休み時間終了のチャイムが鳴り、生徒たちが席につく。
「さっきの人、ランクSだって。すごいよね?」
「パティさんがパートナーって言ってた。同じパーティーなのかな?」
何人かが、口々にそんなことを言っている。
タイガだ!
タイガが学校に来ているんだ!!
フェリは級友たちから聞こえてくる言葉を聞き、『早く授業が終わらないかな。』と、始業のチャイムが鳴ったばかりなのに考え出していた。
図書館は知識の宝庫だ。
この世界について、俺が知らないことを補填する資料が数多く揃っていた。
まず、世界地図を閲覧する。
この地域と、魔族の生息地を確認してみる。
元の世界とは位置関係や地形が当然異なる。現在地は、例えるなら欧州の真ん中あたりといえるだろうか。
全体図でいえばユーラシア大陸をもっと東西に広げ、別でアメリカ大陸を小さくしたようなものが二つある感じの地図。
極東といわれる部分は島国だが、日本よりも遥かに大きい国土を持っていた。
次に、世界と今いる国の歴史書関連に眼を通す。
戦争と技術革新が交互に繰り返されるのは、
どこの世界でも同じなのだなと辟易しながら、科学と魔法文化の違いに注目した。
魔法は生活にも密接している。
魔石を動力源に用いた照明や家事道具が普及し、銀行のATMの代わりを果たすシステムなど、その技術力は決して低くない。
逆に兵器などは存在せず、魔法士が大きな火力として戦争の道具となっていた。
争い事があっても大量殺戮兵器という概念がないため、剣や魔法に頼る攻防が一般的なのである。
そういった背景により、諜報活動はエージェントの職務とは異なり、もっぱら政争のためのスパイ活動と暗殺が主なものといえた。
次に、魔法の基本書を開く。
そこでひとつの論理的解釈にたどり着いた。
無力な人類は魔族や魔物という強力な敵に対抗する手段として、魔法を編み出したという記述があったのだ。
魔法は魔族が編み出したものではないのか?
最後の項まで眼を通しても、その疑問を解消することはできなかった。
だが、仮説を立てることは可能だ。
この世界の人間は身体能力がそれほど高くない。そのために、力のある魔族や魔物と対等に戦える武器として、魔法が編み出され発展した。
元の世界に置き換えて考えてみる。
魔族も魔物もいない。
よって、対抗手段となる魔法も当然存在しない。生活の利便性と、対人兵器の機能追及で科学が究められ発展した。
どちらも必要に迫られて環境に適応し、それぞれの道を歩いたということだ。
それを基準に考えると、俺の身体能力が魔族並みなのは重力のせいではなく、もともとの体力が魔族と拮抗しているというだけなのかもしれない。
いや・・・仮説は所詮、仮説。
考えても立証はできない。
今はこの辺にしておこう。
期限が定められたミッションと言う訳ではない。できることだけをやり、ゆっくりとでも情報が集まればそれでいい。
何せ、異世界の文字をすらすら読めるこの状況すら、なぜなのか理解ができていないのだから。
気がつくと正午前だった。
横ではパティが机に突っ伏して昼寝をしている。
耳にふーっと、息を吹きかけてみた。
ビクッと体を震えさせて起きるパティ。
「おはよう、パティ。」
「あ、おはよう・・・」
耳が気になるのか、しきりに触っている。
反応がかわいい。
くせになりそうだ。
「リルと合流してランチに行こう。」
「うん。」
待ち合わせ場所である本館の入口に向かう。
「目当ての本はあった?」
リルはすでに来ていた。
「ごめん、待たせた?」
「いえ、大丈夫よ。」
「そっか。読みたい本が多すぎて、午後も入り浸る予定だよ。」
「読書が好きなの?」
「嫌いではないかな。」
そんな話をしながら、まだ眠そうなパティと三人で本館の奥にある食堂に行く。
名門校だけに生徒数も多く、食堂の広さもかなりのものだ。今は七割近くが塞がっている。
「教職員と来賓の席は向こうよ。」
ランチを頼んで席まで運ぶ。
途中でパティが後輩たちに声をかけられ、久しぶりなので同じ席で食べてくると言って離れていった。
「タイガ。」
名前を呼ばれたので振り向くと、ランチのトレイを持ったフェリがいた。
「フェリも今からか?」
「うん。御一緒させてもらうわ。」
食堂中から視線を感じる。
「あの背の高い人、リル先生やフェリさんとどういう関係なのかしら?」
「黒髪ってめずらしいね。」
「あの人だろ?ギルドの認定官をまとめてフルボッコにしたの。」
そんな感じの声がいろんな方向から聞こえてくる。
と言うか、フルボッコって言ったのは誰だ?お前をボコるぞ。
「もう有名人ね。」
リルがおもしろそうに笑っている。
「ランクSって、そんなにすごいのかな?」
「そうね。大陸中を探しても十人といないわ。」
「ランクAでも騎士団の小隊と対等に渡り合えるというのが共通認識なの。ランクSだと、大隊クラス並みの戦力と言われているわ。」
「マジか・・・」
大隊って、人数で言えば三百から千人規模の戦力だ。それは注目されてもおかしくないかもね。
「今度は千人斬りにチャレンジしてみようかな。」
「「それはやめて。」」
冗談で言ったら二人に本気で止められた。
なんかゴメン・・・