「お待たせ! 」
一度帰宅した
今日は打ち合わせなのだが、彼が勉強を教えて欲しいと言ってきたので、勉強会も兼ねている。
「予定通り俺の家でいい? 抵抗感あるかもしれないから、一応別の場所ってのも考えてあるけど……」
「いいよ! 私も練習したいからさ」
ギターバッグをぶら下げながら、陽気に応える。そんな彼女を見て、「いいのかよ」と
「なんか言った?」
「いや、なんでもない」
なんの勘ぐりもせず、美月は言われるがままに
「そういえばあれから一週間程経つけど、メンバーは集まってる?」
「全然ダメ。部活の勧誘も頑張ってるんだけどなー、私って敬遠されてるのかなー」
「僕はそんな風には思わないけど。僕の親父の方が敬遠されてるし……そういえば、あのクソ親父、僕になんか受け取っとけって命令してきたな。自分でやれよ」
親の悪口を聞いて彼女は苦笑する。
自分にとって、親の悪口は無縁だからだ。
楽しく雑談をしながら、
彼がお茶菓子を出してくれたので、お言葉に甘えていただきながら、本番の勉強会へと入っていく。
偏差値五十である
なので特待生の美月に勉強を教えてもらえないか頼んできたのだ。
彼女の説明がわかりやすかったのか、
それを見て、大丈夫だと思った
「ちょっと音出すけど、大丈夫?」
「いいよ」
部屋の中にゆったりとした癒し系の音が広がっていき、自然と心が洗われるような感覚を覚えた。
演奏しながら、
彼の方を見ると、
「やっぱり、うるさかった?」
やはり
だが、
いつも通り、ゴロゴロする
そちらに無理やり持っていき、さらには……
「
無茶振りと感じられる提案をするのだった。
「じゃあ。ちょっとだけ……」
「えーっとね、指は立てて、指先で抑えるようにすると鳴らしたい音が鳴るよ。こんな風にね」
後ろから彼の体に密着し、ギターの弾き方を教えていくが、
「あっ、ごめん。教えるのに夢中で……なんかごめんね」
部屋を出た
呼吸を荒げ、自分の
「くそ!」
トイレの壁を思い切り殴りつけ、怒りをぶつける。
あの女がいけないんだ。それが今の
純粋無垢で、無意識に男を誘惑する。彼女自身にそんなつもりはない。それがタチの悪さを際立たせる。
トイレで一通り落ち着きを取り戻した後、自分の理性を信じ、
「ごめん! ちょっとお手洗いに行ってたんだ」
陽気に取り繕い、場の空気を戻そうとしている
正直気まずい。
無理やり取り繕って一緒の空間にいるのも苦しいくらいだ。
「私、今日は帰るね」
場の空気と先ほどの件を思い出し、彼女はギターバッグを肩にかけ、立ち上がった。
だが、彼の家を出て行こうとした時、
「どうしたの?」
何も喋らない
「お前が悪いんだよ……」
その一言の後に、無理やり押し倒される。
「きゃっ!」
息を荒げ、
男がこんな行為をするのは、ひとつしいかない。これから何をされるのかを理解した
もうダメだ。と思い、現実から目を逸らすように目を瞑った。その時……インターホンが鳴った。
宅配便が声をかけ、その声に
「ごめん……」
「おかえ……り」
帰宅後、下を向き自室に直行する
ギターを投げるように置き、壁にもたれかかり、
その目には大粒の涙が流れる。あの時のように信じていた人の裏切りを目の当たりにして……