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第31話 対決!アッシュ・フォン・ギルバート①

「模擬戦終了だ。」


アッシュの声が響くと、周りが歓声に包まれた。


何となく気がついていたが、ギャラリーが増えている。


暇なスレイヤーやギルド職員が観戦に来たようだ。


「あのボサボサ頭の奴すげーっ!」


「認定官って、めちゃくちゃ強くなかったか?俺は等級認定でフルボッコにされたんだぞっ!」


などといった声も聞こえてくる。


そうなのか?


この世界の強さの基準がイマイチよくわからない。


ああ、そう言えば俺、爆発に巻き込まれた格好のままだったな。


ちょっと恥ずかしいぞ。


怪訝な表情をしていると、アッシュが声をかけてきた。


「おつかれ。思った通りやるなぁ。」


「ラルフはいいとして、認定官たちは現役を退いてから長いのか?」


「う~んと、1~2年くらい前までは現役だったはずだぞ。」


そうなのか?


はっきり言って手応えはなかったぞ。


「そんな難しい顔するなって。次は俺とだから退屈はさせないぜ。」


親指を立ててニカッと笑うアッシュ。


まぁ、あまり期待せずに聞いておこう。


「あ、そうそう。今の模擬戦でタイガのランクは暫定Aだから。俺に勝ったらS当確だ。」


ちょっとやる気がでた。


単純だな俺も。


ランクAの支度金は確か1000万ゴールドだったな。


認定証でもあるネックレスの価格価値から考えると、1000万円=1000万ゴールドくらいの換算で良いのかな?


服とか武具が買えるし、とりあえず衣食住は何とかなるか。


そんな計算を難しい顔でしていると、勘違いされたのかフェリが話しかけてきた。


「おつかれさま。やっぱりタイガは強いね。でも兄さんには気をつけて。さっきの人たちが束になっても勝てないくらい強いから。タイガなら良い勝負ができるとは思うけど、ケガはしないでね。」


労いとアドバイスに、思わずフェリの頭に手をやって撫でてしまった。


「えっ?ふぁっ・・・」


「ありがとう、フェリ。」


ニコッと笑うと、フェリはタコのように真っ赤になってしまった。


「お、おい。フェリちゃんがデレてるぞ!」


「他の奴があんなことをしたら死ぬぞっ!」


「シスコンのギルマスが何も言わない・・・いつもなら即治療院送りなのに。」


ギャラリーから不穏な声が聞こえてきた。


そうなんだ・・・気をつけよう。




「さあ、始めようか。」


何かを気にした雰囲気もなく、アッシュが模擬戦に誘ってきた。


模擬戦というルールの元で俺を葬るつもりじゃないだろうな。


頭を撫でるのはセクハラか?


いや、貴族だから不敬にあたるのか。


何にしても、前の世界とは常識が違うようだから自重しなければ。


そんなことを考えながら、アッシュと対峙する。


彼は別人のように雰囲気が変わっていた。


ギャラリーは沈黙し、ひきつった顔の奴が絶賛増殖中といった感じだ。


これは最初から本気で行くべき相手かもしれない。


「さぁ、楽しい模擬戦の開幕だ。」


アッシュの口元には、えげつない笑みが浮かんでいた。


随分と楽しそうだ。


飄々としていたこれまでとは違い、重苦しい気を放つアッシュ。


国内最強スレイヤーの名は伊達じゃないようだ。


「最初に言っとくが、お前は強い。手加減なしで行くから死ぬなよ。」


低い声音で話すアッシュ。


模擬戦が生き死にを気にするようなものだったか疑問だが、こちらも真剣にやる必要があるだろう。


「行くぞ。」


アッシュがそう言った瞬間、突然炎の壁が俺たち二人の間に出現した。


魔法。


詠唱しているようには見えなかったが。


こちらからアッシュは見えないが、気配を読む。


来る。


炎の壁の数ヶ所が盛り上がり、直径二メートルほどの炎の玉が出現して高速でこちらに迫ってくる。


合計六つ。


魔法が効かないのを承知の上での発動か。


なら、考えられる攻撃パターンは予測できる。


俺は右から二つ目の炎の玉に突っ込んで警棒を振るった。


ガッキィーン!


金属同士が衝突。


剣と警棒が弾きあい、火花を散らす。


炎撃を隠れ蓑に使った奇襲。


先ほどの俺の戦い方の応用だ。


俺は弾いた剣の側面──平たい部分に反対側の手に持った警棒を叩きつけた。


ガッ!


鈍い音が鳴る。


そのまま裏拳の要領で回転し、アッシュのこめかみ部分に警棒を振るう。


紙一重でかわすアッシュ。


すぐに間合いを取り、再び炎撃を開始した。


こいつ、戦闘センスの塊だな。


素直にアッシュの攻撃に感嘆する。


一度見ただけの攻撃を模倣するのは簡単なことではない。


タイミングが難しいのだ。


だが、俺も得意なんだよ。


人の物真似が。


足を踏み出し、腰の回転につなげて警棒を振るう。


風撃斬!


そしてその反動からの風撃無双!


アッシュの眼が驚きで見開かれた。





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