「今のままでは、上位魔族に対抗するのは難しい。」
ギルドに戻ってから、会議が始まった。
疲弊した馬を回復させてからの出発となったので、すでに夜となっている。
参加したスレイヤーはランクAばかりで、それぞれがパーティーのリーダー格だ。そこにリルとフェリ、テレジアを含むうちのパーティーと、スレイドのパーティー全員が呼ばれていた。
「確かに。今日現れたような上位魔族に遭遇した場合、我々ランクAが複数名でパーティーを組んでいたとしても対処は難しいですね。せめて、1パーティーごとに魔族一体と対等以上に戦えるレベルにならなければ、話にもなりません。」
ステファニーが現実的な事実を述べた。
「そうだ。だが、それよりも先に、魔族の存在を事前に察知できないことが最初の課題だ。ギルド内ではタイガしかそれができない。」
「ギルマス補佐はどうやって魔族の気配察知をしているのですか?」
魔族は魔力を隠蔽する。
通常の気配察知では、存在を事前に知ることはできない。ステファニーの疑問はもっともだった。
「ん・・・まぁ、特殊なスキルかな。」
「まさか、それもカンサイジン特有の!?」
いや、それは違うぞステファニー。
関西人の特殊スキルはノリツッコミだけだ。あとは関西弁?
「あのスキルはタイガ独自のものよ。他の人が身につけることはできないわ。」
ナイスフォローだ、リル。
「まぁ、魔族の気配察知については、鍛えてどうにかなるものではないだろう。それについては、聖属性魔法の使い手を何人か招聘するつもりだ。」
「招聘ですか?」
「ああ。チェンバレン大公閣下にお願いするつもりだ。騎士団直属か、教会に属している者を派遣してもらう。」
「そんなことが可能なんですか?」
みんなの視線が、自然とテレジアに向かった。
「え、あ・・・私がお父様にお願いするということでしょうか?」
テレジアが急に注目されて焦っている。なんか、かわいい。
「いくら何でも無理よ。大公閣下は公私混同はなさらないわ。」
さすがにリルは冷静だ。
「そうだな。ここはタイガにお願いしようと思う。」
は?
俺?
なんで?
「それでしたら、お父様もお話を聞いてくださいますわ。」
おい、テレジア。
何が「それでしたら」か理解できませんが。
「だと思ったよ。と言うわけで、タイガよろしくな。」
やられた。
この腹黒アッシュめ。
俺を人身御供にするつもりだ。
「でも、大公閣下は公私混同はしないんじゃないのか?」
いちおう抵抗してみた。
「公私混同じゃないだろう。魔族の驚異は国にとっても重要な課題だ。大公閣下の信望が熱いお前なら適任だ。」
「・・・・・・・・・。」
リルに助けを求めてみたが、苦笑いされた。
やだよ。
チェンバレン親子は何かを企んでいて怖いんだよ。
「それじゃあ、その件は大丈夫だな。次の議題にいこう。」
おい、何が大丈夫なんだ。
意味がわかんないんですけどぉ。
「次に、各スレイヤーのレベルアップをどうするかについてだ。タイガが魔族を単独で討伐することは周知の事実だが、今日は別の者が討伐に成功しているよな。俺は見ることができなかったが、テスに状況を説明してもらいたい。」
「あ、はい。タイガさんにアドバイスされた通りに魔法を放っただけです。どちらかというと、ケイガンさんの方が状況を詳しく理解されているかと・・・」
ケイガンはテスに丸ぶりされて目を丸くした。
「いや、実は自分も何がどうなったのか、理解できていないのですが・・・」
と言って、俺に目を向けた。
やめようよ。
みんなでキラーパスを送りあうのは。
「ああ、やっぱり、あれもタイガか。説明してもらっても良いか?」
何だろう。
すごく悪いことをして、尋問されているような気分なんだが・・・
「簡単なことだ。火に酸素を送れば、高い燃焼効果が得られる。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
なんだ?
みんなフリーズしているぞ。
「・・・それだけか?」
「それだけだ。」
「酸素って、なんだ?」
そこからかぃぃ。
ああ、そうか。
この世界の科学は、一部でしか研究がされていないんだった。
「ちょっとややこしい話になるから、明日にしないか?時間がかかるぞ。」
「ギルマス補佐。今日のようなことが、いつ起こるかわかりません。私たちなら大丈夫ですから、お話していただけませんか?」
ステファニーは真面目ちゃんだった。
「別に構わないが、疲れている中で科学的な話をしても構わないのか?」
「科学・・・」
「無理無理。」
ほら、参加者から拒否の意思表示があったぞ。って、言ってるのはアッシュじゃないか。
「科学って、難しい内容ですか?」
ステファニーも青白い顔をしている。
短い付き合いしかないが、俺はスレイヤーたちをこう見ていた。
そのほとんどが『脳筋』だと。