目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第54話 スレイヤーのお仕事③

二時間ほど歩いてから、昼食を取ることにした。


ギルドで購入しておいたプラムケーキを切り分けて、みんなで食べる。


プラムケーキは、魚を食べ飽きた船乗りたちが好んで食べるものだ。


酒漬けにしたブドウが入ったもので、焼き上がりに生地の表面にブランデーを塗っている。保存性と栄養価が高く、甘いものをあまり得意としない男性であっても、ブランデーの香りが食欲を刺激するため、疲労回復のための携行食として重宝されている。


因みに、プラムという単語はもともとプルーン、レーズン、ブドウを意味しており、プラムケーキはフルーツケーキの意味合いが強かった。


ターニャの弟が歓迎会で作ったものが大好評となり、ギルドがスレイヤーの携行食として採用することにしたようだ。おかげで毎日の仕込みが大変なようだが、経営的には潤いそうだと母親も喜んでいた。


「おいしい!」


パティとシスから感嘆の声があがった。テスも言葉は発しないが、美味しそうに食べている。


「!?」


邪気を感じた。


しかも多勢だ。


俺のソート・ジャッジメントの反応では、先日と同格の魔族が一人、それにレベルが格段に落ちるが、邪気を放つ生物が約十体いると示していた。


距離は魔族が西方に約300メートル。他は北西で散開している。


近い。


「パティ、索敵をかけてくれ。魔族だ。」


混乱を避けるために、落ち着いた声で言う。


「何これ!?めちゃくちゃいる!!」


「落ち着け。強力なのは西方の一体だけだ。奴は俺が対処する。パティは2人を頼む。無理に戦おうとはするな。」


そう言うなり、俺は西方の敵に向かった。


「あっ!タイガ!!」


パティが名前を呼ぶが、躊躇はしていられない。短時間で魔族を倒し、三人の元に戻らなければならない。俺は全力で木立の中を走り抜けた。




「行っちゃった・・・」


パティはタイガの圧倒的な強さを知っている。魔族をさっさと倒して戻って来てくれるとも思う。とは言え、十体近い魔物を1人で相手にしたことはさすがにない。あとの2人はランクDの新人スレイヤーで、彼女たちを庇いながら戦うのはさすがに厳しかった。


不安だよ、タイガ・・・


2人の前なので声には出さなかったが、内心ではそう感じていた。




一直線に山間を突き抜けて、魔族の元に向かう。全力での移動なので、300メートルの距離はほんのわずかな時間で走破できる。


見えた。


邪気の中心部となる位置に、青銅色の個体がいる。こちらに視点を合わせ、嘲笑しているように見える。


十メートルほど手前で立ち止まった。


「ほう、動きが我ら魔族並みだな。人間にしては素晴らしい。」


余裕の態度だ。


口もとの笑いがムカつく。


「なぜここにいる?」


「ふん。我がどこにいようと、貴様たち下等生物の知ったことではない。」


尊大な口調だが、絶え間なく俺の動きに注意を払っているのは気配で感じていた。


「数日前に、お前と同じような魔族が人間を後ろから襲おうとしていたから、殴り倒してやったぞ。」


わずかに表情が動いた。


「貴様か。ディールをどうした?」


「さあ、どうなったんだろうな。」


「ふん。余裕ぶっているが、仲間がどうなっても知らんぞ。オーク共は人間をなぶり殺して食らう・・・」


魔族が話している途中に、背中の蒼龍に手をかける。


抜刀。


風撃斬!


「ふん、この程度で思い上がるなよ。」


魔族が片手で魔法を撃ち出して、風撃斬を相殺した。


斬!


「な・・・に・・・」


風撃斬はただの囮だ。


魔族が気を取られたすきに、側面に移動して十字に斬り捨てた。


ここに来た理由がわかれば用はない。殺し合いで話が終わるまで待つなど、バカがすることだ。


すぐに反転して、パティたちの元に駆け戻る。


タイガが去った後、魔族は四片に分断されて地面に崩れ落ちた。




オークだった。


パティは魔法士のテスに、離れた位置から先制の魔法を撃たせる。同時に前方にいた二体へと斬りかかった。


一体が魔法の直撃を受けている間に、もう一体の攻撃を避けて胸にダガーを深く刺し、反動を利用して魔法でダメージを負った残る一体を斬り伏せた。


オークは動きが俊敏ではない。


身体能力強化魔法とテスの攻撃魔法により、奇襲が成功したのだ。


だが、気を緩ませずに反転して、二人と共に距離を取ることにした。


オークたちに近づいたことで、正確な数は索敵で把握できていた。


残り七体。


囲まれたら終わりだ。


動きは鈍くとも、オークには力があり巨体だ。


退路を塞がれる訳にはいかない。


パティは極力冷静に頭を働かせて、ヒット&アウェイでタイガが戻って来るまでの時間を稼ぐことにした。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?