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第88話 スレイヤーギルドの改革③

周囲の沈黙を気にせずに、勇気のある質問をしてきた愚か者がいた。


「はいっ、先生!ロリッ娘は好きですか?」


パティがワクワクそわそわした顔で、立ち上がって手をあげている。


「・・・質問の意味がわからんぞ。そのロリッ娘と言うのがパティのことなら、その質問自体が間違えている。お前はすごく魅力的な女性だからな。」


ボッ!と、瞬間的に真っ赤になったパティがへなへな~と着席した。


どこからか、「フラグ・クラッシャーマジやべぇ!」と言う言葉が聞こえてきたので、殺気を放って黙らせた。


「はいっ!先生には彼女がいるのですか?」


今度はミシェルだ。


パティのせいで変な質問タイムに突入した。伝染するのって怖いな。


「想像に任せるよ。もし、彼女になりたいような物好きがいるのなら、勝手に俺を妄想に使ってくれて構わない。たぶん、そんな奴はいないだろうがな。」


キャ~と、ミシェルがよくわからない反応をした。ほうっておこう。


「先生ーっ!そこにある液体を、歓迎会の時に俺の料理に入れませんでしたかぁ?」


アッシュが無表情で聞いてきた。


もしかして、ずっと気になっていたのか?


「・・・知らないな。何の事だ?」


「あれ?今の間は何ですか?」


「講義にまったく関係のない質問がきたから、戸惑っただけだ。因みに、これを飲んだら口から火が出る。タラコ唇だけでは済まないぞ。非生産的な質問はこのへんで終わりにしよう。」


アッシュは疑わしい目で見ていたが、目を合わせないように無視した。


「次の話に移るぞ。風撃の活用方法だが、炎撃との組み合わせ以外にもある。何かわかる人はいるかな?」


「投石などの物理攻撃ですね?」


ケイガンが答えた。


「そうだ。昨日のように投石に風撃を掛け合わせることで、加速させたり、途中で軌道を変えることができる。弓矢なんかも同じだ。それ以外はどうだ?」


「それ以外も、あるのですか?」


ケイガンにはわからないようだ。


発想力が足らんぞ。


「もしかして、氷柱のような魔法ですか?」


シスが答えてくれた。


おお、偉いぞ。


うちのパーティーメンバーは優秀だな。


「正解だ。魔法で氷柱を飛ばすのは、ある意味で物理攻撃に近い。速度を高めたり、軌道を変化させることは、理論上可能だろう。」


これまでは炎撃の話ばかりだったので、水属性魔法を操るスレイヤーが身を乗り出して話を聞いていた。


この感じで行けば、実際にデモンストレーションすることが一番理解しやすいのではないかと思える。


修練場でやってみるか。




修練場に出て、デモンストレーションの準備をした。


昨日の多属性魔法の融合については見ていた者も多いようだが、遠目からだったので再度確認してもらう方がわかりやすいだろう。


「ケイガン。俺が軽く石を投げるから、風撃でコントロールをしてみてくれないか?」


「わかりました。昨日の要領でやってみます。」


俺は手頃な石を拾ってきて、合図をしたあとに上空に投げた。


ケイガンが集中しながら詠唱を呟き、石をコントロールし始める。


「おおっ!?」


石は落下せずに右へ、左へと方向を変えだした。


少しぎこちない動きではあるが、きびきびとした動きを繰り返している。


「まだたどたどしい動きだが、練習を重ねれば精度は上がるだろう。ケイガン、修練用の打ち込み台に当てられるか?」


「はい。やってみます。」


剣道の打ち込み用の案山子のような台に石が向かう。


上空から勢いに乗って速度も上がっている。


カァーン!


甲高い音を響かせて、石がヒットした。


「やりました。スピードが乗って飛んでいる石の方がコントロールしやすい感じですが、感覚が掴めれば問題はなさそうです。」


見ていたスレイヤーは、口々に「すげぇ。」「あんなことができるんだ。」と騒いでいる。


「魔法は直線的な攻撃が多いが発動後に干渉することで、対象に避けられたり、障壁で防がれても軌道を修正して当てることができる。追尾型の攻撃として使えるから、飛んでいる魔族にも有効だと思う。」


