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第56話 スレイヤーのお仕事⑤

修練場に向かう途中でパティも見つけた。


カフェでケーキを幸せそうに食べていたので、「後で来ないか?」と誘うと、「修練?行く行くっ!」と喜んで着いてきた。


「修練が好きなのか?」


「好きではないけど、昨日のことを振り返るとまだまだだからね。」


と前向きな発言をしたので、「えらいぞ。」と、頭をポンポンと優しく叩いておいた。


「へへっ。」


パティは照れ笑いをしている。


「シス、タイガさんって、たらしよね?」


「うん。私もそう思う。」


「ん?」


何か名前を呼ばれた気がして後ろの三人を見た。姉妹は目をそらし、アッシュは腹を抱えて笑っていた。


何なんだ?




修練場にはすでに何名かのスレイヤーたちがいて汗を流していたが、アッシュと俺を見るなり、「ヤバイのが来た!」「緊急避難だ!巻き込まれたら死ぬっ!」などとほざいて必死な顔で散っていった。


君たち失礼ではないか?




「さてと、修練だが俺とタイガの真剣勝負だよな?」


「アホか。ギルマスとギルマス補佐が真剣勝負をするギルドなんて聞いたことないわ。」


「えっ?違うのか?」


こいつは・・・


「ここにいるシスに剣を教えてやって欲しい。俺は刀剣士だからベースが少し違う。将来有望なスレイヤーを育てるのも、ギルマス冥利につきるだろ?」


「なんだ、そうなのか?まぁ、人に教えるのは嫌いじゃないから良いぞ。」


「助かる。」


「その代わり、明日の件はお前に任せるからな。」


ニヤッと笑いやがった。


この野郎、今度はデスソースを投入してやる。




「私たちはどうするのですか?」


「テスは後衛、パティは前衛で俺を攻撃してくれ。全力でやってくれていい。」


「えっ、マジで?」


テスの質問に答えていると、パティが全力での修練と聞いてなぜか瞳を輝かせだした。


もしかして、こいつもバトルジャンキーなのか?まあいいや。


「マジだ。動く標的との攻防は良い実戦訓練になるし、コンビネーションも養える。シスと三人でならパティの支援や回復魔法も活かせるから、レベルアップすれば最強の布陣だ。」


