ライブ鑑賞を終えて帰宅した美月は、拾った学生証を見ながら物思いに
「
「うん。だからあの子は多分弟だと思うけど……」
もしそうなら、とんでもない人物に出会ってしまった訳だが、なぜ彼は兄のライブを観ている最中も楽しめていなかったのかが美月には不思議だった。
「まぁ、家庭問題が複雑なんだろ?」
「そうだったとしても、わざわざ先着百人のライブに来るかなー?」
「確かにそうだよな」
無料だったから来たと考えられなくもないが、人数制限を設けているライブにわざわざ来たのが不思議ではある。しかも最前列を確保してまで。
考えられる方法は音楽が好きだという事なのだが、好きなものを見てあれだけ熱中できないのは
だが、どれだけ考えても本人がいなければ、考察止まりで終わってしまうので意味はないのだが……
「そうだ!
いつもの調子で突発的なことを言い出す
「やっぱりそうなるよね……ってか、なんでそうなるんだよ!」
「そこから
「確かに、一理あるけど……あいつの家知らねぇぞ……あれ? 最後に本音出てなかった?」
最後の最後に出た本心に翔兎は、
「どのみち学生証は返さなきゃいけないんだから、彼を探すってのは賛成だよ。それに……」
「何?」
「なんでもない。なんでもない」
「それよりさ、明日集合するのも面倒だし、泊まっていったら? 部屋もひとつ空いてるし。私的には大歓迎だよ」
「流石に女の子の家に泊まるのは……」
「いいじゃん! 同じ部屋で寝る訳じゃないんだし」
「じゃあ……そこまで言うならお言葉に甘えて」
そんなこんなで急遽お泊まり会的なものになった二人。明日、
次の日、家を出た二人は、
せっかく学生証を持っているので、学校に行くのが正攻法だとは思うが……
「今日は土曜日だしなー。空いてないかもしれないぞ」
「空いてるかもしれないでしょ?」
「なんでそんな前向きに考えられるんだよ」
いついかなる時でもポジティブに考えられる
主導権を持っていく美月に振り回される形になるが、
私立
卒業することも困難と言われており、卒業できたものは何かしらの専門学校に行くことが多い。
「エリート音楽一家の
「うん。そうだね」
「私ね、本当はここ受けたかったんだ。でも、家から遠いから無理だった」
「そうなんだ」
「でも、今は未練はないよ! だって、
「急にそんなこと言うなよな! 恥ずかしいじゃねぇか」
「そうかな?」
「普通はそうなんだよ!」
感性の違いか
ちょっとした雑談を交わしたが、肝心の目的のために学校のインターホンを押そうとする……と、
「君たち、ここの生徒じゃないよね。何か用?」
忘れ物を取りに来た女子生徒に話しかけられるが、
「
「知ってるけど……彼ってあまりいい噂聞かないよ。よくゲーセンに入り浸ってるらしいけど」
「ゲーセン?」
「えぇ、渋谷のゲーセンでよく見かけるって」
「本当! ありがとう」
思わぬ情報が手に入った。
今日、居るかはわからないが、二人は教えてもらったゲームセンターへ向かった。
自動ドアを
「
説得している男──
「くそ! 兄貴がうるせぇから負けちまったじゃねぇか!」
負けた怒りを兄にぶつけ、「どけよ!」と言葉を吐いてからゲーセンを出ていった。
「
自分の説得の言葉が届かなかったことに、
そんな彼を見て美月は、
「ほ、本物! 本物よ! 本当にあの
願いが叶った子供のように目をキラキラさせていく。興奮が抑えられない。
迷ったらすぐに行動をモットーにしている美月は、いつも通り、即行動に落とし込む。
「あっ! あのー、じ、
「そうだけど……あっ! 君もね」
こういったことには慣れているのか、すぐに状況を理解してファンサモードに移行する。
緊張しながらも、
「わ、わわわ、わたしう、ううう、ざきみみみみ、づきと、も、ももうします……あっ、あな、アナタ達のファンで……き、きききのうのライブもみ、みみに行きました。とても……とても良かったです!」
「あ、ありがとう」
弟のことがあった後でも、ファンに誠心誠意応える
黒色の長髪にオレンジのメッシュが入っている。背丈は平均男性より高く、理想の男性を形容した人物だ。
「お、お礼言ってもらっちゃたー。どうしよう。どうしよう。私死んでも本望かも……」
「それは言い過ぎだろ……」
照れながら混乱している美月に、冷静にツッコミを入れる。
ゲーセンに迷惑がかかると思った
少しだけ
素直にお礼を言う
「ちょっと話しずらいんですけど……さっきのやり取り……」
「あぁ、恥ずかしいところ見せたよね」
困り顔を浮かべる
「昔の
「えっ!」
「まぁ、驚くのも無理ないよね。あの姿を見た後なら。
普通の家庭には適応されるものが、
名門──
そこから
だが、
「ごめんね。こんな話されても困るだけだよね」
「そんな事ないです。話を切り出したのは私ですから」
話が一通り終わり、険悪な空気が漂ってしまう。
その空気を切り裂いたのは美月だった。震える唇を懸命に動かし、
「
「
「だって、
「ありがとう。僕も頑張ってみるよ。今日は時間を作ってくれてありがとう」
「いえ……こちらこそお話できて嬉しかったです。来月からのツアー頑張ってください!」
帰り道、美月は暗い顔を浮かべる。
「ああ言ったもののやっぱり心配なのか?」
「それもあるけど……私、
歯を食いしばりながら、自分のことのように彼の気持ちを受け止めようとする。
「わかるかもって、話したこともないのにか?」
「うん。
「悪い。俺はそこまで夢中になったものがなかったから、わかりそうにない。でも……」
一度深呼吸し、言葉を紡ぐ。
「今ならわかるかもしれない。俺、本気で音楽やってみたいと思ってる」
「昨日、彼らのライブを観て、ここまで心を掴めるものがあるのかって思った。こんなこと初めだったんだ。本気で取り組むことには魂が宿るということも知れた。だから
彼の言葉に
「なんで泣くの?」
「嬉しいからだよ」
今日初めて、