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第52話 スレイヤーのお仕事①

翌日、朝からギルドに行き、討伐依頼が出ていないかを掲示板で確認した。


魔族や魔物の目撃情報が出ると、掲示板に捜査、もしくは討伐依頼が出る。


これの多くは、一般人から提供された情報が発信源となっている。


通常、スレイヤーは定期的な巡回を、パーティーを組んで行っている。そこで強力な魔物が発見された場合も、掲示板に依頼が出される。


巡回をしているパーティーで対応が可能な場合はもちろんその場で討伐を行うのだが、身に余ると判断されるとギルドで討伐ランクが検討され、レイドとして依頼が出される仕組みだ。


因みに、アッシュ達と出会ったのは、この定期巡回中のことだった。


魔族に関しては、それぞれの個体が強力なため、ランクA以上のスレイヤーに指名が入ることがほとんどだ。複数体が一緒に行動している場合などは、ケースバイケースでレイドととして参加者を募ることもあるらしい。


魔物が発見される頻度は週に一回程度、魔族に関しては月に2~3回程度くらいらしい。


今は掲示されているものは何もなかった。


平和で何よりといったところだ。




受付カウンターに行って、俺への指名任務がないかを確認する。


「お疲れ様です。ギルマス補佐への任務は、今の所ありません。ですが、昨日の事件により、基準の任務をこなされました。特別報酬も出ていますよ。」


スレイヤーは固定給制でもあるので、一定期間で所定の任務数をこなす必要がある。ランクに応じて規定があり、任務の難易度や数でポイント計算が行われて査定される。


俺はマイク・ターナーの件で、今回の規定任務をクリアしたようだ。


口座を確認すると、3000万ゴールドが報酬として振り込まれていた。


こんな緩い感じでお金だけが貯まっていくが、それでいいのだろうか。


ふとそんなことを考えていると、後ろから他のスレイヤーの話し声が聞こえてきた。


「昨日、ギルマス補佐がまた魔族を素手で殴り倒したらしいぞ。」


「マジか?本当に化物かよ。」


「普通はランクAが3人がかりでも命がけなのにな。」


「いくらなんでもチートすぎんだろ。」


深く考えるのはやめにした。




結局、ギルドでは何の仕事もなく暇をもて余してしまったので、ブランチを取るために自宅の1階にあるレストランに行くことにした。


依頼や任務がない場合は、鍛練や装備を整えたり、巡回に時間をあてるスレイヤーが多いのだが、俺には知人が少ないため、できる事が限られている。地理にも疎いので、ひとりで山に入ったらほぼ100%迷子になるだろうから、巡回にも行けないのだ。




ギルドを出る時に、あいつを見かけた。


そう、ラルフだ。


朝からすでに酔っていて、壁に向かって何やらブツブツと呟いている。


こいつ、ヤバくないか?


関わりあいにならないように無視してギルドを出ると、前から来た誰かとぶつかった。


「あっ!」


バランスを崩しかけた相手を抱き止めると、くりくりっとした大きな瞳をしたパティがいた。


「あ、タイガ。おはよ~。」


抱き止めたパティのプリケツを、どさくさにまぎれて触ってやろうかと思ったが、身長差がありすぎて断念する。


残念。


「おはよ。今日もかわいいな。」


眼を見開いて、真っ赤になっていくパティ。


「タ・・・タイガだけだよ、そんなこと言うの。」


「そうなのか?他の男は見る眼がないのか、恥ずかしがっているだけだろう?」


「う、タイガは恥ずかしくないの?」


「なんで?自分の気持ちを素直に口に出してるだけだぞ。」


耳まで真っ赤にしたパティは、下を向いてしまった。


「パティはこのあと予定があるのか?」


「えっ!?予定?」


「うん。」


「それって、デー・・・」


ん?


語尾が小さくて聞こえないぞ。


「一緒に巡回に行ってくれたら、助かるんだが?」


「へっ?巡回!?・・・あ、そうだね。うん、行く!」


元気なようでなによりだ。


「朝食は食べた?」


「うん、食べた。」


「そっか、俺はまだなんだ。巡回に行く前に、食べに行っても良いかな?」


「うん、良いよ。」


巡回に行く前にあまり時間を取るわけにもいかない。ギルドに戻り、カフェでサンドイッチを食べる。パティはショートケーキを頬張っていた。


「巡回先には、何で移動するんだ?」


以前はフェリの精霊魔法による馬車を利用したが、今日は学校に行っているから使えない。


「ギルド専用の馬がいるから、それを使う。」


そんなものがあるんだな。


「一番近い巡回先だと、どのくらいの時間がかかる?」


「一時間半くらいかな。」


乗用馬は最速で時速36kmくらいのスピードだ。地形や起伏も考慮すると、だいたい30km前後の距離ということか。



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