風属性の魔法士が、目をキラキラさせながら見ているのがわかった。


魔法の属性では、火や水に比べると風の攻撃力はやや劣る。


レベルの高い魔法士でなければ、風属性の魔法は相手に致命傷を与えづらいため、これまでは物理攻撃の牽制や障壁に使用することがメインだったようだ。


今回は多属性魔法の融合として、風属性魔法に脚光が浴びせられる結果となった。


支援型となる今回の手法は、地味ではあるが、風属性魔法士の存在の大きさが認知されることになる。


使い手の彼らが強い興味を抱くのは、自然な成り行きと言えるだろう。




多属性魔法の融合についての実演を見たいというので、まずシスとケイガンのコンビに前に出てもらった。


「シス、打ち込み台よりも、三メートルくらい右手に氷柱を放ってくれ。」


「はい。氷柱はどのくらいの数を出せばいいですか?」


「初めてのコンビネーションだから、3~5本くらいで良いだろう。」


「わかりました。」


シスが立っている場所から打ち込み台までは、およそ50メートル。氷柱だと到達するまでに3秒とかからない距離だ。


「いつでも大丈夫だ。」


ケイガンの準備はできているらしい。


「いきます!」  


シスが合図を出して、詠唱を始めた。


最初に出会ってからほんの数日だが、詠唱速度が早くなっている。特訓の成果だろう。


わずかな時間で詠唱が終わり、3本の氷柱がシスの手元から飛んだ。


一本あたり、30cmくらいの鋭利な氷柱だ。三本が等間隔で並んでいる。


ケイガンの風撃が時間差で発動し、氷柱をコントロールする。


速度が跳ね上がり、打ち込み台を通過した。


「あっ!?」


シスが声を上げるが、ケイガンは冷静に対応をする。


氷柱がアールを描いて、一度通過した打ち込み台の背中に直撃した。


「お見事、ケイガン。慣れてきたようだな。」


「ありがとうございます。始めての相手だと呼吸を合わせる必要がありますが、氷柱だと石の時とあまり感覚は変わりません。慣れれば、もっと精度も上がると思います。」


スレイヤーの中からは自分もやってみたいという声があがったが、先に炎撃でも実演をすることにした。


テスを呼んで、同じようにケイガンと組んでもらう。


「テス、飛来する魔族を想定して炎撃を放ってくれ。」


「わかりました。昨日と同じ角度でやってみます。」


「ああ、頼む。」


テスが三十度くらいの角度で、空に向けて手を掲げた。素早い詠唱の後に、炎の柱が立ち上る。


続けてケイガンが風撃を炎に巻き付け、一瞬後に青い炎へと変化させた。


目の前でゴーッと唸りながら燃える青い炎を見て、スレイヤーたちは感嘆の表情をしている。


これが各パーティーごとにできるようになれば、魔族に対しても大きな武器となるはずだ。


「石や氷柱よりも炎撃を操る方が難しいですが、徐々に風を送り込むような感覚でやれば青い炎にできますよ。これで魔族を1体葬りましたから、威力は保証します。」


ケイガンは、胸をはるような感じで説明をした。




スレイヤーたちのトレーナーとして、ケイガンを任命した。


魔法どころか、魔力が一切ない俺が教えるのは何かが違う。


それに、今回のメインは風属性魔法士だ。


魔族との闘いで実体験をしたケイガンなら、他のスレイヤーたちも話を聞きやすいだろう。


と言う訳で、


「アッシュ、剣術の修練は任せるぞ。」


「おおっ!模擬戦か!?」


このバトルジャンキーめが・・・


「あほか。さっきの液体を飲ませるぞ。」


「ふふん。飲ませたかったら、全力で来い!」


この野郎・・・


違うだろう、剣を構えるな。


「パティ、アッシュの奥さんを呼んできてもらえないか?」


「えっ?良いよ。」


さぁーっと血の気が引いていくアッシュ。


こいつの奥さんって、何者?


「いや、冗談だ。真に受けるな。さぁ~てと、基礎から底上げをするぞっ。剣の使い手はこっちに来い!」


すごいな。


奥さん、最強だな。


と思いつつ、パティの頭を撫でた。


「ふにゅ~。」


おお、かわいいコイツ。


顔真っ赤だけど。




次に、火と水属性の魔法士を呼んだ。


剣を得意とする者はアッシュが連れていったので、スレイドもそっちだ。


「ステファニーやセティはこっちか?」


「はい。パーティーの構成上、私の火属性魔法のレベルアップを計りたいと思っています。」


「私も同じです。」


風属性魔法士と剣士型が抜けたが、半分くらいの人数が残っていた。


「悪いが、俺には魔法のレベルを上げる術はない。魔力量の向上と制御については、リルから教わって欲しい。」


リルは純粋な魔法士として、唯一のランクAスレイヤーだ。ルーティンとしての魔力の増強法や制御術について詳しい。それに、学院の特別講師もしているので、スレイヤーの指導についても問題はないだろう。


「はい。リルさんなら、説明が解りやすいので助かります。」


「それで、ギルマス補佐。私たちはこれから何をするんですか?」


セティが何かを感じてか、恐る恐るといった感じで質問してきた。


「ん?ここにいる全員対俺の模擬戦だよ。」


そう言った途端、みんなは声にならない悲鳴を上げた。







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