こういった事態は初めてだったので、家族や友達にたくさん心配されたが、
「
母親の心配そうな声色が美月の耳に入ってくる。
だが、その言葉には一切返答しない。
心配してくれている母の気持ちはわかるが、すぐに立ち直れる程、
母親には何も話していない。
何から話せばいいのかわからないし、下手に話して
第一、彼のことを……
「信じたい……」
その想いが強かった。
ただの間違いで行ってしまっただけなのだと。だから、謝罪の一言もあるかもしれないと……
そう信じたかった。
一通のメールが届く。
スマホを見る気力もなかった美月だが、生活習慣に刻まれた無意識は、勝手に手を動かしていた。
『
自然と涙が溢れてきた。
たくさんの人に心配と迷惑をかけた二日間。こんなところで
だが……あの日の事を思い出させ、美月の足を止めさせる。
去年の冬の出来事だ。
方向性の違いから軽音楽部は、たったの半年で自分以外の部員がいなくなった。
最初は意気投合し、共にスタープロジェクト優勝をを目指していたのだが、途中から親友だと思っていた部員のひとり──
後から聞いた話だが、彼女は俗に言う援交を行っており、そのカモとして
その時は
あの出来事があり、
「
そう思いたいが、事実彼女は二度目の裏切りを受けている。恐怖を拭い取ることなどできない。
またもメールが届く。
しかし、今度のメールは彼女の目を引くものだった。
送り主はまた
元々、百件くらいのメッセージは届いていたのだが、今回はその比じゃない。
十倍以上のメッセージが届き、彼女のことを心配している。
その中でも一際、目立つメッセージがあった。
『動画投稿されてませんけど大丈夫ですか? 私は美月さんの歌に毎日励まされています。もし、美月さんが精神的に打ちのめされたり、活動が厳しいのであれば、微力ですが、私が力になって、恩返ししたいです。こんなコメントしかできませんが、また復活願ってます!』
インドア・ホワイトというアカウント名。
確かこの人は毎日見てくれてコメントをくれる人だ。
自分の事をこんな風に思ってくれている。
他の人もたくさんのコメントをくれている。その温かさに彼女は、少しだけ勇気をもらえた。
ここで立ち止まっていてはこの人たちに顔向けできない。
なら自分のやれることは?
それを考えた結果、彼女の取る行動はひとつだった。
彼女は立ち上がる。
まだ完全に立ち直れたわけではない。
だが、立ち止まっていては何も変わらない。
気合いで体を動かし、家を飛び出す。
あんな事をされた男だが、この一件にケジメをつけずに終わらせるのはなんだかいけないような気がする。それに……
(
初めて会った時からそれは感じていた。だから、彼と二人きりになっても緊張もしなかったし、ましてや
彼の過去に何があるのかわからないが、そばにいてあげたい、手を差し伸ばしてあげたいと思うのだ。
「へーい」
ドスのきいた声が聞こえ、玄関が開かれる。
「あのー、」
「あー、女? またかよアイツ。俺に迷惑かけんじゃねぇよ。これで何人目だ」
途中で言葉を挟み、
「
呼ばれた
急いで部屋に戻ろうとする
「一緒に来て!」
一言だけ言うと、無理やり
「待って!」
「待てって言ってるだろ!」
彼が声を荒げた途端、
「何しに来たんだよ! 俺はお前を傷つけた。だから、会う資格もない! あれが俺の本性なんだよ!」
「嘘」
「あの噂も嘘なんでしょ。あなたは何もしてない。噂が勝手に一人歩きしただけ。だって、
「なんでそんなふうに思うんだよ!」
「じゃあ、何で私を襲った時、
「
沈黙が数秒続く。そして、
「私ね。自分の存在意義がわからなくなった時があるの。ピアノコンクールで優勝してからは更にね。私を期待の目でしか見ない。成功すれば讃え、失敗すれば非難する。そういう目でしか私の事を見なくなった大人が怖くて……なんで生きてんのかなって思ったりもした」
彼女の言葉を聞いて
しかし、
「でもね、あの日、
彼女は一度言葉を区切る。その後、呼吸を整えた後、
「だから一緒にバンドを続けてほしい。私のエゴだってわかってるし、私は
心の底から思っている言葉を吐き出し、手を差し伸べるが……