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第30話 模擬戦③

「やっぱりタイガは強いね。引退しているとはいえ、相手は元ランクA以上のスレイヤーばかりなのに、六人が相手でも勝負にならないわ。」


リルの言葉を聞くと、フェリはアッシュに質問した。


「兄さんはタイガに勝てるの?」


アッシュはニカッと笑って


「まぁ、作戦はあるさ。」


と言った。




数も減ったし、そろそろまともに打ち合うか。


これまでの四人は、ほとんど体術で倒したといってもいい。


状況に応じたトリッキーな動きで惑わせ完勝したとはいえ、相手は人間だ。魔族が相手だと想定して考えると、無手による攻撃では致命打は奪えない。


武具による攻撃での有効パターンを早く身につけるべきである。


両手の警棒をナイフと見立てて構えた。右手はそのままに、左手は逆手に持ちかえてグリップを握る。


「来い。」


相対する二人を見る眼には、これまでにない真剣な表情が浮かんでいた。


ラルフはもう一人の認定官と目線を合わせつつ、攻撃のタイミングを計っている。


魔法は回復しか使えない。


しかし、その代わりに武芸で攻撃力を高めてきた。


剣術だけならアッシュとも互角に渡り合える。


そう自らが思えるくらいの努力をしてきたつもりだ。こんなわけのわからん奴に敗けるわけにはいかない。


幼少の頃から想いを寄せているフェリが、なぜかこの男には気を寄せている。


異性にはことさら無関心で冷たい態度をとる彼女がだ。


小さい時にはフェリは誰にでも優しく、明るい笑顔を見せていた。今は・・・あまり相手にしてもらえないが、一緒に過ごした時間の長さは他の誰にも負けない。


ここでカッコいいところを見せて挽回するのだ。


頼りがいのある男として。


そんな風に考えて、フェリの方をチラッと見た瞬間だった。


音も気配も感じさせずにタイガが迫ってきていた。


「あっ!」


「ラルフっ!ばかやろう!!」


認定官の声が聞こえたと同時に、首筋に衝撃を受けてラルフの意識は暗転した。


隙を見せたからワナかと思ったが・・・コイツ、本当に使えねー。


ラルフに警棒を叩き込んだタイガは呆れていた。


「ラルフってバカなの?」


フェリは思わずつぶやいてしまった。


圧倒的な力の差を見せつけるタイガに対して隙を見せるなんてありえない。


もし相手が魔族なら即死ものじゃないか。


「「ぷっ!」」


横ではアッシュとリルが吹き出し、笑い転げていた。


五人目離脱。


武具での戦闘シミュレーションをしようと考えていたタイガにとっては、拍子抜け状態だった。


だめだ。


こいつらじゃ話にならない。さっさと倒してアッシュとの模擬戦でやり直すか。


そんなことを考えていると、最後の認定官が気を高めだした。


闘気とでもいうのか、場の空気が圧縮されたような感じになる。


「貴様は強い。だがそこまでだ。これからは本気でやらせてもらう。」


認定官の眼差しは真剣そのもので、これまでとは違う雰囲気を醸し出していた。


「元S級スレイヤーの名に懸けて、おまえを倒す!」


えっ?


俺は耳を疑った。


スレイヤーランクでは、確かS級って最高レベルだったよな。


そうなの?


今までは本気じゃなかったの?


コイツ強いの?


これまでの戦いでランクとかレベルの概念に不信を抱いていた俺は、冷めた眼で認定官を見返していた。


しばらくにらみ合いが続くが・・・あっ!コイツ、眼を反らしやがった・・・


「終わったな。」


アッシュのつぶやきにはワクワクするような色がにじんでいた。


重苦しい圧から逃げるように、認定官は正面から剣撃を加えてきた。


間合いは詰められていない。


「風撃斬!」とか叫んでいる。


技の名前か?


およそ7メートルの距離だが、剣圧による風が空気を裂きタイガに迫る。


おっ!?


中距離からの風撃斬。


元ランクSスレイヤーの認定官が得意とする技。


風属性魔法からヒントを得て体得した技だ。


鋭い剣撃で空気を圧縮し、敵を襲う中距離攻撃。


力ではなく、剣筋のキレの鋭さでしか作り出せない。


ニヤリと笑った認定官の顔が、俺の何かを刺激した。


なんだあのドヤ顔は。


サラッと体をずらして風撃斬を避けた俺は、今の技を分析する。


あれって魔法じゃないよな。


詠唱なかったし。


結構使えるかもしれない。


「くっ!ならば連続ならどうだ!!」


簡単にかわされたのが余程悔しかったのか、認定官は眼を真っ赤にして連弾を放ってきた。


「風撃無双っ!」


おぉ~、名前はカッコいいかも。


ただ叫ぶのは恥ずかしいぞ。


先ほどの風撃斬が連続で繰り出され、襲いかかってくる。


小さな動きでかわしながら技を観察する。


出し方は何となく理解ができた。


あ、この技の弱点がわかった。


直線的な攻撃だから見切りやすいんだ。


俺は相手の攻撃の間隙を見つけて、警棒を地面をすくうように振り抜いた。


そう、あれだ。


警棒で転がっていた石を打ち、認定官の額にあてる。


「あぅっ!」


元ランクSスレイヤーは膝から崩れ落ちた。


完勝。


あまり実りのない模擬戦だと思っていたが、最後の風撃斬と風撃無双?は参考になった。 


牽制くらいには使えそうだから、今度試してみよっと。




こうして、元ランクSスレイヤーが、血のにじむような修練で体得した技「風撃斬&風撃無双」は、ただの牽制技として軽く扱われて模倣されることとなった。















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