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第49話 学校に行こう④

昼食後に再び図書館に戻った。


マイク・ターナーのことは気になったが、午後からも授業があるようなので、放課後に少し調べることにした。


パティは隣で刀についての本を見つけたらしく、興味深けに読んでいる。


俺は生活に関して書かれた本を開き、実生活での情報収集をすることにした。


地域ごとの産業や食材などについて調べ、普段の生活で困らない程度の知識を身につける。


元の世界との違いは、動植物の種類や、剣と魔法の使用についてが大きな相違点というだけで、それ以外に関しては支障が出るほどのものは特になかった。


アメリカや日本に住んでいる者が、アフリカの片田舎に移住をした時ほどのカルチャーショックはないという感じだ。


気になった本を手当たり次第に読み、必要なものは記憶するようにした。


自分が置かれた立場を考えれば、ギルドに関する知識も欲しかったのだが、組織の沿革が書かれた資料くらいしかない。アッシュや他の職員に聞きながら覚えていくしかなさそうだ。


魔石で動いているらしい壁掛け時計を見ると、二時間が経過していた。すでに十五時過ぎだ。


生徒たちの授業はあと三十分と経たずに終了する。


『その前に学校を出るか。』


そう思い、パティを見るとまた寝ているようだ。


耳ばかりだと芸がない。


背筋をすっと上から下まで指でなぞってみる。


「うっ、うわぁぁぁぁぁっ!」


背中も敏感なようだ。


指を口にあてて、声を抑えるように伝えた。


これってセクハラになりますか?




図書館を出ると、一段下がった位置にあるグラウンドを上から見下ろすように、マイク・ターナーが立っているのが見えた。


悪意も微かな邪気も消えてはいない。


近くまで行ってグラウンドを見ると、フェリやテレジアが魔法の実践練習をしていた。


「あんた、魔族の血が体に混じっていたりしないか?」


マイク・ターナーにそう話しかけた。


「・・・なぜ、貴様がそれを知っている。」


ゆっくりとこちらに顔を向けて、かすれた声でターナーは答えた。


ああ、やってしまった。


どうやら、俺は地雷を踏んでしまったようだ。


ホラー系の映画や小説なんかでよくある設定だ。


別の生命体の血や細胞を、何らかの形で体の中に取り入れて化物になるやつ。


薬学を学んでいて、微かな邪気を発する男。


魔族と人間の混血児として生まれたと考えるよりも現実的だった。


ターナー家は侯爵の位を持ち、騎士団長を何度も輩出した、代々が武人の家系だ。現在の騎士団長も、当主が務めていると図書館の本に載っていた。


そんな家系に魔族が混じっているとなると、王城や教会にいる聖属性魔法士が気づくはずだ。


「なぜそうなった?」


ターナーの眼には、狂気が宿っていた。邪気が増していく。


「・・・・・・・・・。」


互いに無言でにらみ合う。


「タイガっ!」


膨らんだターナーの殺気に反応したパティが、武器を抜く。


パティに気をとられた一瞬で、ターナーが跳躍。


数十メートル先のグラウンドに降り立ち、生徒たちに向かって吠えた。


「グゥオアアアァァァァァーっ!」


突然の出来事に生徒たちは呆気にとられ、ターナーを凝視している。


「タイガっ!まずいよ、あいつの魔力が増幅してる!!」


パティがそう叫ぶと同時に、俺は全力で走り出した。




生徒たちとターナーの距離は、およそ三十メートル。


すぐに魔法が発動され、100はあろうかという氷柱が空中に発生した。そのまま高速で生徒たちの中心にいたテレジアを襲う。


教職員であるターナーから突然の魔法が発動され、生徒たちは何が起こったのか理解ができていない。フェリやテレジアも含め、動けなかった。


その時、迫る氷柱と生徒たちの間に割り込んだ黒い影。


正面から迫り来る氷柱を見て死を意識したテレジアは、自分の前に突如として現れた広い背中を見た。


「タイガさんっ!?」


両手に警棒を持ったタイガは、後ろの生徒たちを守るように氷柱を叩き落とし始めた。


風撃無双!


凄まじいスピードで、警棒が衝撃波を出して氷柱を相殺していく。テレジアを狙っている分、攻撃が狭い範囲に集約されているので対処がしやすい。


しかし、ここで役得然るべきと考えた俺は、テレジアにまっすぐに向かってくる氷柱のみを残して警棒を止めた。


風擊無双の限界という風に装って。


「タイガ、危ないっ!」


フェリが叫ぶ。


とっさに俺はテレジアの方を向き、その体を抱き締めた。身を呈して守るため・・・という感じに見えるように。


「はぅ!?」


テレジアは息を吐き出しながら驚いた表情で俺を見るが、背中に氷柱をくらいながらも、命がけで自分を守るタイガに感動をおぼえた。


「タ、タイガさん!?」


氷柱の連撃がおさまると、俺はテレジアの顔を見て、「大丈夫?」と囁いた。


「は、はい!?でも、あなたが・・・」


「大丈夫。頑丈だから。」


笑顔でウィンクして、ターナーの方を振り返った。


くぅ~、女の子の体って柔けぇ~。


それに良い香りがする。


タイガはモチベーションがアップした。


「貴様ぁ!許さんぞっ!!」


ターナーが怒り狂っている。


テレジアにちょっかいを出したことが原因か?事故だよ事故。


「何に対して怒ってるのかは知らんが、不意打ちで生徒たちを襲ったことを恥じるべきだろう。それとも、最初からただの外道か?」


額の血管がピクピクしているが、怒りと比例して邪気が増大している。


「ハッ!」


俺に気を取られていたターナーに、パティが後ろから踵を落とす。


脳天にまともに入った。


だが崩れない。


距離をおいたパティは、両手のダガーを構えた。


その時、ターナーの体に異変が生じる。


身体中の血管が浮き上がり、肌が青銅色に染まっていく。


「なっ、何これ!!」


「パティ、離れろ!」


俺が言うと、パティはターナーに視線を向けたまま後退する。


「フェリ、障壁は作れるか?」


「うん!大丈夫よ!!」


「みんなを守ってやってくれ。あと、先生はいますか?」


「は、はい!私です!!」


「スレイヤーギルドのタイガです。生徒のみんなに指示をお願いします。戦う必要はありません。防御と、負傷した人がいたら回復だけに専念してください。」


「わかりました!」


「タイガはどうするの?」


フェリが心配そうに聞いてくるが、あっさりと答えた。


「あいつを倒してくる。」




タイガは知らなかった。


後ろに控える生徒や先生が、尊敬と敬愛の眼差しで自分を見ており、何名かの女生徒がこの黒髪の青年にときめいていたことを。


この日から、フェリの苦悩はさらに加速した。










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