得点は九十六点。
「どうだった?」
完全に聞き惚れていた
「良かったよ。あの歌難しいのに、あの点数はすごいよ」
「そうかなー」
褒められてまんざらでもないようだ。
「じゃあ、次
「えっ!」
ため息を吐きながら、マイクを握り曲を入れる。
できる限り簡単な曲を選択。少し昔の曲になってしまったが、一般的に知られている曲なので問題はないだろう。
緊張感が体全体を支配する。
その状態で歌が始まり、
彼の歌声に二人は呆然とする。だが仕方ない。彼の歌はお世辞にも上手いとは言えなかった。
音程感はほぼ皆無。声は悪くないが、全体的に喉に力が入っているのか、全部力強い歌い方で、高音は出ていない。
音域が狭いのも原因だろうか。
総評すると音痴。そう言わざるを得なかった。
彼らの行動に
そんな彼の隣に
「
「悪かったな。だから、カラオケ嫌だったんだよ」
「ごめん。私、
「いいよ。知らなかったんだから」
雰囲気が暗くなっていく。
それでも、
「ショックだよね。それが原因で音楽を嫌いになってたわけだし。でもね……」
落ち込んでいる
「音程は
意外な事実を告げられ、
音楽ならなんでも知ってる。そんな彼女がバンドにこだわる理由を