目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第48話 学校に行こう③

食事を終えてリルたちとの会話を楽しんでいると、フェリの級友らしき生徒が来て、俺を紹介して欲しいと言ってきた。


「ギルバート先生、フェリさん、そちらの方とお知り合いなんですの?」


いかにも貴族といった雰囲気を醸し出した、金髪碧眼のお嬢様だ。


後ろには取り巻きのように、二人の女生徒がいる。


「あ、テレジアさん。」


フェリは少し苦手なのか、固い口調でその女生徒の名前を呼ぶ。


「テレジアさんとおっしゃるのですね。私はタイガ・シオタ。ランクSスレイヤーで、ギルドマスター補佐を勤めることになりました。以後、お見知りおき下さい。」


席を立って、貴族風の自己紹介をする。


空気を呼んで、図書館で学んだ作法を使った。場所が場所だけに、さすがに片ひざをついたりはしなかったが、この女生徒は気品が高く、貴族としても上位の家柄だろうと推察されたからだ。


アッシュから知らされていなかったのか、ギルドマスター補佐という言葉に、リルとフェリも驚いた顔をしている。


「まぁ、ご丁寧な自己紹介痛み入りますわ。私はテレジア・チェンバレン。フェリさんとは級友であり、ライバルですの。」


自信ありげな言動だが、テレジアに他意はなさそうだ。


俺のスキル"ソート・ジャッジメント"にも反応はない。


極度に腹黒い人間だったりすると何らかのアラートが鳴るのだが、おそらく彼女は家柄や育った環境で、物言いに高飛車なところが出るのだろう。


チェンバレン家と言えば、王族の末端で、父親は貴族の最高位である大公だ。フェリの反応も、それが原因かと感じられた。


図書館で得た予備知識がなければ、失礼な応対をしてしまってリルやフェリに恥をかかせていたかもしれない。


「異国の出身ですので、私の家名は呼びにくいかと思います。失礼でなければ、タイガとお呼び下さい。」


「わかりましたわ、タイガさん。さすがギルドマスター補佐を勤めるお方ですわね。その紳士的な応対は感銘を受けますわ。」


シオタという名はこちらの言語では発音がしにくい。下手をすると、ショタと呼ばれてしまう。それはこちらも避けたいのが本音だ。


「それにしても、私は社交辞令が苦手なのですがテレジア様は気品に溢れていらっしゃる。本意から、その美しさに眼を奪われてしまいますよ。」


こんな感じにアゲとけば良いかなと思って適当なことを言ってみた。今後のことを考えると、国のトップにいる大公の息女に、好感を植えつけといて損はないだろう。


「まあ・・・」


テレジアは耳まで真っ赤に染め上げて、急にオロオロとしだした。


あれっ?


何かミスったか?


「きょ、今日のところは、初見のご挨拶だけで失礼します。ご機嫌よう。」


そそくさと去って行ってしまった。


リルとフェリからはジト目で見られている。


「何か、言い方がまずかったかな?」


「悪くはないわ。むしろ、そんな応対ができるなんてすごいわ。」


リルの言葉にはなぜかトゲがある。


「わざわざ社交辞令が苦手って言っちゃうから、誤解されたかも。テレジアさんって、いつもあんな感じだけど、家柄がすごいから本音を語るような男性とは免疫がないと思うよ。」


フェリが捕捉してくれるが、さっぱりわからない。


「えっと、つまり、どういうことかな?」


「要約すると、私は建前は申しませんが、あなたはとても美しいと感じていますって、真顔で語った感じね。その前にファーストネームで呼んで欲しいとも言ってるから、求愛に近い表現に感じられたかもしれないわ。」


えっ、マジか!?


貴族の応対って難しい。


「でもテレジアさんらしいわ。彼女は家柄とか関係なく、強い人に興味を持つの。男女関係なくね。」


男女関係なく、というところをなぜか強調してフェリが言う。


「そうなのか?」


「魔法も剣もかなりの腕よ。ランクBクラスが相手なら、それほど苦労せずに勝てると思うわ。」


リルも同調する。


「入学当初はお兄ちゃんにご執心だったけど、結婚したら興味がなくなったみたい。」


それって、強い男が好きってことじゃないのか?どうでもいいが。


「彼女には家が決めた許嫁がいたんだけど、相手があまり強くないから婚約を破棄したって噂もあるの。」


フェリが周りを気にしながら、小声で話すのでそれにならう。


「大公の息女なのに、そんなことで婚約破棄とかありえるのか?」


貴族の息女は、家の繁栄のために婚姻を交わすというのが通例だ。


「大公家ともなると、権威を高める相手というのは家柄ではなく個人の能力が重視されるのかもしれないし、正直わからないわ。ギルバート家みたいに、自由恋愛推奨かもしれないし。」


確かにそうだ。


国王の次に権威を持つ大公家をさらに繁栄に導ける相手となると、王の直系か公爵家くらいになる。家柄ではなく、実務能力が高い人間の方が、将来的には大きなプラスになると考えてもおかしくないのかもしれない。


あれっ?


そうなると、自分にふさわしい結婚相手を探しているということなのか?


それに、ギルバート家は自由恋愛による結婚が推奨って・・・


俺の中での貴族のイメージが少し変わった。


「!?」


会話の途中に、先ほどと同じ悪意を感じた。


反応が強い方を見る。


白衣のひょろっとした男性。


眼があった瞬間に立ち去っていくが、視線はおぼろげなものに見えた。


やはり、悪意の中にわずかながら邪気を孕んでいる。悪意を感じられない者では、気づかない程度のものだが。


「あの白衣の男性が誰か知っている?」


食堂を出て行こうとする男性のことについて聞いてみた。


「白衣?ああ、マイク・ターナー先生よ。系列の大学で薬学を教えている人で、この学院でも非常勤講師をしているわ。」


「薬学って、魔法にも関係するの?」


「魔法による精製術があるのよ。ポーションとかの作成に役立つわ。」


「ターナー先生って、確かテレジアさんの元婚約者って噂がある人よね。いつも寡黙な人だから、あまり目立たないけど。あの先生がどうかしたの?」


「いや、ちょっと白衣が珍しいなと思って・・・」


確証はないので、とりあえず誤魔化した。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?