「そっか!三人でお互いを補強しあえるから、攻撃のパターンが一気に増えるんだ。」


「私もパティさんと並べるようにがんばります!」


やる気を出してくれて何よりだ。


これでレベルアップしてくれれば、俺は気兼ねなく遊撃ができるようになる。




午前中の修練を終えた。


三人とも疲れ果てていたので、ターニャの家のレストランで昼食を奢ってあげることにした。


アッシュとは早々に、「事務仕事が滞ってます!」とギルド職員に拉致られたので「後で執務室に行く」と言って別れている。


「「「美味しい!」」」


パスタとグラタンを食べて三人が感動していた。炭水化物with炭水化物だが、修練の後だから良いだろう。


貸金業者との件が片付いてから、まだ数日しか経過していないが、少しずつ客も増えているようで何よりだ。


「タイガさんは博識だから、何か良いアイデアがないか聞いてみたいんですが・・・今良いですか?」


「うん。何かな?」


弟くんが申し訳なさそうに話をふってきた。


「朝のモーニングタイムにサンドイッチの注文が多くて、パンの耳がいっぱい余るんですよ。廃棄するのはもったいなくて。何か良い料理を知らないですか?」


パンの耳?だったらあれだろ。


「揚げパン風にすると、お菓子やスイーツになるよ。あと牛乳、砂糖、卵に浸して焼くのもおいしいし、グラタンにマカロニの代わりに入れるのもオススメだな。」


「う~ん、グラタン以外はなんか想像ができないんですけど。」


「じゃあ、作ってみようか?」


「えっ?タイガ、料理ができるの?」


「パティよ、独身平民男性をなめるでない。」




オリーブオイルをフライパンに入れて、熱している間にボウルに卵、牛乳を入れて小さな穴をいっぱい開けたパンの耳を浸す。


適温になった油に何もしていないパンの耳を入れてカラッとあげ、最後に粉砂糖をたっぷりとかけた。


「ほい、一個目完成。」


「早っ!」


「すごく簡単なんですね。」


次に、別のフライパンにバターを溶かして、浸していたパンの耳を入れる。もうわかるよね?フレンチトースト風だ。


「すごい。主夫、いやシェフだ。」


うん。どっちも違うぞパティ。


最後にまた粉砂糖をかけて完成だ。


「二品完成。良かったら食べてみて。」


どうやらこちらの世界は、料理は似ているがパンはパンのようだ。菓子パンとかパンを使ったスイーツは存在しない。


「「「「いただきます!」」」」


試食されるのって緊張する。


「おいしい!」


「すごいです。あんな簡単にこんなスイーツができるなんて。」


「これ毎日食べたい!」


女性陣に好評のようだ。


「タイガさん、これって革命ですよ!安くて簡単でおいしい!!これだけで専門店が開けます!!!」


いやいや、大げさだよ弟くん。


「タイガのお嫁さんになったら、毎日これが食べれる?」


なんでやねん。


安い結婚観念やな。


「動機が不純だから、それはない。」


「マジかぁ~!」


パティはとりあえず無視だ無視。


「これ、うちのメニューに入れても良いですか?」


「うん。気兼ねなく使って良いよ。」


「あざーっす!」


弟くんはひれ伏した。




午後からはギルドに戻ってアッシュの執務室を訪れた。


「ずいぶんと女の子に好かれているな。」


ニヤニヤ笑いながら、アッシュが冷やかしてきた。


「誰かさんが余計なことを言うから、野郎共は怖がって近づいて来ないんだよ。」


「誰かさんって、もしかしてラルフか?」


お前だよ、お前。


「まぁ、あれだけの強さを見せた上に実績も上げているからな。近づきがたい気持ちもわかる。」


「そうなのか?」


「俺も同じような感じだった。」


「模擬戦ばっかりやろうぜって、言い過ぎたんじゃないのか?」


「なんで知っているんだ?」


当たりかよ。


それは自業自得だ。


「それで、明日の準備って具体的に何をするんだ?」


「まぁ、何を話すかの摺合せだな。押収した証拠品の取り扱いも含めて。」


その後、二人で打ち合わせを行い、夕方には帰路についた。




翌日。


チェンバレン大公とターナー卿は、真夜中に街に到着したらしい。


面談は午後からチェンバレン大公の別宅で執り行われた。


午前中に使いの者から連絡があり、アッシュと二人で所定の時間に出向いたのだ。


「久しいな、アッシュ・フォン・ギルバート。」


「大公閣下、ご無沙汰しております。」


貴族式の挨拶を行い、席に着いた。


チェンバレン大公の別邸は落ち着いた調度品で揃えられており、過度な装飾はされていない。質実剛健といった感じで風格が漂う。


「君がタイガ・シオタか?」


大公が話しかけてきた。


チェンバレン大公の隣に座った頑健な男性が、じっと俺を凝視している。ターナー卿だ。


「はい。」


「想像と違って線が細いな。魔族を素手で倒すと聞いたが、あれはただの噂か?」


「想像にお任せします。」


俺は睨みつけるように目線を据えるターナー卿から、目を逸らさなかった。


「ふむ。デビットは気持ちの整理がついていないか?」


「失礼しました。冷静に・・・とは思っておりましたが、やはり息子の命を奪った者を前にすると、事情がどうであれ疑念が頭の中に渦巻いてしまいます。」


ターナー卿は瞼を閉じて深呼吸した。そして、決意したように口を開く。


「聞かせてもらえないだろうか?マイクの最後を。」













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