目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第34話 異世界生活の始まり②

「それじゃあ、あとは泊まるホテルね。何か希望はある?」


「それなりの設備が揃ったホテルが良いかな。」


「じゃあ、こっちね。」


少し歩いて瀟洒な建物に行く。


「ここは必要な設備が全部そろっているし、部屋も静かでくつろげると思うわ。少し高いけれど、ゆっくり休めた方が良いと思うから。」


リルは的確に物事を進め、最良の提案をしてくれる。フェリも社会勉強といった感じで興味津々だ。


「わかった。いろいろとありがとう。」


礼を言うと、「フェリ、街の案内は明日にしようか?」とリルがフェリに確認する。


「うん。タイガもそれで良いかな?」


「ああ、まかせるよ。」


そう言って二人と別れた。




ホテルのフロントに向かう。


若いフロントマンは俺の姿を見て眉をピクピクさせていたが、「いらっしゃいませ。」と普通に声をかけてくれた。


こんな格好でも門前払いされなかったことを考えると、ちゃんとしたホテルなんだろう。


「こんな姿で申し訳ない。スレイヤーなんだが、今日泊まれるかな?」


認定証を提示しながら話す。


「それはランクSの!?は、はい!喜んで!!」


ランクSの威厳はすごいらしい。




部屋に案内されて、室内に入る。


ダブルベットとソファー、執務机があるが、それでも余裕のある広さだった。家具も寝具も安物ではなく、これで一泊一万ゴールドなら満足度は高い。


さっそくシャワーを浴びて、汗と疲れを洗い流す。


髪を洗っていると、何ヵ所かの毛先がチリチリになっていた。爆発で焦げたのだろう。


さすがに気になるので、シャワーを出てから購入した服を着て外出することにした。




ホテルの近くに美容室を見つけたので入った。


毛先のカットと顔剃りをしてもらう。


こうしていると、異世界に来たという違和感はほとんど感じられない。エージェントとしての任務で海外に出向いた時と大差がないのだ。


「お客様の髪、キレイですね。」


茶色の髪をショートカットにした美容師が話しかけてきた。ボーイッシュな雰囲気をしているが、瞳が大きくキュートな感じだ。


胸が大きく、顔を剃ってもらっている時にたまに頭に触れるので、心地いい思いをさせてくれていた。


「そぉ?」


「はい。艶やかな黒髪って憧れます。神秘的で。」


「生まれ育った場所だとこんな髪質が普通だったから、気にしたことはないかな。」


「東の方の出身ですか?」


「うん。逆に無いものねだりで、そんな茶色の髪が羨ましいと感じたりもするよ。似合っているし。」


「えっ、そんなものですかね?」


髪をほめられてうれしいようだ。


はにかんでいる。


「そんなものだよ。」


笑顔で返答しておいた。


胸のお礼だ。


美容室を出た後、繁華街らしき場所が見えたのでそちらに足を運んだ。


もう夕方というより夜だ。


長い一日だったが、ずっと何も食べていないことに気がついた。


腹がへった。


異世界の食べ物って何となく怖い気がするが、これからは日常的に摂取しないといけない。


服のように違和感のないものであることを祈りながら、飲食店を眺めて歩く。


ふと、ガラス張りのバルのような店舗に眼が吸い寄せられた。


見覚えのある二人が、立ち飲みしながら会話をしているようだ。


なぜか、涙と鼻水を流しながら頷きあっている。


なんだ、どうした、ラルフ&元ランクS認定官。


その瞬間、この店は俺の選択肢から消えた。


中の二人に気づかれないように、店の前をそっと離れる。


しばらく行くと、肉の焼けるいい臭いがしてきた。


店先で串を打った肉が炭火で焼かれている。


何の肉だろうか?


とりあえず旨そうだから、候補としてキープする。


旨そうな臭いがしている店は多いが、何の食材を使っているのかがわからない。


店先のメニューを見ても、固有名詞の理解ができない。


躊躇っていても仕方がないが、初めての異世界メシでトラウマを作りたくはないので、慎重になってしまう。


そんなふうにキョロキョロしているうちに、袖を引っ張られた。


「お客さん、何をしているのですか?」


声の方を見ると、さっきの美容師だった。


「あれ、仕事終わったの?」


「はい。帰る途中です。」


ニコッと笑う笑顔が、とても素敵だ。


どうやら三十分以上うろついていたようで、空を見上げるとさらに暗くなっていた。街の灯りで気づかないほど警戒心が解けているようだ。


元の世界では気軽に街をうろつくなんてこともできなかった。


「接客スマイルよりも、今の笑顔の方がいいね。」


「え、違います?特に意識はしていないんですけど・・・」


「俺の勝手な感想だから気にしなくていい。」


店にいる時の方が少し表情が固い気がするが、余計なお世話だろう。


「フフッ、お客さんおもしろいですね。何をしていたんですか?」


「お腹が空いたからご飯を食べたいと思って。美味しそうな店を探してるんだけど、お薦めはあるかな?」







コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?