「これじゃない?」
レザーで作られた小物類が陳列された棚を指して、ニッコリと笑っている。
少女のようなあどけなさと、プロポーションのアンバランスさがフェチにはたまらん。
ああ、だめだ。これでは変態だ。
事情により、前屈みになりながら目当ての小物を見る。
「何か変な体勢。背が高いからそうなるの?」
「うん。そうだね。」
真面目に小物を見ることにした。
機能的には問題がなさそうだし、鞘を入れる大きさも大丈夫そうだ。黒と茶色のものがあるので黒を選んだ。
「肩から吊るす鞘入れも欲しいなぁ。」
「それならこっち。」
再び後ろを歩き、プリプリを堪能する。
「さっきと同じ鞘の大きさなら、これが良いんじゃない?」
肩からたすき掛けにして吊るすタイプの幅広帯剣ベルトを手にしてニッコリと笑う。
その笑顔も素敵だよ。
「じゃあ、これにするよ。」
「うん。」
「ありがとう。」
「タイガのためだもん。」
・・・一瞬考えた。
初対面だよな?
なぜ俺の名前を知っているんだ?
「もしかして、スレイヤーなのか?」
「そうだよ。パトリシア・ギルバート。リルスター・ギルバートの妹です。」
マジか・・・
お尻・・・触らなくて良かったぁ。
「そ、そうなんだ。」
「うん。パティって呼んで。」
確かに目元は似ている気がする。リルの方がもう少し切れ長だが。
「姉妹揃って美人だな。」
そんな感想をもらすと、急に顔を真っ赤にして
「バカっ!」
と、背中をどつかれた。
めっちゃ痛いぞ。
「あ、ごめん。美人なんて、言われたことないからさ。」
ゴニョゴニョと小さな声で謝っている。
照れているのか。
防具屋では他に革手袋と鋼糸を編み込んだというベストとコート、それに山歩き用のブーツを買った。
「細身なのに、そんな重たいのを着込んでも動けるんだ。」
「まあ、力だけはあるからな。」
常人の十倍の力があるとは、さすがに言えない。
歓迎会まで微妙に時間があったので、パティとカフェに入ることにした。
アップルパイとコーヒーを頼む。
「甘いのが好きなの?」
「うん。美味しいからな。」
パティは不思議な目で見ている。
「男の人って、あんまり甘いのを食べないから不思議な感じ。」
パティはイチゴのパフェを美味しそうに食べている。
「そうかな?食べたくても、恥ずかしがってガマンしてるんじゃないか?」
「そうなの?」
「男は見栄っ張りだからね。」
「ふーん、そうなんだぁ」と返事をして、またニッコリと笑った。
話を聞いていると、パティは近接戦闘が得意らしい。だから防具屋にもよく行くのだそうだ。
「店員なみに陳列場所を把握していたから驚いたよ。」
「私は魔導学院を卒業したんだけど、お姉ちゃんみたいに上級魔法は得意じゃないから。身体能力強化とか、回復系は得意なんだけどね。」
「ラルフよりも実力は上?」
「うん、それは比べられたくない対象かな。」
ラルフよ、パーティーから外れてくれ。
「そう言えば、一昨日の模擬戦を見ていたけど、タイガって何であんなに強いの?」
見てたんだ・・・ボサボサの髪。
「何でって言われても、何でだろうな?」
「質問で質問を返すのは、ずるくない?」
プンスカと怒りだした。
この世界では成人している年齢なのだが、こういうところはお子ちゃまに見える。
「大太刀がメイン武器って聞いたけど、あの時に使ってたのは警棒だし、アッシュの炎撃に正面から飛び込んでも無傷だし、タイガってどれだけ強いんだよ。」
リルの妹だから誤魔化してもすぐにばれるだろう。
「内緒の話なんだけど。」
「ちょっと待って、そっちの席に行く。」
パティは俺の隣に座り、体を密着させてきた。胸が腕にあたる。
ああ、柔らかい。
「これで内緒話も大丈夫。」
そう言って、耳を近づけてきた。
これは・・・俺はパティの耳に、「ふぅ~。」と息を吹きかけた。
「ふぁぁぁぁ~」
パティが口を開けて、小さな声で悶えた。
「な、ば、ばかぁっ!何するんだよぉ!!」
顔を真っ赤にしたパティに顔面を殴られた。
かわいいからつい・・・
ごめんなさい。
パティと二人でギルドに入った。
ホールには今日の歓迎会のために、多くのスレイヤーたちがいる。
カフェスペースからフェリが手を振っているのが見えた。
「もう来てたんだ。」
「うん。遅かったね・・・って、何で鼻にティッシュをつめてるの?」
「・・・不慮の事故だ。」
とっさにそんなことを言うと、パティが反論した。
「あれはタイガが悪いよ!ほんとビックリしたんだぞっ!!」
「パティ、俺が悪かった。頼むから、もう忘れてくれ。」
「しょうがないなぁ。そのかわり、今度模擬戦の相手してね。」
そんなやり取りをしていると、リルが話に加わってきた。
「パティもタイガと仲良くなったのね?」
「うん。一緒にお茶してきた。」
無邪気に姉と話すパティを見ながら、フェリは「またライバルが増えた?」と、人知れずつぶやいた。