結局、その日の会議はお開きになった。
科学と聞いて難色を示したスレイヤーが、全体の八割に及んだからだ。
魔導学院を卒業した者でさえ同じ反応を示したのは、異なる属性の魔法を掛け合わせるという概念がなく、単属性かつ単独での活用が常識とされているからに他ならない。
どこの世界でも、慣習にとらわれると常識の範囲が狭まるのは同じだ。
逆に言うと、それだけ伸び白があるということにもなる。
これまで知らなかった知識を身につけ、新しい手法を活用することは悪いことではない。
まぁ、もっともらしい事を言っているが単に俺を嵌めるような真似をされたから、その腹いせで科学を持ち出しただけなんだが・・・これは内緒にしておこう。
因みに、フェリとリルは今週末から学院が長期休暇を迎えるため、しばらくはスレイヤーの職務に集中できるらしい・・・ついでにテレジアも。
こちらの世界の学校では、九月から進級となるため、六月の半ばから八月までが長期の休みとなるのだ。あまり気にしていなかったが、今は六月らしい。
誰だ?
ご都合主義とか言っている奴は。
フルボッコにするぞ!
次の日の午前中に、昨夜のメンバーがギルドの会議室に集まった。
リルとフェリ、それにテレジアについては、学院に行っているので欠席となったが、あとから俺が話すので問題はない。
「さてと。まず始めに、科学についての簡単なレクチャーを始める。魔法に応用するための基礎だから、ちゃんと聞いてくれ。もし、寝るような奴がいたら、横のテーブルにある液体を口に注ぎ込むから注意してくれ。」
「タイガ、質問だ。その赤黒い液体はなんだ?」
アッシュが訝しそうに聞いてきた。
「知りたかったら、試しに寝てみると良い。」
俺はにっこりと微笑んだ。
この脅し──警告のおかげで、タイガの講義で寝たスレイヤーは誰一人としていなかった。
「・・・と言うわけで、空気には酸素が含まれている。風撃を炎撃に掛け合わせると、その中に含まれている酸素が燃焼を促し、さらに風の勢いで炎撃の威力が高くなると言う訳だ。」
俺は学校の授業のように、会議室の前にある黒板に図を描いて説明した。
エージェントのブリーフィングも図を活用して行うことで、短時間の理解を促すことができる。脳筋どもには口で何を言っても時間がかかるだけだ。百聞は一見にしかずという諺は本当なのである。
「先生!それが昨日のテスとケイガンが使った魔法なんですね?」
パティが手を上げて発言した。
ご丁寧に、赤いフレームのメガネをかけている。
「そうだ。」
うん、似合うぞパティ。
かわいいし、良いと思う。
でも、俺は先生じゃないぞ。
「理屈はわかりました。それで、なぜ炎撃は青い炎になったのですか?・・・先生。」
うん。
良い質問だ、セティ。
でも、先生じゃないからな。
「遊離した炭素が輝いて見えるのが赤い炎、その炭素と釣り合いのとれた酸素が反応した状態が青い炎だ。」
「え・・・と、炭素とは何ですか?」
「炭素とは炎を作るための燃料と思えば良い。魔法で言えば、魔力がそれにあたるのかな。」
「では、青い炎とは、どのくらいの威力があるのですか?」
「風の強さや、炭素と酸素の量のバランスにもよるが、赤い炎は1000度以下、青い炎は1700~2000度くらいの温度になる。単純に言えば、1.7~2倍。それに風による勢いにより、プラスアルファの攻撃力だと考えたら良いと思う。」
話を聞いていたスレイヤーたちは、全員が呆気に取られていた。
理解が追いついていない者、単純に攻撃力の加算具合を聞いて驚く者など様々だろうが、今の単属性による魔法よりも、格段に強い魔法が使えることは何となくだがわかったようだ。