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第33話 異世界生活の始まり①

「おめでとうございます!ランクSスレイヤーとしての認定完了です。」


模擬戦の後、スレイヤーの登録手続きを完了させるために、ギルドの受付カウンターに戻った。


先ほどのギルド職員が祝いの言葉をかけてくれる。


「ありがとう。」


ギルド内全体からの視線を感じる。


模擬戦を観ていたのか、新しいランクSスレイヤーに興味津々なのかはわからないが、非常に居心地が悪い。


エージェントの習性として、注目は忌避されるものだ。


やめて、見ないで。


石を投げるぞ。


「それでは確認事項を説明させていただきます。今回、ランクSに認定されましたので、支度金は一億ゴールドとなります。」


「へっ!?」


「えっ?」


登録時にランクごとの支度金一覧表を見せられたが、一番下のランクのものしか見ていなかった。


「「・・・・・・・・・。」」


「ランクSの支度金は一億ゴールドですよ。」


「あ、はい。」


予想外の金額で一瞬焦った。思わず敬語になる。


エージェントは月給制だ。


普通のサラリーマンよりは遥かに高い賃金だが、一時金で一億なんてもらうことはない。


税金は大丈夫か、などと思わず考えてしまう。


「次にいきます。タイガさんはギルマスがヘッドハンティングしてきたと言うことなので、特別契約金五千万ゴールドがさらに支給されます。」


「・・・・・・・・・。」


「あの、大丈夫ですか?」


「・・・はい。気にせず続けてください。」


宝くじに当たった人はこんな気持ちなのかもしれない。しかし、待遇が良過ぎる。市況を見ていないが、もしかしてかなりのインフレなのじゃないだろうな。


「加えまして、既に魔族を一体討伐されていますので討伐報酬が支払われます。三億ゴールド追加です。」


「!?」


危ない。


思わず口から魂が出そうになってしまった。


「さらに、今月分の固定給が二百万ゴールド支給されます。」


億のあとだと、二百万が安く感じられるのはなぜだろう。


「合わせて、四億五千二百万ゴールドです。認定証であるネックレスの代金は差し引かれて支給されます。既に認定証と口座はリンク済みですので、すぐに現金を引き出すこともできます。ご用意しましょうか?」


衣食住のために必要だが、確か認定証で買い物もできたな。


「とりあえず、五万だけお願いします。」


「わかりました。それではご用意します。今後、討伐依頼を検索される場合については、掲示板をご覧ください。任務を受けられる場合は、通常はこちらの受付カウンターでの申込となります。」


ギルド職員が何かご質問はございますか?と最後に付け加えてきたが首を振った。


「ではご希望された金額は、口座取扱い専用デスクでお受取りください。こちらが認定証の機能に関するマニュアルとなっておりますので、ご不明点があればお読みください。」


小冊子になったマニュアルをもらい手続きは完了した。




認定証代わりのネックレスに埋め込まれた魔石は、ランクごとに色が異なるようだ。


ランクSの魔石は琥珀色をしていた。


「その魔石は光があたると黄金色に輝きます。最高等級であるランクSの象徴みたいなものなんですよ。このギルドで所持しているのは、ギルマスとタイガさんだけになります。お揃いですね。」


「・・・・・・・・・。」


いや、アッシュとお揃いと言われても別に嬉しくないぞ。


ニコッと笑われても反応に困る。


礼を言って席を立った。


口座取扱い専用カウンターへと向かう。お金をおろして、とりあえず住むところと服を確保したい。


ボサボサの頭と汚れた衣服を着て歩き回るのもいい加減嫌だしな。


異世界とはいえ、エージェントとしての威厳は保ちたい。




口座取扱い専用カウンターの前に着いた。


有人の切符売り場みたいな造りだ。


正面のカウンターの上に50cm‪✕‬15cmくらいのスリットがあり、その上部のガラスには会話用の穴が開いている。そして、カウンターの端には、大きな水晶が置いてあった。


ちょうど、ここを利用する人がいたので、参考のために手続きのやり方を見せてもらった。水晶に認定証をかざすと魔法?により、中の人間に口座のデータが開示されるようだ。


「十万頼む」


利用者である男性が、担当者に金額を伝えて出金が行われた。


自動認証か。


魔法で構築された生活のためのシステムが何気にすごい。


俺はカウンターに近づき、水晶に認定証をかざした。


「五万ゴールドの出金ですね。こちらをどうぞ。」


無事にお金を引き出せた。


わからないことばかりでドキドキする。




さて、どこに行こうかと考えていると、フェリとリルが近くで待っていてくれた。


「タイガ、手続き終わったんだね。」


「うん。なんとか。」


「じゃあ、街を案内してあげる。」


フェリがかわいい笑顔で誘ってくれた。


助かるよ。


「フェリ、今日はもう遅いから、街の案内よりもタイガの生活のための準備を手伝ってあげましょう。」


リルが提案をしてくれる。


時間はもう夕方だ。確かにその方が助かる。


「あ、そっか。そうだね、ごめん。」


「いや、気づかってくれてありがとう。」


「タイガは泊まる所が必要よね。あと、服も買わなきゃ。」


リルが仕切ってくれた。


優しいフェリとしっかり者のリル。異世界に飛ばされたとはいえ、この出会いには感謝をしなきゃな。


二人ともかわいいし。


「まずは服かな。フォーマルも今後必要かもしれないけれど、とりあえずはカジュアルね。」


そう言って、ギルド近くのお店に連れて行ってくれた。


スレイヤーが着るような戦闘系のものはなく、若い人向けのセレクトショップのようだ。驚きなのはイージーパンツやTシャツなどもあり、元の世界のアパレルショップと比べてもあまり違和感がない。


適当に服を見ていると、リルとフェリが数着の服を持ってきた。


「これ、似合うと思うから試着してみて。」


男性の服を選ぶのが好きな女の子は多い。ただし、好感を持っている相手の場合に限るが。


異性としてはともかく、二人には悪いようには思われていないようだ。


俺は彼女たちが選んだ服を試着して、サイズの合う物はすべて買うことにした。


この世界のトレンドなんかはわからないので任せた方が良い。それに、せっかく選んでもらったので、自分の好みに囚われずに着てみようと思ったのだ。


俺が自分たちが選んだ服を買ったことで、二人ともうれしそうにしてくれていた。


認定証を提示して会計を済ませる。ギルドと同様にカウンターに水晶があったので、同じようにかざすだけで済んだ。


インナーや靴を含めて合計12点の買い物。代金は四万ゴールドを少し上回るくらいだったので、やはり1ゴールド=1円換算くらいで良いのかもしれない。


価格価値が何となくわかれば、ボッタクリにあう心配も少なくなる。





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