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第86話 スレイヤーギルドの改革①

「今のままでは、上位魔族に対抗するのは難しい。」


ギルドに戻ってから、会議が始まった。


疲弊した馬を回復させてからの出発となったので、すでに夜となっている。


参加したスレイヤーはランクAばかりで、それぞれがパーティーのリーダー格だ。そこにリルとフェリ、テレジアを含むうちのパーティーと、スレイドのパーティー全員が呼ばれていた。


「確かに。今日現れたような上位魔族に遭遇した場合、我々ランクAが複数名でパーティーを組んでいたとしても対処は難しいですね。せめて、1パーティーごとに魔族一体と対等以上に戦えるレベルにならなければ、話にもなりません。」


ステファニーが現実的な事実を述べた。


「そうだ。だが、それよりも先に、魔族の存在を事前に察知できないことが最初の課題だ。ギルド内ではタイガしかそれができない。」


「ギルマス補佐はどうやって魔族の気配察知をしているのですか?」


魔族は魔力を隠蔽する。


通常の気配察知では、存在を事前に知ることはできない。ステファニーの疑問はもっともだった。


「ん・・・まぁ、特殊なスキルかな。」


「まさか、それもカンサイジン特有の!?」


いや、それは違うぞステファニー。


関西人の特殊スキルはノリツッコミだけだ。あとは関西弁?


「あのスキルはタイガ独自のものよ。他の人が身につけることはできないわ。」


ナイスフォローだ、リル。


「まぁ、魔族の気配察知については、鍛えてどうにかなるものではないだろう。それについては、聖属性魔法の使い手を何人か招聘するつもりだ。」


「招聘ですか?」


「ああ。チェンバレン大公閣下にお願いするつもりだ。騎士団直属か、教会に属している者を派遣してもらう。」


「そんなことが可能なんですか?」


みんなの視線が、自然とテレジアに向かった。


「え、あ・・・私がお父様にお願いするということでしょうか?」


テレジアが急に注目されて焦っている。なんか、かわいい。


「いくら何でも無理よ。大公閣下は公私混同はなさらないわ。」


さすがにリルは冷静だ。


「そうだな。ここはタイガにお願いしようと思う。」


は?


俺?


なんで?


「それでしたら、お父様もお話を聞いてくださいますわ。」


おい、テレジア。


何が「それでしたら」か理解できませんが。


「だと思ったよ。と言うわけで、タイガよろしくな。」


やられた。


この腹黒アッシュめ。


俺を人身御供にするつもりだ。


「でも、大公閣下は公私混同はしないんじゃないのか?」


いちおう抵抗してみた。


「公私混同じゃないだろう。魔族の驚異は国にとっても重要な課題だ。大公閣下の信望が熱いお前なら適任だ。」


「・・・・・・・・・。」


リルに助けを求めてみたが、苦笑いされた。


やだよ。


チェンバレン親子は何かを企んでいて怖いんだよ。


「それじゃあ、その件は大丈夫だな。次の議題にいこう。」


おい、何が大丈夫なんだ。


意味がわかんないんですけどぉ。


「次に、各スレイヤーのレベルアップをどうするかについてだ。タイガが魔族を単独で討伐することは周知の事実だが、今日は別の者が討伐に成功しているよな。俺は見ることができなかったが、テスに状況を説明してもらいたい。」


「あ、はい。タイガさんにアドバイスされた通りに魔法を放っただけです。どちらかというと、ケイガンさんの方が状況を詳しく理解されているかと・・・」


ケイガンはテスに丸ぶりされて目を丸くした。


「いや、実は自分も何がどうなったのか、理解できていないのですが・・・」


と言って、俺に目を向けた。


やめようよ。


みんなでキラーパスを送りあうのは。


「ああ、やっぱり、あれもタイガか。説明してもらっても良いか?」


何だろう。


すごく悪いことをして、尋問されているような気分なんだが・・・


「簡単なことだ。火に酸素を送れば、高い燃焼効果が得られる。」


「・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・。」


なんだ?


みんなフリーズしているぞ。


「・・・それだけか?」


「それだけだ。」


「酸素って、なんだ?」


そこからかぃぃ。


ああ、そうか。


この世界の科学は、一部でしか研究がされていないんだった。


「ちょっとややこしい話になるから、明日にしないか?時間がかかるぞ。」


「ギルマス補佐。今日のようなことが、いつ起こるかわかりません。私たちなら大丈夫ですから、お話していただけませんか?」


ステファニーは真面目ちゃんだった。


「別に構わないが、疲れている中で科学的な話をしても構わないのか?」


「科学・・・」


「無理無理。」


ほら、参加者から拒否の意思表示があったぞ。って、言ってるのはアッシュじゃないか。


「科学って、難しい内容ですか?」


ステファニーも青白い顔をしている。


短い付き合いしかないが、俺はスレイヤーたちをこう見ていた。


そのほとんどが『脳筋』だと。





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