カフェの厨房で忙しく動き回るターニャたちを見つけた。
邪魔にならないタイミングで、話しかけてみる。
「ターニャ、何か手伝おうか?」
「あ、タイガさん。こんばんは。今日はタイガさんの歓迎会だと聞きました。お手伝いをしてもらう訳にはいきませんよぉ。」
「でも大変じゃないか?」
「大丈夫です。もう少ししたら料理をテーブルに並べるだけですし、ギルドマスターから何人かにお手伝いしてもらえると聞いていますから。」
「そっか。何かあったら声をかけてね。」
「はい。ありがとうございます。」
微笑むターニャに手を振って厨房を出た。
「あっ!?タイガ、ここにいたんだ。」
声のする方を見るとニーナがいた。細長いトランクのようなケースを持っている。
「リルに呼ばれて来たよ。あと、蒼龍が仕上がったから持ってきた。」
「おお、マジで!」
「ふふっ、タイガの目が子供みたいに輝いてる。何かうれしいよ。」
近くにいるフェリやパティが、「むむむ・・・」と声にならない唸り声をあげている。
なんだ?
どうした?
「見ても良いかな?」
「うん。早く見て欲しい。」
テーブルにケースを置き、中の蒼龍を手に取る。
人が多いので鞘から出す訳にはいかないな。
「おおっ!それがタイガの装備か?刀・・・いや、大太刀というのか?」
さすがにアッシュは刀の分類を知っているようだ。
「ああ。歓迎会までまだ時間があるから、ちょっと試し斬りしてくる。」
「それなら俺も見たいぞ。」
「あ、私も!」
「もちろん私も行くぞ!」
結局、フェリ、リル、ニーナ、パティたちも見学することになった。
他にも、「おっ、なんだなんだ?」という感じでギャラリーがついてくる。
ホールから人が減ると、ターニャ達の給仕がはかどるのでちょうど良いのかもしれない。
「それで、何を斬るんだ?」
「そうだな・・・」
修練場に出ると、アッシュがそんなことを聞くのでギャラリーを見回す。
ヤバいっ!
奴と目を合わせるな!!
的な感じで、ギャラリーは俺の視線から目をそらしていった。
おっ!
ラルフと目が合った。
じっと見る。
ラルフが見返してくる。
じっと見る。
ラルフが汗まみれになってくる。
じっと見る。
ラルフが意識を失い、その場に卒倒した。
胆力が足りないな、あいつは。
修練場にあった打ち込み用の丸太をセットする。
直径が20cmくらいある。無手による打撃練習用のものだ。
「え、まさかそれを斬るつもり?」
ニーナが心配そうに聞いてきた。
普通に考えると、刀で斬ろうとすると刀身がもたない。
「大丈夫。折ったり刃こぼれさせたりはしない。」
「わかった。タイガの腕を信じる。」
ニーナは腕のいい刀工だが、刀の本当の切れ味を知らないようだ。
そもそも、使いこなせる者がいないのだから当然といえた。
刀は銃弾をも切断する。
鉛でできた拳銃弾なら、素材が柔らかいので大した力もいらない。
鉄製の甲冑や竹、丸太を斬ったことがあるが、刀身に余計な負荷がかからなければ、恐ろしいほどの切れ味でスパッと斬れるのだ。
いかに集中して斬るか。
斬線をぶれさせることなく斬るか。
ただそれだけだ。
刀工が魂をこめて刀を鍛えるのと同じように、剣士は一瞬にすべてをこめる。
間合いを計り、呼吸を整える。
ゆっくりと腰を落とした。
ギャラリーが沈黙する。
抜刀。
居合い斬り。
青い稲光のような線を描き、一瞬後に鞘に納める。
ゆっくりと刀を仕舞い、最後に鍔を鳴らす。
カキィン。
「・・・・・・・・・。」
丸太に変化はない。
「なんだ?はずしたのか?」
「何か青い光が見えなかったか?」
ギャラリーがざわつく。
俺は気にせずに、左手に持った大太刀を目線まであげて鞘を見る。
「さすがニーナ。鞘の調整も完璧だよ。」
振り返って笑顔でニーナに話しかけた瞬間、
ゴッ!
斜めに断ち斬られた丸太が、地面に落ちた。
「「「「「!?」」」」」
その場にいた全ての者が呆気に取られていた。
「ニーナ、刃こぼれがないか確認して欲しい。」
「う、うん。わかった。」
ニーナを安心させるために、刀身を確認してもらう。
「線傷ひとつない・・・すごいわ!」
ニーナは驚愕という言葉がしっくりとくる表情をしていたが、すぐに鍛治士の顔となり満面の笑みを浮かべた。