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第61話 死闘④

「何・・・だと・・・」


「残念だったな。俺の魔法は絶対障壁。どんな魔法も効かない。」


そう言って、俺は魔族に近づいていく。もちろんハッタリだ。魔法なんて使えるはずもない。


「う、嘘だっ!そんな魔法が存在するはずがない!!」


魔族は再び雷撃を放ってきた。


結果は同じだ。


「お前の魔法は効かない。それより、少し質問をさせてもらおうか?」


魔族は怯えの表情を浮かべていた。


奴に絶対障壁などというハッタリをかましたのは、恐怖の感情を植えつけて尋問をするためだ。


異世界から来て、魔法が通じない体なのだと説明しても、信じがたいだけだろう。だから謀った。


「な、何を聞きたいんだ?」


この魔族にとっては魔法が通じない相手は脅威だった。ウェルクという魔族とは違い、高度な剣術を使える訳ではない。


「なぜウェルクやお前たちはここに来た?」


「・・・ディールとソルトが死んだ。だから殺った奴を探しに来た。」


ディールというのは、一番最初に倒した魔族だろう。となると、ソルトは四日前の奴か。


「魔族は群れないと思っていたが、違うのか?」


「群れはしない。だが、ディールとソルトの死に方が異常だったからな。同族にとって脅威となるのなら、それを排除するのは当然だ。」


「異常とは?」


「二人とも物理的な攻撃が致命傷になっていた。しかも状況から見て、単独か少人数が相手だ。人間にそんなことができる奴はいないはずだ。」


ディールはともかく、ソルトやウェルクは焼却を行ったはずだ。現場で見ただけで、致命傷を与えたのがどのような攻撃だったかの判断がつくとは思えない。


「死因の特定はどうやった?」


「死体を解剖して調べた。」


「ウェルクもすでに回収されたのか?」


「まだだ。さっき、俺たちが見つけたところだからな。」


なるほど。


さて、どうするべきかな。


「ウェルクをどうやって倒し・・・」


「ああ、悪い。もう消えてくれ。」


知りたいことは聞けたので、そのまま魔族を屠った。




魔族を尋問してわかった。


俺が魔族を倒す度に、人間に対する奴等の警戒が高まるという矛盾。


この世界では、人間の最大の攻撃術は魔法だ。


身体能力で人間を遥かに上回る魔族を物理的な攻撃で屠ることは非現実的であり、魔族にとっては危険視する事態といえるのだ。


とは言ってもなぁ。


俺は今の生活が気に入っている。


それを妨害する奴がいるのならば、排除するのみだ。


それに魔法が使えない俺には、物理攻撃しか手段がない。


ダメだ。


思考が堂々巡りする。


こういった問題は、アッシュに相談するのが一番良いような気がした。彼の判断で続けても大丈夫だと言われれば、スレイヤーを続ければ良い。ダメなら、その時に考えよう。




俺は地面に穴を掘った。


魔族二体が入る大きめの穴だ。深さは一メートルくらいで良かった。


スコップなどは持ち合わせていないので、倒木で代替品を作ることで作業の効率化を図る。


傷口の何ヵ所かが開き、血が流れ出た。衣服は血と土と汗で汚れてドロドロだ。


二時間くらいかけて完成した穴に魔族を放り込み、枯れ木を被せて火をつけた。


ウェルクの所に戻り、こちらも燃えた死体の横に穴を掘って発見しにくいように埋葬した。


他の魔族が死体を回収して、死因を調査できないように隠匿する。三体の魔族が行方不明となることで不審感を募らせてしまうだろうが、原因の特定を遅らせることくらいはできるはずだ。


再び、まだ燃え盛っている現場に戻り、木にもたれかかって瞼を閉じた。他に魔族が現れないことを願う。


疲労で軽い頭痛がする。


火が消沈したら土で埋める作業が残っているが、まだ時間はかかりそうだ。


ゆっくりと眠りについた。




うそ・・・


タイガを発見したフェリには、その光景が信じられなかった。


衣服は何ヵ所も切り裂かれ、血や土にまみれている。力なく木にもたれかかり、足を投げ出すその姿に、何も考えられなくなった。


「タイガっ!」


他のみんなも同じ反応を示す中で、リルだけがタイガの名前を呼んで駆け寄った。


胸に耳をあてて、心臓の鼓動を確認する。


「大丈夫よっ!生きてる!!」


その言葉を聞いて、フェリの視界がぼやけた。


子供の頃以来だろうか、声を出して泣きじゃくってしまっていた。




良い香りがした。


目を開けると、ピンクのふわふわな髪がそばにあった。夢か現実かわからないまま、無意識にその髪を撫でていた。


「タ、タイガ!?」


ピクッと驚いたリルが、こちらを向いて名前を呼んでくれた。


「あれ?リル・・・一瞬、女神様かと思ったぞ。」


とたんに頬を赤く染めて目を見開いたリルは、少し涙目な気がした。


「・・・ばか。」


あ~、かわいすぎて抱きしめてしまいそう。


「大丈夫よっ!生きてる!!」


リルが後ろを向いて声を出した。


ん?


「タイガ!気がついたの!?」


ん、んん・・・あれ?


パティもいる。


いや、シスやテス、フェリもいた。


「みんな、どうしたんだ?」


自分が先ほどまで何をしていたのかわからなくなってしまった。なぜ、みんながここにいるのだろうか?


「タイガが行方不明だったから、探しに来たのよ。」


いつもの感じに戻ったリルが説明してくれた。


俺はゆっくりと立ち上がり、すでに火が消えた穴に向かった。


「タイガ・・・何を?」


土を穴に戻す。


他のみんなは俺の行動を不可解に見ていたが、やがて近寄ってきて手伝い始めた。


「一体、何があったの?」


涙で顔をくしゃくしゃにしていたフェリが、俺を補助するように寄り添って聞いてきた。


「詳しい話は、ギルドに戻ってからするよ。心配かけてごめんな。」


しばらく、じっとタイガの顔を見ていたフェリは、やがて「・・・うん。」とだけ答えた。




帰りの馬車の中で、俺はずっと眠っていた。


出血の影響で、体が休息を欲していたのだ。みんなが迎えに来てくれたことで気持ちが緩み、ようやく深い眠りにつけた。


そんな状態だったので、ギルドに着くまでの間にみんなが交代で膝枕をしてくれたり、顔を拭いてくれていたことは知るよしもない。




「タイガの状態はどうなんだ?」


執務室でアッシュは報告を受けていた。


「治療院で見てもらったけど、体中に裂傷がかなりあるみたい。ほとんど癒合しているし、命に別状はないみたいだけど、出血が多いから当分は安静が必要よ。」


「タイガに回復魔法が効けば・・・」


リルの説明に、パティが悔しそうにつぶやく。


「そうか。今は回復を待つしかないな。」


「さっき、職員の人に聞いてきた。タイガの認定証には、三体の魔族を討伐した記録があったって。」


フェリがそう言うと、室内には驚きの声が上がる。


「相変わらず、めちゃくちゃだな。」


アッシュは苦笑いを浮かべていた。












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