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第29話 模擬戦②

一悶着あったが、ようやく模擬戦が開始である。


始まる前に何やらどっと疲れてしまった。


「あっ、今から始まるのか?俺も参加するぞっ!」


来たよ、空気の読めない奴が。


ラルフめ。


「あぁ?ラルフも参加するのか!?でしゃばんじゃねーよ!」


認定官は今だにキレている。


「なんで怒ってるのかわからないが、俺もあいつには思うところがある。一緒にやらせてくれ。」


「だったら、足を引っ張んなよ!」


認定官どもは簡単にラルフの参加を承認した。


おいおい。


「ったく、仕方がないなぁ。じゃあ始めるぞ。認定官五名とおまけのラルフ・ヒットマンによるタイガ・シオタの等級認定、はじめっ!」


アッシュ、お前も空気を読めよ。


おまけはかわいそすぎるだろう。


相手の六人は扇状に広がり、俺との間合いを計りだした。


全員が武具を装備。


片手剣が三人、両手剣が二人、ダガーが一人。


それぞれが独特の構えでリズムを取っている。


エージェントの職務で、敵との近接戦に使用される武器はナイフか無手が多い。


近代社会においては、剣で戦うことなどほとんどないと言っていい。


だが、剣を相手にする時に気をつけないといけないのは、武器ごとの間合いが違うということだけだ。相手の呼吸や各部位の緊張を瞬時に観察し、動きを読むということに関しては何も変わらない。


俺は膝を落とし、右手に持った伸縮式警棒を地面をすくうように振るった。


ガッ!


転がっていた小さな石が警棒に弾かれ、真ん中の認定官の額を打つ。


「あうっ!」


一人目離脱。


力の加減に細心の注意を払い、相手の命を奪わないようにしないといけない。


模擬戦は俺にとって、この世界の人間の実力レベルを知り、自らの力のコントロールを磨く大事な効果検証の時間に位置づけていた。


「マジかっ!?」


「あんなので倒されるなんて・・・」


認定官たちが驚きと焦りの表情を浮かべる。


「ま、魔法で集中砲火よ!」


「だめだっ!あいつには魔法は効かないっ!!」


女性認定官の提案に、ラルフがすぐに否定の言葉をならべる。


「いや・・・効かなくても、意識的な牽制はできるはずだ!」


「よしっ!」


男性認定官が良い判断をする。


確かに魔法でダメージを与えることができなくても、精神的な恐怖心は煽れる。


ただし、一般人が相手の場合に限るが。


炎撃と氷撃。


ラルフ以外の全員が魔法を放ってくる。


だが・・・


俺は斜め前方から迫ってくる炎撃に正面から飛び込んだ。


「「「「なっ!?」」」


炎撃が壁がわりとなり、撃ち手の視界から俺の姿を隠す。


すでに間合いは半分。


魔法は俺に直撃した瞬間に消滅する。


撃ち手の女性認定官は突然俺の姿を視界に捉え、驚愕と混乱に陥った。


そのまま距離を詰め、みぞおちに警棒を握ったままの拳を入れて戦闘不能にする。


二人目離脱。


すでに魔法が効かないと立証済みの俺に恐怖心などないのだ。


この状況を目の当たりにした残りの認定官とラルフは、「こんなめちゃくちゃな奴と模擬戦なんかやるんじゃなかった。」と、すでに後悔をし始めていた。


気絶させた女性認定官の片手剣を手に取り、ブーメランのように投げる。


回転しながら飛ぶ剣は、一番近くにいた認定官の足にあたり、体ごとなぎ倒した。


「ぐわっ!」


至近距離すぎて少し威力が足りなかったが、足止めにはなっただろう。


他の三人は間合いから遠ざかると不利だと判断したのか、一気に距離を詰めて同時に襲いかかってきた。


完全に囲まれる前に、俺は石を投げる振りをする。


拳の中には何もない。


脅迫観念という奴だ。


先ほどの石での攻撃が目に焼きついている場合は、無意識に警戒する。


案の定、もう一人の女性認定官が腕で顔を守る姿勢を取った。


すかさず背後に回り込み、首筋に当て身をくらわせて昏倒させる。


三人目離脱。


そのまま剣を足に投げつけた奴のところまで迫り、立ち上がろうとしている上体に向かって前蹴りを入れた。


胸にまともに入る。


四人目離脱。


ラルフと残りの認定官は、唖然として立ち尽くしていた。


魔物狩りはともかく、対人戦では俺の方が経験値が高いようだ。



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