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第60話 死闘③

目が覚めた。


どうやら、かなりの時間眠っていたらしい。


周囲は朝の気配が漂い、陽はすでに登りつつある。傍らには、馬が寄り添うように立っていた。


体を起こして状態をチェックする。


痛みはあるが、かなり鈍いものになっていた。ストレッチを行うと裂傷部分が服にこすれて痛いが、大したものではない。あれだけの剣撃を受けたので、両腕にはかなりの違和感があったが、筋肉痛のようなものだろう。


改めて蒼龍とバスタードソードをチェックする。


共に刃こぼれもなく、問題はなさそうだ。


消毒用のアルコールで刀身を拭いた後に、手入れ用の油を薄く引いた。こうしておくことで錆を防止し、斬れ味が鈍らなくなる。


蒼龍を鞘に戻した後、バスタードソードを軽く振ってみた。


蒼龍よりも重量があり長い。


かなりの硬度を持つ金属でできていた。試しに軽い一撃を近くの岩に打ち込んでみる。


岩は斬れるというよりも、破砕するといった感じで二つに割れた。グリップが少し太いので、一度ニーナに見せて調整してみようかと思い、木に立てかける。


朝食代わりのプラムケーキを食べて、このあとをどうするか考えた。体は大丈夫そうだが、馬に乗って街に戻るのが一番良いだろう。このまま周辺の調査を行っても、何かがみつかるような気がしない。


ただ魔族と戦うために、ここに来たようなものになってしまった。


軽くため息をつくと、ソート・ジャッジメントが反応した。面倒だが、すぐには帰路につけないようだ。


馬を逃がして魔族が近づいてくるのを待った。昨日と同じような状況に、デジャヴ感がハンパない。


異なるのは相手が複数いること。


二体の邪気を捉えた。


昨日のような剣術に長けた奴は勘弁して欲しい。体はまだ万全ではないのだ。


やがて姿を現したのは、俺の希望を汲んでくれたのか、武器を持たない魔法特化型と見える魔族一体と、半獣半人のような一体だった。


こんな容貌の奴もいるのか。


半獣半人の方は、何となくケンタウルスのような風体だ。下半身は馬の代わりに狼のような感じだが。


「そのバスタードソードを持っているってことは、ウェルクを燃やしたのはお前か?」


人型の方が問いかけてきた。


「ウェルク?」


「お前が殺った奴の名前だよ。あの剣術バカを倒すってことは、相当な魔法士なんだろうな?」


「武器を持ってはいるが、ウェルクに剣で勝てる者などいないだろう。当たり前のことを聞くでない。」


魔族同士で勝手に会話をして、結論づけやがった。魔法士に勘違いしてくれるなら、こっちには都合がいい。ほっておこう。


「傷だらけだな。手負いが相手なら、大しておもしろい勝負にもならんだろ。お前にくれてやるよ。」


人型はそんなことを言っている。


一体ずつと戦えるなら、尚更都合が良い。


魔族は強者だ。


上から目線で相手を卑下するのは共通のようだが、俺から言わせるとバカばっかしだがな。


「よかろう。我が瞬殺して食らってやろう。」


半獣半人がそんなことを言っている。


人を食うのか、コイツら。


勘弁して欲しいぞ。


アルコールが入った瓶の口に布をねじ込んだ。


瓶を傾けて、布がすぐにアルコールを吸うようにしながら、バスタードソードを手に持って前に進む。


「ぬっ、貴様何をやっている。」


半獣半人が不思議な顔で聞いてきた。


「気にするな。魔法の仕込みをやっているだけだ。」


「魔法の仕込みだと?そんなことが必要な魔法など聞いたことがない。ふざけた奴だ。」


この世界には魔法がある。


そのため、物理的な攻撃を行う剣など以外の武器は存在しないらしい。図書館で得た知識は、こんな時にも役立つものだ。


「おしゃべりしてないでさっさと来いよ。弱い奴ほどよく吠えるって言うだろ?」


「きっ、貴様っ!我を愚弄するか!!」


プライドの高い奴ほど、扱いが楽で良い。すぐ怒るから、冷静さを失わすことが簡単だ。半獣半人はすぐに地面を蹴り、一直線に攻撃を仕掛けてきた。


速い。


さすが下半身が狼調のことはある。


距離が縮まり、半獣半人が右手を振り上げた。爪が異様に鋭い。


俺は瓶の口にねじ込んだ布にポケットから出したライターで火をつけ、半獣半人の顔に投げつけた。


「こんなものっ!」


振り上げた右手で飛んできた瓶を破壊するが、中身が飛び散り火が燃え移る。半獣半人は、そのまま着火したアルコールをまともに顔に浴びた。


「ぐわぁぁ、火!火がっ!!」


俺が投げたのは即席の火炎瓶だ。


この世界には、こういった武器の概念がないから助かる。予備知識のない相手には、かなり有効なのだ。


「ご苦労さんっ!」


バスタードソードで、半獣半人の心臓あたりを刺突した。体を突き抜けた衝撃の後に、一瞬体が痙攣して膝から崩れる。


楽勝。


「あ、な、何だ、今のはーっ!」


もう一体の魔族が騒ぎ出した。


「え?何って、魔法だけど。」


心外って顔で答える俺。


「あれが魔法なわけあるかーっ!」


うるさい奴だな。


「卑怯者がっ!あんな小細工を使いやがって!!」


あれ?バレたか。


今の俺は体にダメージを負っている。あまりしんどい戦いをしたくはないので頭を使ってみたのだが。


「それじゃあ、魔法で勝負をしようか?俺の魔法はえげつないぞ。びびって漏らすなよ。」


またまた挑発しまくった。


「ハッタリはその辺にしとけよ!すぐに消し炭にしてやるっ!!」


魔族が何かをつぶやき、両手をこちらにかざした。魔法を発動するつもりだろう。


「魔法を撃つなら最大火力でしろよ。そうでなければ、俺の魔法は破れないぞ。」


「ほざけっ!」


雷撃!


風属性魔法の上位互換。


口だけではなく、この魔族はかなりの高等魔法を使うようだ。


直撃。


しかし、俺の周囲で魔法は消滅した。



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